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「愛する君を殺したくない」と王子様から断罪されたので、大人しく殺されに行ったら、私の愛が重すぎて呪いが壊れました  作者: ましろゆきな


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第三話:【聖女視点】最高の食材(いけにえ)として仕上がるために。エステ三昧の追放生活

 辺境の離宮――。そこは追放先という名の、甘やかな肥育場でした。

 窓の外には、ギルバート様が私のために植えさせてくださった「死の香り」を孕む白百合が咲き乱れ、室内には最高級の薔薇の香油が立ち込めています。


「アメリア様、お肌の調子はいかがですか? 殿下から、指一本滑らぬよう入念に手入れせよと厳命されておりますの」


 侍女たちが跪き、私の全身に温かなミルクと蜂蜜のパックを施していきます。

 私は瞳を閉じ、自分の内側から溢れ出す「生命の熱」を感じていました。


 私の体は、ギルバート様という「捕食者」に捧げられるための、一編の詩でなければなりません。


 彼の硬質な肉体が「鋼」であるなら、私の肉体は、その一撃を余すことなく飲み込む「純白の底なし沼」。


 聖女の衣に隠されたその肢体は、禁欲的な教えとは裏腹に、驚くほどたわわな豊穣を宿していました。

 薄い皮膚の下に透ける、白磁のごとき滑らかな曲線。

 それは、飢えた獣がその牙を立てた時、最も深い悦びを与えるためにあつらえられた、瑞々しくも重厚な柔肉の重なりです。


(ああ、見てくださいませ、殿下……。貴方の指が食い込むのを待っている、この柔らかな肩を。貴方の剣を待ちわびている、この豊かな胸元を)


 かつて彼が「人間は血が流れるから温かい」と言ったあの日から、私の肌は彼に触れられるためだけに磨き上げられてきました。

 乾燥など許されません。

 彼の唇が触れた時、吸い付くような湿り気を帯びていなければ。

 彼の拳が叩きつけられた時、その衝撃を愛おしく包み込む弾力を持っていなければ。


「……次はドレスを。例の『純白の繭(ウェディングドレス)』を持ってきてちょうだい」


 私が立ち上がると、たっぷりと施された香油が、肌の上を真珠の雫となって滑り落ちます。

 差し出されたのは、最高級の光沢を放つシルクのドレス。

 一見すれば純潔な花嫁そのものですが、そのデザインは私の「理想の死」のために特注したものでした。


 デコルテは、心臓の鼓動が目視できるほど深く、大胆に。

 首筋は、彼の太い指が最も絡みつきやすいよう、遮るものを一切排除して。

 そして裾は、私が血の海に沈んだ時、そのあかを吸い上げて、世界で最も美しい大輪の薔薇へと変貌するよう、計算し尽くされた純白。


「素晴らしいわ……。これなら、ギルバート様も迷わず私を『収穫』してくださるわね」


 鏡に映る私は、聖女の清らかさを纏いながらも、その奥底に「極上の獲物」としての凄絶な色香を湛えていました。


 愛しいギルバート様。

 貴方が鎖を引きちぎり、獣の咆哮を上げて私を壊しに来てくださるのを、私はこうして最高の状態で待っておりますわ。


(さあ、早く。私のこの温かな『生』を、貴方のその冷たい『殺意』で、永遠に染め上げて……!)


 その頃、離宮の外では。

 アメリアのあまりの美しさに、「これこそ殿下への変わらぬ愛の証だ!」と勘違いした護衛の騎士たちが、もらい泣きをしながら彼女の帰還(死出の旅)の準備を進めていたのでした。


 ◇◇◇


「アメリア様……っ、本当によろしいのですか?」


 離宮の寝室。鏡の前で、侍女たちが震える手で私のドレスの紐を締めていきます。

 彼女たちの瞳には大粒の涙が溜まり、鼻をすする音が絶えません。無理もありませんわ。婚約破棄され、殺害予告(愛の告白)を受けた相手の元へ、あえて花嫁衣装で向かうのですから。


「ええ。これほど胸が高鳴る装いは、人生で初めてですわ」


 私はうっとりと鏡の中の自分を見つめました。

 先ほどまで施されていた香油によって、私の肌は吸い付くような潤いを帯び、豊穣な果実のように熟しきっています。


「なんて、なんて健気な……! 殿下にあれほど酷い仕打ちをされながら、それでも殿下との愛を信じて、花嫁として散る覚悟でいらっしゃるなんて……!」


 侍女の一人が耐えきれず泣き崩れました。

 あら、少し勘違いをされているようですけれど、まあ似たようなものですわね。

「殿下の愛(殺意)を信じている」のも、「花嫁(供物)として散る覚悟」なのも事実ですもの。


「さあ、ベールを。……この薄布をギルバート様が剥ぎ取り、その奥にある私の『絶望(歓喜)』を暴いてくださる。その瞬間を想像するだけで、お肌が上気してしまいますわ」


「あああっ! アメリア様! なんという崇高な愛欲……いいえ、自己犠牲の精神!」


 侍女たちは私の言葉を「死を覚悟した聖女の熱情」と脳内変換し、もはや拝むようにして私をドレスに押し込みました。

 深く切り込んだ胸元から覗く、溢れんばかりの柔肉の膨らみ。

 それは、ギルバート様の大きな手が食い込むための「余白」であり、彼の牙を受け止めるための「クッション」。

 彼女たちはそれを「殿下への一途な想いが溢れた姿」だと信じて疑わないのです。


 離宮の門を出ると、そこには白銀の甲冑に身を包んだ騎士たちが、沈痛な面持ちで整列していました。


「……アメリア様。本日、貴女様を王都の教会(祭壇)までエスコートする名誉を授かりました」


 騎士団長が、重々しく跪きます。

 彼の瞳には、主君(ギルバート様)の狂気に翻弄される聖女への、狂信的なまでの同情と崇拝が宿っていました。


「道中、何者が立ち塞がろうとも、貴女様の『最後のお願い』を完遂させるべく、我ら命に代えてもお守りいたします!」


「まあ、頼もしいこと。ええ、私を無事に彼の元へ届けてちょうだい。彼が待ちきれなくなって、私の首を狩りに来る前にね」


 私がにっこりと「聖女の微笑み」を浮かべると、騎士たちは一斉に剣を抜き、天に掲げました。


「「「聖女アメリア様に、永遠の栄光を!!」」」


(ふふ、栄光……。ええ、真っ赤に染まった純白のドレスで、彼の腕の中で果てる。それ以上の栄光が、この世にあるかしら?)


 こうして、「悲劇のヒロインを死地へと送る」という悲壮な決意を固めた騎士団に守られ、「最高に鮮度の良い状態で食べられに行く(殺されに行く)」獲物ヒロインが、優雅に馬車へと乗り込んだのでした。

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