↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮初め婚姻譚〜偽りの花婿は虎姫を溺愛する暗殺者〜  作者: 夢屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

第29話

 一連の事件を解決させ菊水宮へ戻った一行だったが、琥珀は菊水宮の門をくぐる直前疲労困憊で意識を失い倒れてしまった。

 

 次の日、再び目を覚ました時に目が合った黄花が一筋の涙を流したのに胸を痛めたが、直ぐ様労いの言葉ではなく憤怒のお咎めを浴びることになる。


「全く、外で二度も儀式を行うとは何事ですか!!」


「も、申し訳無い……」


「まぁまぁ黄花殿、こうして皆無傷で無事に戻ったのですから……」


「太旺殿は黙ってなさい!!」


「は、はい!!」


 鬼の形相で睨む黄花に、偶然見舞いに来ていた天下の武将も慄いた。


 黄花の最強説が浮上する。


 琥珀が眠っている間、白音達から話を聞いた黄花は案の定卒倒したようだ。


 琥珀は益々顔を上げられなり、萎縮する様子を見て黄花は大きな溜息をついた。


「宮内で儀式を行うのはここに戦女神や神獣の加護があるからなのですよ。 それだけ姫様が行う儀式は危険と隣り合わせなのです。 もう二度と、このような無茶をなさらぬように」


「はい……」

 

 黄花の言葉は尤もで、儀式を行った後はいつも全身の軋みと疲労で昏睡状態に陥った。


 刀剣顕現の儀式の後も、倒れている琥珀を真瑛が見つけ看病をしてくれたのだ。


 半日ほどで目覚めはしたものの、心配かけた事には変わりない。


「で、旅の方は如何でしたか?」


「……この目で見た民は皆必死に生きておった。 特に真瑛達は……、彼らのお陰で景禍達の罪を暴けたようなものだ。 改めて礼を言いに行きたい」


「ならば今度は私が同行致しましょう。 あの悠晴が殿下以外に夢中になるものが何なのか興味ありますので」 

 

「ふふ、悠晴は更に強くなろうとしておる。 太旺殿もうかうかしてはおれんぞ」


「ハハハ! まだまだ大将の座は譲りませんぞ!」


 息子の功績を耳にした太旺も上機嫌だ。


「さぁさぁ姫様がお目覚めになった事ですし、お召変えしますので太旺殿はそろそろご退室を」


「あぁそうだな。 では殿下、ご自愛くだされ」


「ありがとう」


 そして太旺を見送り、部屋には黄花と琥珀だけになる。 




 すると一時の沈黙が琥珀の心に暗い影を落とした。




「……事件は解決したというのに、何故そのような顔をしているのです」


 黄花の穏やかな声色に琥珀はビクリと肩を上げた。


 本当は気づいている筈だ。


 だが黄花はあえて琥珀の口から本(・)心(・)を聞き出そうとしている。


 琥珀は自分の枕元についてくれている黄花を見上げると、肩を震わせた。


「黄花……、どうしよう。 銀心が……戻ってこないのだ」 

 

 そしてせきを切ったように琥珀は大声を上げて黄花に泣き縋った。


 後悔しないと誓っていても、それを一人で抱えていくにはまだ早過ぎる。


 刀越しではなくその温かい身体に触れたい。


 琥珀の痛々しい泣き声に黄花も目尻を濡らした。


 同時に琥珀を宥めるように抱き締め頭を撫でてやる。


「白音達から聞きましたよ。 戦女神の剣を顕現させたのはご立派でした。 ですが銀心も貴方と同じで身体に大きな負荷がかかった筈です。 嘆く前に、先ずは穢れを落としてやりましょう」


「穢れを落とす……?」


 琥珀は泣いてぐしゃぐしゃになった顔を上げ、目を丸くする。


 そんな琥珀を黄花は愛おしげに見つめ頰を撫でた。


「怨念を斬った刀身を一度清めてやるのです。 長時間人の姿に戻れずにいると魂が完全に玉佩へ移ってしまう可能性がありますし、身体が動くならすぐにやってみましょう」


「……分かった!!」


 琥珀は一筋の光に縋るように大きく頷いた。





◇





 御殿の最奥には、清めの水を祀る斎場があった。


 四方から回廊に囲まれ、その中心には鏡の様に水を湛える大きな浅い池がある。


 普段はここで身を清め、儀式に臨む。


 琥珀は所々白銀の刺繍を施した斎衣風の白装束の上に薄青の外衣を着て、裸足のまま白石を敷いた細道を進んだ。 


(先ずは刃に付いた穢れを落とす……)


 池の前で膝をつき羽織を脱ぐと、琥珀は黄花に教わった通り懐から黒曜石の玉佩を取り出しそれを心月へと変える。


 そして表面の水をすくうように刀を池の水にくぐらせた。


 布越しに刀剣を優しく撫でると、手に僅かな脈動を感じる。


 琥珀は喜びで胸を詰まらせながらも、逸る気持ちを抑え心月を玉佩へと姿を戻した。


 そしてそれをそっと水底へ鎮めた。


(頼む……、頼むから銀心を起こしてくれ!!)


