第十二話(番外編④):既視感の連鎖。兄たちは天を仰ぐ
1. 謁見の間の「衝撃」
帝国を訪れた二人の兄王子は、重厚な扉が開かれた瞬間、言葉を失いました。
そこは、厳格な法と秩序が支配するはずの帝国の中心。しかし、玉座に座る皇帝アルリックの膝の上には、当然のような顔をしてリリアナが収まっていたのです。
「……あ、失礼。……まだ、休憩の最中だったか?」
長男が引きつった笑顔で問いかけると、アルリックは悪びれる様子もなく、リリアナの細い腰をさらに強く引き寄せました。
「いや、構わん。……だが、見ての通りリリアナが私から離れようとしないのでな。このまま謁見を続ける」
(いや、どう見ても陛下が離してないだけでしょ……)
兄王子たちは、同時にそうツッコミたくなりましたが、ぐっと堪えました。
何より彼らを戦慄させたのは、その光景に漂う強烈な既視感。
仕事の合間に、母アメリアを膝に乗せて「これがないと効率が上がらん」と真顔で言い放っていた父ギルバートの姿が、目の前の細身の皇帝に完全に重なったのです。
◇◇◇
2. 「母上」の影を見る
その後、ようやく皇妃としての体面を整えたリリアナとの、兄妹水入らずの茶会。
しかし、そこでリリアナが見せた微笑みは、もはや「可愛い妹」のそれではありませんでした。
月光を透かすような白磁の肌、どこか潤んだ瞳、そして一挙手一投足から溢れ出す、男を狂わせるような「聖女の毒」。
「……お兄様、そんなに私をまじまじと見て、どうされましたの?」
「いや……。リリアナ、お前。……なんだか、どんどん母上に似ていくな……と思ってな」
次男が感慨深げに呟くと、リリアナはふふっ、とアメリアそっくりの「すべてを見透かしたような」笑みを漏らしました。
「あら、光栄ですわ。……陛下も仰ってくださるの。『君は、私の魂を捕らえるための、甘い檻だ』って。……ふふ、嬉しいですわね、お兄様♡」
その瞬間、兄たちは確信しました。
帝国は、軍事力でも経済力でもなく、「アメリアから受け継がれた房中術」によって、完全に陥落したのだと。
◇◇◇
3. 国の「平和」な日常
一方、王国では。
「……リリアナ! 帝国でいじめられてはいないか!?」
と、今にも帝国へ攻め込みそうな勢いで悶絶しているギルバートを、アメリアがそっと抱きしめていました。
「陛下、大丈夫ですわ。……あの子、私の娘ですもの。今頃きっと、あちらの陛下も『幸せな地獄』を味わっていらっしゃいますわ」
アメリアの豊かな胸に顔を埋められ、ギルバートは一瞬で毒気を抜かれ、幸せそうに溜息をつきました。
「……ああ、アメリア。……やはり、君がいないと私はダメだ」
「ふふ、存じておりますわ。……さあ、リリアナのことはお兄様たちに任せて、私と『続き』をいたしましょう?」




