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ボーンライフ  作者: ユキ
24/196

決着

『マスタールームに到着しました』


 本体からグラスへ念話が入る。

 分体達から切迫した状況を得ていたので必要な情報だけを伝える簡潔なものだ。


『流石師匠、グットとタイミングだよ。そしたら先ずはコントロールパネルに触れて、その機能でルカをマスタールームに転移してくれるかな。それが終わったらコントロールパネルの上の赤いボタンを押すと試作賢者の石が出てくるから取り外して』


『わかりました。しかしグラス様は転移しないでイイのですか?』


『転移には時間がかかるから上、起動中はその場に止まっていないといけないからね……だから僕はルカの転移が完了するまで邪魔されないように勇者を足止めしておくよ』


『そんな!? 万全な状態でも危険なのにその体ではとても!』


 そう、今は勇者に斬られた左腕から大量に出血しているだけでなく、先程の爆発の熱風で身体中火傷を負った状態で倒れているのだ。


『はは、大丈夫大丈夫』


 するとゆっくりと起き上がったグラスは、右手に未だ握られたままだった剣を徐ろに振りかぶると、自らの切断面より上の二の腕部分を斬った。


「ッ!?」


 その突然の行動に、未だ虚ろな瞳のルカは驚愕の表情へと代わり、ルカ達へと向かっていた勇者も歩みを止め、訝しげな表情へと変わった。


 そんな奇行に走った当の本人は、更に魔法で炎を作り出すと、なんと斬った腕の断面を焼き出したではないか。


 痛みで顔を歪めるグラス。


「……!? グラス止めて!!」


 少しして我に帰ったルカが悲痛の表情で止めるがグラスは一向に自らの腕を焼くのを止まない。


 そしてそのまましばらく自らの腕を焼いて癒着させたグラスは、魔法を解くとその腕に治癒魔法をかけた。


 すると治癒魔法をかけた腕は先程まで全く治る気配が無かったのが嘘のように癒着した部分を残し綺麗に治って行く。


 そして魔法が解かれたそこには斬られた断面が火傷で癒着し歪に歪んでいるが塞がった状態で治っていた。



「まさか治療しても治らないからって自らその上の腕を斬って、その上傷口を焼いて塞いだ状態で治すとはね。思考がぶっ飛びすぎじゃない?」


 グラスの行動を見てその意味を理解した勇者はそんなグラスをバカにし鼻で笑う。


 しかし、同じくルカを守りたいと思う者として、グラスの行動の覚悟を理解出来た俺は、グラスの決意を無駄にしない為、ルカの転移を始める。


「だから逃さないって!」


 ルカの周りに発生した転移陣を見た勇者はそう言いながらルカ目掛けて斬りかかってきた。


 しかしそこへグラスの植物魔法で生み出された極太のツルが横薙ぎに向かい、咄嗟にその攻撃を避ける事でルカへの追撃はまぬがれた。


 そして攻撃を避けた事で体勢の崩れた勇者を、急接近したグラスは休む事なく怒涛の連続斬りで追い打ちをかける。

 その表情は鬼気迫るものがあった。


 流石にそんなグラスの猛攻をいつまでも避ける事が出来ず、体にいくつもの斬り傷が刻まれていく勇者は、最強の剣で迎撃しようとするが、そんな隙を与えないとグラスがすかさず斬り込んできた為、勇者は最強の剣でその攻撃を()()()()()


「知っているよ。その剣は振り抜かないとその効果を発動出来ないんでしょ」


「くっ!? 何故それを!?」


 どうやらグラスの言葉は事実なようで、勇者は驚愕と忌々しげな表情でグラスの剣を斬る事も出来ずに、鍔迫り合い状態で押し合い拮抗していた。


 何とか押し勝とうと力を込めるが、後先考えずに全てを出し切っているグラスの力は片手だと言うのにびくともせず、かと言って下手に引いた場合、引く為に体勢を崩した状態では先程と同じく相手の追撃を躱しきれずに斬られてしまう為引く事も出来ない。


