12 夜の車窓から
会場を抜け出したアリシアは、なおも走り続けていた。もうこのあたりまで来れば安心だろう。だが、都会の喧騒の中で、Tシャツにショートパンツ姿のブロンドの女性というのは、なんとも場違いな格好だ。それでも、ファイティング・コスチュームになってなかっただけ、まだましだった。
とにかく、ホテルに戻ろう。
アリシアは通りを走るタクシーを捕まえ、すぐに車へと乗り込んだ。
「FJホテルまでお願いします」
タクシーの窓から見える夜の街。行き交う人々の忙しない動きや、楽しげに会話を交わす人々――賑やかな街並みが広がっている。
少し落ち着いてきたアリシアは、先ほどの試合(?)を思い出す。もし、あのまま逃げ出さずに闘っていたらどうなっていたか。レスラーとしては、やはり惜しい気もする。もっとも、そうしていれば、今頃、こうして夜景を眺めるような余裕はなかったはずだ。まあ、試合はいつでもできる。少なくとも、以前のように安易に刺激を求める気持ちはない。過ぎたことは振り返らない——それがアリシアの流儀だ。
それよりも問題は、観客の前で口にしてしまった「ニッポンのイケメン」のことだった。
「あ~、なんで……なんであんなこと言っちゃったのよ! いくら焦ってたからって、もっとましな言い訳があったでしょ~!?」
アリシアはブロンドの髪をかきむしりながら、先ほどの自分を思い出して身震いした。
リング上では「閃光の女王」として恐れられている自分が、あんな甘ったるい、媚びるような声を挙げていたなんて——恥ずかしさで顔が熱くなる。
これから、どんな顔でリングに立てばいいのだろう。
「マネージャーに頼むにしても、ニッポンのイケメンの情報は、桜井美和以上に難しそうね……」
夜の街は美しい光に包まれていた。アリシアの日本の旅は、もう少し続きそうだ。