 琥珀は胸の前で強く強く両手を握った。


 暫くすると玉佩は淡く光リ始め、その光が水中に溶けるように広がると指先、髪、肩の線などを結んでやがて一人の男の輪郭を表す。


 そして、それまで凪いでいた水面が揺れた。


 指先が僅かに動き、銀心は薄っすらと瞼を上げたのだ。


「銀心!!」


 美しい紫水晶の瞳と目が合った瞬間、琥珀はバシャン!と池に飛び込み銀心の身体を抱き締め引き起こす。


「カハッ! ……、ゴホッ! ……あ、はぁ……、はぁ……」 


 水の膜を破った様に全身びしょ濡れで息を吹き替えした銀心は苦しげに咳き込む。


 そしてそのずぶ濡れた身体を丸ごと抱え込むように琥珀は銀心を抱き締めた。


 「はぁ、はぁ、……、やっと……、やっと、戻れた……」


 銀心は大きく肩を上げ呼吸を整えつつ、水が滴る前髪をぐいと掻き上げた。


 そして隙間無く身体を寄せていた面からも水を吸い、同様にびしょ濡れになった琥珀の身体に沿うように腕を回した。


「流石に焦ったな……。 ただいま、琥珀」


 その優しい声に琥珀は再び涙を流し、銀心の首に腕を回した。


「おかえり。 ……そなた、意識はあったのか?」


「朧気だがな。 だから景禍の呪怨を斬ったのも知ってる」


「そうか……、随分負担を掛けてすまなかった……」


「大丈夫だ。 こうやってまた、泣いてるあんたを抱きしめてやれるから」


 少し疲れた様子だが、その表情は安堵に満ちていた。


 そして琥珀も冷え切った銀心の身体を温める様に抱き締めながら、甘い幸福感に浸った。


「お務めご苦労でした、銀心」


 その様子を背後から見ていた黄花が、大判の手巾をそれぞれの身体に掛けた。


「あ、ありがとう、ございます……」


「姫様の刀剣になるご決断、そしてそれを無事成し得たのはお見事でした。 合わせて姫様の命も救って頂き、心から感謝致します」


「いえ、俺はただ……」


 深々と拱手する黄花に銀心は戸惑いを隠せない。 


「そう構えずとも良いのですよ。 姫様の刀剣となった以上は、貴方も我々の家族同然ですから」


 『家族』と聞いて銀心は瞳を丸くし、それを見た黄花は笑みを深める。


「まぁその話は後々に、今はしっかり身体を拭いてらっしゃい。 私は扉の向こうで待機しておりますので」


 そう言い残し、黄花は静々と斎場を出てパタン、と扉を締めた。


 途端に銀心は全身から息を抜くように大きく溜息をついた。


「どうした?」


「いや……、まだ身体が浮ついてる」

 

「大丈夫なのか?」


 そう言って琥珀はペタ、と銀心の頬に触れた。


 そしてそのまま何度も両手で頬を撫でる。


 ひんやりとした肌の奥に感じる熱が何とも愛おしい。


「大丈夫だ。 ……だからそんなに顔を撫で回すな」


「良いではないか。 ついでに本物かどうか確かめたいのだ」


 にこにこと満面の笑みを浮かべる琥珀を見て銀心は渋い顔をする。


「そうか、なら俺もあんたが本物かどうか後で確かめるとしようか」


「え?」


「あ(・)の(・)時(・)と同じ事すればあんたが本物の琥珀かどうか分かるから」


 あの時のこと。


 じわじわと蘇ってくる記憶でほぼ間違いないだろう。


「だ、駄目だ! あんなのまたされたら今度こそ息が止まってしまう!!」


「別にいいだろ。 俺だって……、まだ夢見心地なんだから」


 そう言って銀心は顔を寄せ、琥珀の唇に自分の唇を重ねた。


 身体は冷えている筈なのに身体が熱い。

 

 それこそ夢を見ているような心地だった。


「なぁ銀心……、これからもずっと側にいてくれ」


「当たり前だろう。 あんたの命は俺のものなんだから」


 濡れた身体を寄せ合い告げる思いは仮初めではなく、二人を本物の夫婦へと変えた。


 


 



最後まで読んで頂きありがとうございました。

少しでも「良かった!」と思ったら↓から評価やブックマークなどをつけて頂ければ幸いです。

励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。