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第22話(1)車内のふたり-水咲とキララ-

前回までのあらすじ

 悪魔軍の拠点を目指し、北上する途上、避難民と合流した星霊隊。避難民の中には、爆弾を仕掛けられた上で蘇生させられた璃子の親友がいたが、璃子の活躍により一切の被害はなく解決する。

 星霊隊は一部のメンバーに避難民の誘導を任せ、本隊は北上を続けていくのだった。



6月25日 15:00 愛森県 青芝あおしば


 太陽が西に傾きつつある頃、車も走っていない荒廃した町の大通りのなか、1台の乗用車だけがそこを走っていた。


「さぁ!ぶっ飛ばしていきますわよ!皆様のいるところを目指してノンストップ、ノンブレーキですわ!!」


 その乗用車の運転席でハンドルを握るのは、縦ロールにした金髪で、メイド服を着た、西谷キララだった。彼女は明るく高い声で宣言すると、その言葉通りに車を運転し、路上に放置された車などをブレーキも踏まずに避けていく。


「わたくしの運転、なかなか上手ですわよね!?褒めてくださってもいいんですわよ?」


「こんな運転、人生で初めてだわ。助手席の人間を殺す才能あるわよ、あなた」


 冗談っぽく言うキララに対し、助手席に座る濃紺の髪の女性、星海ほしうみ水咲みさきは、退屈そうに頬杖をつきながら皮肉を言う。

 自分の運転技術をバカにされたキララは、目つきを少し鋭くしたが、すぐに笑顔を作った。


「わたくしだって、基本は安全運転がモットーですわ!でも、今回は、早めに幸紀さまたちのチームと合流したいから、わたくしの超絶テクニックをお見せしてるんでしてよ!」


「…そう。にしても、なんで私、ここにいるのかしら」


「わたくしと一緒に避難民を護送し、近くの国防軍の部隊に引き渡したからですわ!」


「そうじゃなくて、なんで選ばれたのが私とあんたなの、って話」


「知りませんわー!」


「羨ましいわ。私もあなたくらいの知能なら人生楽しかったでしょうね」


 明るく、通る声で答えるキララに対し、水咲は皮肉っぽく呟く。言われたキララは、ムッとして真面目に話し始めた。


「わたくしたちが補給班だからですわ。国防軍から補給も受け取りつつ、避難民を護衛、いざとなれば戦闘。同じ班の雪奈さまは霊力の過剰使用で休憩中、望さまは足に不安がある。そこでわたくしたち!というわけですわ!」


「思うのだけれど、もう少しマシな人間はいなかったのかしらね。私も含めて、『星霊隊』には問題を抱えた人間ばかり。幸紀は人を選ぶべきよ」


「そんなことありませんわよ!水咲さんは道を踏み違えましたが、よくやってくださってますわ!」


「あら、マシじゃない側の人間が何か言ってるわ?」


「あぁん!?」


 水咲の言葉に、キララが思わず声を荒げる。一瞬、車も蛇行したが、すぐにキララが持ち直し、真っ直ぐ走り始めた。

 キララは小さく咳払いをすると、一旦落ち着いて話し始めた。


「わ、わたくしはマシな方でしてよ!…少なくとも、今は、そうあろうとしていますわ!」


「その変な喋り方で?」


「なんだこのクソアマァ!?ドタマカチ割るぞ!」


 水咲のひとことに、一瞬でキララの口調が豹変する。水咲は驚くことなく、余裕の笑みを浮かべた。


「ほら、やっぱりあんたもこっち側じゃない」


「い、いや、その、今のは…」


 慌てて否定しようとするキララに対して、水咲は得意げな表情をしながら続けた。


「悪いけど、自分の本性を隠そうと取り繕ってる人間と、そうじゃない人間の区別くらい付くわ。私も悪党ですもの」


 言われたキララはすぐに言葉を返した。


「『私も』って、あなたとは一緒にされたくありませんわ!わたくしは、その、確かに悪いことも、多少なりとしてきましたけども、あなたみたいに開き直ったりしませんわ!それが、『ご主人様』との約束ですから!」


「『ご主人』?清峰のこと?」


 違和感を覚えた水咲は気になって尋ね返す。キララは直前の自分の言葉を思い返し、小さく舌打ちした。


「チッ、いっけね、またやっちまいましたわ。『ご主人様』は、昔、わたくしを拾ってくれた人ですわ。清峰侯爵ではありませんでしてよ。もう数年経つっていうのに、何年経ってもクセが抜けねぇもんですわな」


 キララは高い声はそのままに、いつものお嬢様口調と粗野な口調が入り混じった言葉で話す。しかし、運転は安定していた。

 一方の水咲はキララの横顔を見つめながら、言葉を返した。


「気になるわ。あなたの言う、『ご主人様』が誰なのか」


「え?いや、でも、言ったところできっとわからないですわよ?あまり有名な人でもありませんでしたし」


「言うだけ言ってみなさい」


冷泉院れいせんいん家の、レミ子さま、ですわ」


冷泉院れいせんいんレミ子…!」


 水咲の顔から一瞬、余裕が消える。だが、キララは気づかず、水咲はすぐにいつもの余裕の表情に変わっていた。


「レミ子様と知り合いですの?」


「さぁ?過去は水に流すタイプなの、私」


「水の霊力使いですものね!面白いジョークですわ!」


「…」


 気まずい沈黙が車内に漂う。すぐにキララが咳払いをすると、キララは声を大きくして話し始めた。


「にしても!!レミ子さまは本当に素晴らしい方でしたわ!レミ子さまのあの高貴さ、ほんの1ミリでも水咲さまは見習うべきでしてよ!あの方こそ貴族の中の貴族!わたくしの憧れでしてよ!」


 キララは場の空気を取り繕うために強く大袈裟に言う。それを聞いた水咲は、片耳を塞ぎながらため息を吐いた。


「そう。随分と言うわね。洗脳でもされたのかしら」


「レミ子さまはそんなことしませんわ!わかりましたわ!水咲さまに、レミ子さまの素晴らしさをとくと教えて差し上げますわ!あの方は、私と出会ったあの時も…」


「なに、昔話?」


「そうです!わたくしに運転させてる分、付き合ってもらいますわよ!」


「手短にお願い」


「ええ!3000文字でわからせてやりますわ!!」


 キララはそう言うと、ハンドルを切り、車を走らせながら話し始めるのだった。


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