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第26話(2)無双の力 -コーキとポラリス-

数分後 冬城時計塔


 幸紀は、ひとり悠々と時計塔へ歩いていく。時計塔が高く感じるようになるほど、その周囲にいる悪魔達の顔ひとつひとつがはっきりしてくる。


(ふん。急場凌ぎで作った下級悪魔どもか…間抜けな顔をしている…テルギアも、こんなもので俺を止められるとでも思ったのか)


 幸紀は片手一本で刀を回しながら、建物に挟まれた細い道をまっすぐに歩いていく。そんな幸紀に気づいた悪魔達は、狭い道を埋め尽くすように、圧倒的な数で幸紀のもとへ殺到し始めた。


「何度も言わせるな。いくら数が居ようと、俺を止めることなどできん」


 幸紀は冷たく言い放ちながら、殴りかかってくる悪魔の先頭集団を、ひと太刀で斬り裂く。

 彼の刀の一振りで、集団で迫っていた10体ほどの悪魔が消し飛ぶ。

 しかし、悪魔達も怯まず、とめどなく幸紀へ雪崩れ込んでいく。


「シネェエエァアア!!」


「くどい」


 幸紀は目の前に来た悪魔を、縦に一刀両断する。


 彼の太刀筋に沿って、霊力の巨大な衝撃波が発現すると、大地を裂きながら進んでいき、立ち塞がる悪魔達を切り裂いていく。


 衝撃波がある程度進み、爆発する。


 幸紀の目の前に道が開け、先ほどまで悪魔達で埋め尽くされていた時計塔の周りに、少しの空白が生まれるのと同時に、わずかながら、時計塔の入り口の扉が見えた。


「あそこが入口か」


 入り口までの距離はまだ300メートル以上はあるように見える。


 だが、幸紀はそれを承知で刀を持ち直し、次の瞬間、霊力を込め、扉に向けて投げつけた。


 刀は文字通り一直線に空を飛んでいき、その軌道を遮ろうとする悪魔を逆に黒い煙へ変えながら、時計塔の入り口である重い扉に突き刺さる。


 直後、幸紀の刀は、青白い光を放ちながら爆発し、扉とその近くにいた悪魔達を丸ごと消し飛ばした。


 幸紀から時計塔の中まで、一本道が出来上がる。幸紀はわずかに口角を上げた。


 切り拓かれた道を、幸紀は堂々と歩いていく。


 当然左右から悪魔達が襲いかかってくるが、幸紀は見向きもせず、最低限の体の動きだけで回避し、逆に敵同士で相打ちにさせていく。


 やがて、正面に巨体の悪魔が立ち塞がり、幸紀に棍棒を振り下ろそうとするが、幸紀は歩みはそのまま、棍棒が振り下ろされるのに合わせて身を翻し、霊力で再び刀を作り出し、巨体の悪魔の首を切り飛ばした。


 扉までの道を塞ごうとする、わずかな悪魔も、幸紀は片手一本で乱雑に斬り捨てながらついに時計塔の中に入る。


 目の前に見えるのは最上階へ続く螺旋階段。幸紀は階段の行先を眺めつつ、背後から襲ってきている悪魔を見向きもせずに刀であしらっていた。


(テルギアはこの上か)


 幸紀はそれだけ認識すると、自分の足に霊力を溜め、大きく跳躍する。


 最上階への入り口にあるのも、やはり重々しい扉。幸紀はその扉の前に、槍を構えた赤い悪魔がいることに気がついた。


「貴様、コーキだな!ここはとおさ…」


 威勢よく語るその悪魔に対し、幸紀は空中で軌道を変え、突進する。悪魔の首を斬り飛ばしながら、同時に扉ごと細切れにするのだった。


「さて、そろそろか」


 幸紀は一度手を止め、踊り場の窓から外の様子を見る。幸紀の開いた道をなぞるように、バスが時計塔の入り口に停まり、そこから日菜子などがおり、時計塔の入り口を守る。


 幸紀はそれだけ確認すると、自分が細切れにした扉の先へ向き直る。短い廊下の先に、なぜかまた扉があった。


 特に気にせず、幸紀は先へ進む。


 奥にある扉を開けようと踏み込んだその一瞬、幸紀の変装が解け、黒い悪魔の姿が露わになったが、すぐに人間の姿に戻った。


(…霊力抑制フィールドの一種か…?不発のようだが…)


