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第22話(2)スラム育ちのお嬢様-水咲とキララ-

 レミ子様と出会ったのは、わたくし、西谷キララがまだ6歳くらい、今から10年以上前のことですわ!

 わたくしはスラムで育ちまして、このときは、生きるために食い逃げやら何やらなんでもしてましたわ。


「ちょっと待ちなさいよ」


 なんですの、水咲さま?


「親は何をしてたのよ?普通は子供の食べるものくらい、用意してやるのが親でしょう?」


 普通は、そうなんでしょうね。ですが、わたくしのところは違いましたわ。

 母上は毎日男に身体を売り、父上は家に帰らず、顔も知りませんわ。娘のわたくしは母の仕事の邪魔なので、4歳の頃から路地裏に放り出されてましたわ。

 当然ご飯は出ませんので、近くのお店の廃棄前の食べ残しとかを食べてましたわ。ちなみにこれは『当たり』の部類ですわよ。


「『ハズレ』の話は結構よ。おおよそ察しはつくわ」


 話が早くて助かりますわ!

 でも、みんながみんな優しくしてくれるわけでもなく。どうしてもお腹が空いた時とかは、仕方なく店の商品を食い逃げしたり、通行人からお金をスったりもしましたわ。

 大抵はうまくいかず殴り飛ばされ。でもやってくうちに身ごなしがよくなって、最後の方は警察すらも撒いたことがありましてよ!


「犯罪自慢はカッコ悪いわよ」


 おっしゃる通りですわ。でも事実ですもの!仕方ありませんわよね!


「それで?そんなスラムのお姫様がどうして冷泉院なんて貴族と関わり合いになったの?」


 直接的には食い逃げの現行犯で捕まったことですけど、間接的には、その前に警察から逃げ切ったのがきっかけですわ。


 6歳くらいのころから、わたくしは霊力を使えるようになりましたわ。その力で身体を軽くしたりして、動きを早くしたり、武器も使って警察も軽くなら追い払うこともできるようになりましたの。

 そんなことをしてたら、結構警察に目をつけられるようになっちまったんですわ。あいつらしつけぇんだよなぁ、っといっけね、また癖が出ちまいましたわ。


「気持ちはわかるわ。本当にしつこいのよね、あいつら」


 わたくしたち、仲良くなれるかもしれませんわね!

 それはさておき、ある時から、わたくしは警察に目をつけられたわけです。かなり強く。

 そのおかげでどこで食い逃げしてもすぐに警察が来ること!


 レミ子さまと出会ったのも、そんな状況で、あるレストランの廃棄品を漁ろうとした時で、その日、警察に取り囲まれちまったんですわ。

 暗い雨の日の路地裏で、警察に囲まれて、わたくしは、霊力で武器を構えて叫んでましたわ。


『腹減った!!メシ持って来い!!ぶっ殺すぞ!!』


 霊力がある分だけ、大人たちも警戒してたんですわね。警官隊に囲まれて銃を向けられましたわ。

 そんなふうに、わたくしを警戒する大人たちのなか、ひとりだけわたくしの方に、傘を差しながら歩いてくる方がいらっしゃいましたの。


『お嬢。お腹空いてて?お父様は?お母様は?いらっしゃらないの?』


『なんだこのクソババア!なんでもいいからさっさとメシ持って来い!!』


 わたくしが口汚く罵ったその女性こそ、レミ子さまだったんですわ!

 レミ子さまはわたくしに怒鳴られても怯まず、傘を差しながらわたくしの方に近づいてきましたの!


