第一話:婚約破棄の咆哮は、私への甘い囁きでした(※ヒロインの主観です)
王立学園の卒業パーティー。
華やかな旋律が流れる大ホールが、一瞬にして「処刑場」へと変貌しました。
「アメリア・ローズ……ッ! 貴様との婚約は今この瞬間を以て破棄する!!」
怒号と共に、凄まじい魔力の奔流がホールを駆け抜けました。
その中心に立つのは、私の婚約者であり、この国の第一王子、ギルバート殿下。
「ひっ……!?」
「で、殿下、落ち着いてください!」
周囲の令嬢たちが悲鳴を上げて逃げ出し、屈強な騎士たちでさえも、その圧倒的な「殺気」に当てられて腰を抜かしています。
無理もありません。今の殿下から放たれているのは、もはや人間が発していい熱量ではありませんでした。
ミシミシ、と音を立てて大理石の床にヒビが入ります。
殿下が握りしめているバルコニーの手すりは、そのあまりの握力に飴細工のようにひしゃげていました。
(……ああ。なんて、なんて素敵なの……ッ!)
私は、震える膝を必死に押さえつけていました。
恐怖からではありません。
ドレスの下で、私の全身が歓喜に、そして情熱的な疼きに震えているのです。
見てください、あのギルバート殿下の瞳を。
真っ赤に充血し、獲物を喉笛から食いちぎらんとする飢えた獣の眼差し。
私以外の有象無象なんて視界に入っていない、純度100%の殺意。
――いいえ、あれは「愛」ですわ。
私を愛しすぎるあまり、壊してしまいたい、殺してしまいたい、永遠に自分のものにしたい……。
魔女の呪いによって増幅された、彼の「重すぎる愛の波動」が、聖女である私の肌にビリビリと突き刺さります。
「……アメリア! 聞こえなかったのか! 今すぐ俺の前から消えろ! 二度と、その面を俺に見せるなッ!!」
殿下が一歩踏み出すと、パリンッ! とホールの窓ガラスが全て粉砕されました。
周囲はパニックです。
「殿下が狂った!」「聖女様が殺される!」と叫び声が上がっています。
けれど、私には分かってしまうのです。
殿下がああして床を砕き、窓を割り、手すりを壊しているのは――。
(私を殺してしまわないように、必死に衝動を外へ逃がしていらっしゃるのね……!)
「消えろ」という言葉は、「逃げてくれ、このままでは俺が君を壊してしまう」という悲痛な愛の叫び。
「顔を見せるな」という言葉は、「君を見たら、もう理性が保てない」という切実な告白。
ああ、ギルバート様。
そこまで、そこまで私を激しく求めてくださるなんて……!
私は、恐怖に顔を歪ませている(と周囲には見えるであろう)表情のまま、うっとりと瞳を潤ませました。
「……謹んで、お受けいたします。殿下」
私は、最高にエレガントなカーテシーを捧げました。
顔を上げた瞬間、殿下と視線がぶつかります。
彼の瞳が、一瞬だけ絶望に揺れたのを私は見逃しませんでした。
(大丈夫ですよ、ギルバート様。貴方の愛、しかと受け取りましたわ)
「私、今すぐここから立ち去ります。……ええ、貴方様の思い通り、二度と皆様の前には現れない場所に、閉じ込めていただきに参りますわ」
「――っ、早く行け!! 衛兵、この女を連れて行けぇッ!!」
殿下は、まるで私を突き放すように、あるいは自分を抑える限界が来たように、背を向けて叫びました。
その肩が、小刻みに震えているのが分かります。
(ふふ……待っていてくださいね、殿下。追放先で、貴方に一番綺麗に殺していただけるよう、私、自分を磨き上げておきますから)
阿鼻叫喚のホールを後にしながら、私は口元を扇で隠し、我慢しきれずクスクスと笑い声を漏らしました。
さあ、忙しくなりますわ。
最高の「死に装束」を準備しなくては!
最後までお読みいただきありがとうございます!
本日より開幕しました、新作中編『愛する君を殺したくない』。
日間ランキング85位をいただいている『君を愛してる』とはまた一味違う、「重すぎる愛の力で世界の理(呪い)をバグらせる」物語をお届けします。
殺したいほど愛されたなら、喜んで殺されに行こう。
そんな狂った愛を貫くヒロイン・アメリアの決断の行方、そして呪われた王子ギルバートとの「共依存」の結末を、ぜひ最後まで見届けてください。
本作は、【2/22(日)】の完結まで毎日22:50頃に更新予定です。
本編完結後には、二人の愛をさらに斜め上に継承した娘が、他国の冷徹皇帝を母譲りの「秘術」で陥落させる番外編まで、ノンストップで駆け抜けます!
もし「この重い愛、嫌いじゃない!」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、呪いも腰の痛みも吹き飛びます……!