 幸紀は周囲を警戒するが、悪魔達の姿もない。背後から迫るはずの悪魔は日菜子達が食い止めているのだろう。それだけ確認した幸紀は、再び扉を斬り捨て、部屋の中に入る。


 その部屋は薄暗いが広く、奥にはスポットライトのように照らし出された指揮官用と思われる少し高い段と、椅子が見える。


 だが中には何もいない。


「テルギア。姿を現せ。その首、もらいにきた」


 幸紀は部屋の中へと進みながら声を張る。だが返事は聞こえず、幸紀の声だけがこだまする。


 背後から殺気。


 幸紀はそれを察知すると、振り向き様に刀を振るう。


 刀が金属音を打ち鳴らし、攻撃を弾いたのを感じると、幸紀はさらに二度、刀を振るった。


「うぐぁあああ!!あああああ!!」


 男の悲鳴と、剣が落ちる音が聞こえる。幸紀が改めてその正体を見ると、両腕を切断されたポラリスがそこに倒れていた。


「貴様は…ポラリスか」


「ちっくしょおお…!痛てぇ!!くそぉっ!結局これか!!」


 幸紀が尋ねるのをよそに、ポラリスは切断され、黒い煙が吹き上がる両腕を見ながら悲鳴を上げる。構わず幸紀はポラリスに刀を向けた。


「テルギアはどこだ」


「うおお…痛てぇ…!」


「質問に答えろ、さもなくば」


 幸紀は刀を握り直し、ポラリスの体に突き立てようとする。だが、刀が突き刺さろうとした寸前、幸紀はその手を止めた。


「…どうした?殺さんのか?」


 ポラリスはニヤけながら幸紀に尋ねる。幸紀は刀を持っていない方の手でポラリスの服を突然引き裂く。

 服が破かれて見えるようになったポラリスの胸には、何かの機械のようなものが取り付けられていた。


「…貴様の心臓と連動した爆弾か。下手に斬らなくて正解だったようだ」


「…バレたか。つまらんなぁ….」


 ポラリスはそう呟くと、ゆっくり立ち上がり、ニヤけながら幸紀の周りを歩き出す。幸紀は刀を向けながら警戒した。


「落ち着け。俺はもう何もできん。テルギア様もここにはおらん。貴様も俺を殺したところで何の得もない。星霊隊はそう時間をかけずにここを落とすだろう」


「冷静だな。わかっているなら俺を倒せばいいだろう」


「無理を言うな。フェルカドや邪族の精兵たちが生きていたならまだしも、俺だけでは貴様に勝てんよ、東雲幸紀」


 ポラリスはそう言うと、ニヤリと笑って幸紀の方に向き直った。


「だから俺は降参する。貴様が知りたいであろう、テルギア様の居場所も教えてやる」


「ほう、なら早く言え」


「それは無理だな」


「時間稼ぎのつもりか」


「いいや、今は本当にわからんのさ。だが、もうしばらく…あと15分もすれば…お前にもテルギア様の居場所がわかるぞ。嫌でもな」


「だったら貴様を生かしておく必要はない」


「だから殺す?いいぞ、やればいい。俺の爆弾は、貴様を殺せないだろうな、東雲幸紀。だが星霊隊はどうかな?突然この拠点丸ごと消しとばすような爆発が起きたとして、避難が間に合うわけがないよな?お前はともかく、下にいる星霊隊の女達は死ぬぞ?」


「俺があの女どもの命を気にするとでも?」


「するだろうよ。お前にとっては重要な戦力だ。それに…いや、これ以上はよしておこう。さ、殺すか?」


 ポラリスは余裕のある表情を崩さず、切断された両腕を広げる。一方の幸紀は刀を向けながら、ポラリスの余裕の裏側を考えていた。


(こいつには何か裏がある…俺をここに足止めして、時間を稼ぐ必要のある何かが…だが、一体何のために…?)


 ポラリスの意図が読みきれない幸紀は、ポラリスに刀を向けたまま動かない。


(…敢えて、乗ってみるか)


 幸紀はそう決めると、刀を下ろす。ポラリスは意外そうに眉を上げた。


「ほう?斬られると思ったが」


「貴様の命はいつでも取れる。それ以上に俺はテルギアの居場所が気になる」


「ふはは、お優しいことだ。ではあと15分、待ってもらおうか」


 ポラリスは小さく笑い、幸紀にそう宣言する。幸紀は鋭く睨みつけながら、ポラリスの動向を見張っていた。


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