1 烈火の女王
女子プロレスラー、アリシア・ストーンは、ボブショートのブロンドを揺らす世界屈指の実力者である。背は高いほうではないが、無駄のない小柄な体に凝縮された筋肉は、瞬発力と持久力を極限まで両立させている。
リング上での彼女は猛火のように攻め立てる。だが、その攻撃は決して感情任せではない。相手の呼吸、間合い、力の流れを読み切り、先の展開を組み立てながら一手一手を積み重ねていく――その精度の高さが、数々のタイトルをもたらしてきた。
攻撃、持続、判断、そのすべてが高い水準で成立した、完成されたレスラー。
「閃光の女王」――それが彼女の綽名だ。
その実力は戦績が雄弁に物語っている。「ワールド・クイーン・チャンピオンシップ」「グローバル・ドミネーション・タイトル」「インフェルノ・クラウン(炎の王冠)」の三冠を制覇するという、これまで誰も成し得なかった偉業を達成しているのだ。新聞には「アリシア・ストーン、またもタイトル奪取!」といった見出しが大きく躍ることも少なくなかった。
入場時の彼女は、白い無地のTシャツに赤のショートパンツというラフな装いだ。まるで練習生のような簡素さだが、Tシャツもパンツも一切の乱れがない。むしろ、あえて装飾を排したその姿こそが、女王としての風格を際立たせていた。
リングに上がれば、Tシャツとショートパンツを脱ぎ、赤のハイレグタイプのリングコスチュームへと変わる。動きに無駄はなく、確実な局面だけを狙って攻撃を重ねていく。彼女の試合は、まるで最初から勝利まで設計されているかのようで、一つの完成された物語を描いていた。
特にケアリー・カーンとの一戦は、アリシアの数々の防衛戦の中でも特に有名なものだ。体格差は歴然だった。終盤、アリシアは豪快な投げを受け、マットに叩きつけられる。観客の誰もが勝負あったと思った。
ケアリーはとどめを刺すべく、リングロープ最上段へと上った。巨体が大きく揺れる。
「押しつぶしてやるー!」
だが次の瞬間、悲鳴にも似た声を上げたのはケアリーの方だった。倒れていたアリシアが、とっさに膝を突き上げていた。落下してきたケアリーの腹部へ、その膝が深々と突き刺さる。 突然の痛みにのたうちまわるケアリーに、アリシアが飛び掛かる。
「巨体のあなたでも、腕くらいなら締め上げられるわ!」
「ぐああっ! 離せぇーっ!」
ケアリーの絶叫もむなしく、3カウントが数えられる。アリシアの五度目の防衛戦がこうして終わった。