『レミ子さま!危険です、下がってください!』


『その子供は凶暴です!怪我をするかもしれません!!』


 警官たちがそう言うのも聞かないで、レミ子さまはわたくしに近づいて、自分が差していた傘に、わたくしを入れてくださったんですの。


『な、なんだよババア!?』


『女の子がそのように汚い言葉を使ってはいけませんわ。お腹が空いているのでしょう?なら、一緒に食事をしましょう。でもこんなに雨に濡れてしまっては、お店に迷惑がかかりますわ。わたくしの家に行きましょう』


『ま、待ってよ!ママも…!』


『わたくしが呼んでいるのはあなたでしてよ。それに、こんな天気の中、子供を食い逃げさせている親など、親失格ですわ。さぁ、行きますわよ』


 そう言ってレミ子さまは強引にわたくしを自分のお屋敷に連れて行ってくださったんですわ。

 お屋敷では、お風呂に入れてもらって、人生で初めてケーキを食べましたわ!ほんとうに美味しかったんですの!


「そりゃおめでたいわ。でも、ある意味誘拐じゃないの、レミ子のやったことは?」


 見方を変えればそうかもしれませんわね。でも、わたくしにとっては暖かいお風呂と美味しい食事、それをくれたレミ子さまは親よりも大切な人ですわ!

 それに、そのあと、わたくしの母上と、レミ子さまが直接話し合いましたわ。


「なにを話し合ったの?」


 わたくしの処遇ですわ!

 レミ子さまはわたくしのことを、はじめは養女として家に迎えようとしてくださったんですわ。でも母上が反対なさったんですの。

 なので、わたくしは冷泉院家のメイドとして住み込みで雇っていただけることになりましたわ!お給料は母上のところに行くので、母上も文句無しだったんですわ!


 それからは、わたくしはいろんなことを勉強しましたわ!学校にも通えましたし、メイドとしての作法も、お菓子の作り方も、全部レミ子さまのおかげで勉強することができましたわ!


「じゃあ、助けてくれたから、あんたはレミ子のことを崇拝してる、ってこと?」


 レミ子さまの素晴らしさはそれだけじゃありませんわ!

 レミ子さまはわたくし以外にも貧しい人々に対して頻繁にお恵みを施してましたわ。


『貴族は民衆に支えられていることで、皆よりも高い地位に居ることができますわ。ならば、貴族は民衆の規範となり、弱者を切り捨てることなく、支えてくれる民への慈愛をもって与えるように接することこそ貴族の務めですわ』


 レミ子さまは常々そう口にしておられましたわ。それ以外にも、レミ子さまはわたくしに様々な薫陶を授けてくださいましたわ!


『法を守らず、本能で他者を虐げるのは獣の所業ですわ。人である以上、理知的に、他者のために尽くす人でありなさい』


『行動や精神の気高さに生まれは関係ありませんわ。人として良くあり、人の役に立とうとする気概こそ、最も美しく高貴な魂でしてよ』


『キララ、あなたは誰かから奪う人ではなく、与える人になりなさい。他者を幸せにしようとすることが、最も尊い行動ですわ』


「素敵なお説教ね」


 そうですわよね!!良かったですわ、水咲さまにもレミ子さまの素晴らしさが伝わったんですわね!


「ええおかげさまで。でもひとつわからないのだけど、なんでそんな素敵なご主人様でなくて、清峰に仕えてるの?」


 単純な話ですわ。わたくしが高校生になったくらいの頃、わたくしたちメイドは皆、お暇をいただいたんですわ。

 わたくしも事情はよくわからないんですけども、レミ子さまがある日突然おっしゃったんですわ。


『この家を、すべてゼロからやり直しますわ。貴族の立場も何もないところから、わたくしの身ひとつで、全て。キララ、あなたの次の勤め先は清峰きよみね豊晴とよはる侯爵ですわ。若い娘さんがいるそうだし、きっとキララは力になれると思いますわ。あなたの未来が、幸多いことを願ってますわ』


 レミ子さまはわたくしと出会った時にはもう40代後半で、お暇をくださった時はかなり年を召されてたと思います。世間では定年くらいの年齢ですから、きっと、新しくやりたいことができたんだと思いますわ!それでも最後までわたくしたちを心配してくれたんです!やはりレミ子さまは、貴族の中の貴族ですわ!


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