 その間にもルカの転移の準備は進んでいく。



 しかしその時、流石のグラスも度重なる戦闘と、大量の出血の影響もあり、一瞬集中力が途切れ力が抜けてしまった。


 その一瞬をここぞとばかりに勇者は力任せに押し返し、グラスの体勢を崩す。


 そこを、すかさず振りかぶった最強の剣で斬り伏せようとする勇者。



 負けると思った瞬間、グラスはとんでもない行動に出た。


 ゼロ距離から超威力の炎魔法を放ち、爆発させたのだ。


 その爆発で黒焦げになり左右に吹っ飛ぶグラスと勇者。


 魔法の爆発の直前で防御の体勢をとった勇者は、吹っ飛んだ先で受け身をとり着地するが、もろに自分の魔法の爆発を受けたグラスはそのまま床を転がり倒れ込む。


「クソエルフがッ!!!」


 悪態を吐きながらも自らの体を治す勇者。


 そして直ぐに体の傷を治すと未だ動かないグラスにトドメを刺す為、動き出そうとする。


 しかしその時、遂にルカの転移が起動し、眩い光に包まれた。



 その光を確認した勇者は、グラスへの追撃からルカへと目標を変更し斬撃を飛ばすが、既に転移が始まっていた為その斬撃が届く前にマスタールームへと飛ばされ、誰も居なくなった場所をただ斬撃が通過するだけに終わった。


「ああクソッ!! どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがってッ!!」


 思い通りにことが運ばないことで、怒り狂った勇者は周りにメチャクチャに斬撃を飛ばして当たり散らしている。


『……良く、やってくれたね』


 そんな勇者を他所に、弱々しい声でグラスから念話が入った。


『直ぐにグラス様も転移させますから!』


『いや……僕は良いから、早く試作賢者の石を取るんだ。……そうすれば、この空間は元の地面に戻り……その部屋だけは地上に戻るけど、他の階層は勇者も含め……今いる地上から、数キロ下のこの場所の地面に生き埋めになる。流石に勇者は死にはしないだろうけど、師匠達が森へ避難する時間稼ぎは……出来る筈だよ」


『くっ……グラス様……すみません』


 俺は先程から一向に傷の治らない横にいるボロボロのルカへと視線を向けたあと、覚悟を決めコントロールパネルの上部にある赤いボタンの透明な蓋を開け押した。


『ルカの事……任せたよ……』


『はい! ルカは俺絶対に守ります!!』


 俺の言葉に分体から見えるグラスは優しく笑うのが見えた。


 そして俺は、コントロールパネルが半分に割れ出てきた、石と言うよりもダイヤモンドに近い形状のルビーのように赤い試作賢者の石を台座から取り外した。




 その瞬間部屋の景色がブレ、次の瞬間には地上の迷宮の入り口があった場所に立っていた。


 元々は洞窟の様な岩で囲まれた地下への入り口があったのだが、今はただ何もない土だけの土地になっている。


 入り口が無くなったと言う事は、グラスの言葉から今頃グラス達は数キロ下の土の中に生き埋めになっているのだろう。


 土とは言え、数キロにもおよぶ距離の土が急にのし掛かるのだ、その重量は計り知れず、普通の人間では圧死なんてレベルでは済まない程一瞬で押し潰されるだろう。


 むしろそれなら痛みを感じる余裕もないので、救いかもしれない……



 ……ルカの事は任せて、安らかに眠って下さい。




 ……ドーン。



 心の中でグラスへの言葉を送っていたが、どうやら感情に浸っている時間は余りないようだ。


 地下深く、かなりの距離から爆発音と共に僅かだが振動を感じる。


 それは連続で鳴り続き、次第に大きな音と振動に変わっている事から、誰かが上に向かって上がって来ている事がわかる。


 十中八九、地下に残した勇者の仕業だろう。



「……う、う〜ん……ここは?」


 その爆発音と振動で、どうやら横で気絶していた人物が目を覚ましたようだ。


「……ッ!? 貴方は先程の意思のある骸骨兵ッ! 気絶した私達を連れて来て何をするつもりですか!」


 その人物、勇者の仲間の僧侶ルナーレは、一緒に連れて来た未だ気絶している武道家のコクーンを庇う様に俺との間に立ち、こちらを警戒していた。


 そう、あのままあの場に残しても死んでしまうと考えた俺は、ルカを転移する時についでにこの二人も転移させておいたのだ。


 勇者や勇者の仲間の魔法使いの女と違って、この二人はそんなに悪い感じもしなかったしな……。


 まぁ、コクーンは悪ではないが戦闘狂って言うタチの悪さはあるけどな。


「心配しなくても何もしない。時期に勇者が地下から這い出してくるから合流するといい」


「なっ!? ……魔族に仕える魔物が人を助けるですって!? ……そんな話聞いた事、ない」


 どうやら俺の行動は人族からしたらかなり異常な事らしい。

 聞いてはいたが、人族の偏見もかなりのものだな。

 俺みたいな善良な骸骨兵からしたら迷惑な話だ。


 とりあえず勇者の仲間は目覚めたし、ほっといても大丈夫だろう。

 今は勇者が脱出してくる前に避難するのが先決だ。


「あっ、待ってください! ……ええと……先程は失礼な対応をとってしまいすみませんでした。それと……助けて頂き、ありがとうございます」


 ほう……、人族のかなりの偏見の中育って来た筈なのに、その相手に素直に自分の間違いを謝罪し、助けてもらった事にお礼も言えるなんて、やはりこの子は素直でいい子なようだ。


「ああ、気にするな。……助けたついでに一つ忠告だが……勇者だけど、アレは関わらない方が君の為だよ」


 その素直な反応に好意的に感じた俺は、今後の彼女の為に忠告をしておいた。

 だって勇者なんて肩書き持ってるけど、アイツの本性は神態のクソ野郎なんだもん。


 今は忠告した出来ないので、こんないい子が少しでもヤツの毒牙にかからない事を祈るばかりだ。



 ドーン!



 おっと、そんな事をやっている間に爆発音がかなり大きくなってきた。


 俺はスキルを発動して周りに散らばっている骸骨兵達を使徒すると、未だ目を覚さないルカを抱えさせ勇者の仲間達を残し空間転移の扉へと向かう。



 *****



 骸骨兵達が去っていくその姿を何とも言えない表情で見送るミルカ。


 ドン、ドーン!!


 だんだんと大きくなる爆発音、そしてしばらくして近くの地面が吹き飛ぶと、爆発で出来た穴から勇者が飛び出して来た。


「クソクソクソッ!!! あのクソエルフがッ!!!」


 地面から飛んで出て来た勇者は悪態を吐きながら、周りに魔法を連発し、周辺の建物を破壊していく。


 そこに世界を救う英雄としての姿はなく、憎悪で醜悪に歪んだ表情はまるで悪魔のようだった。


「大分荒れてるな」


 突然後ろから声が聞こえてビックリした。


 必死で勇者の攻撃から防御魔法で自分とコクーンが居るこの場を守っていたので気付かなかったが、どうやら先程まで気絶していたコクーンもこの爆発音で目覚めたようだ。


「今は下手に声を掛けない方が良いわ。あの状態だと私達に何するかわかったものじゃないもの」


「確かにな、大変だろうけどもうしばらくよろしくな」


 そう言ってその場に寝転がるコクーン。

 流石、武道家としていくつもの死戦を潜り抜けてきただけあって、肝が据わっている。


 そのまま暫く勇者の攻撃を耐えながら見守っていると、少し気が晴れ冷静になって来たのか、ようやくこちらに気付いた勇者は、一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに笑顔を作ると私達の所へとやってきた。


「やぁ君達、心配したよ。でも無事で何よりだ。どうやってあの場から助かったんだい?」


「ご心配ありがとうございます。たまたま入り口の近くにおりましたので、勇者様には申し訳ありませんが、足手纏いと思い、先に避難していたのです」


「そうだったのか。なに、謝る事はない。君達が無事で良かったよ」


 そう言って私を抱きしめる勇者。


 先程までの荒れようから、直前まで私達の存在など忘れていただろうに、さもずっと心配していたと言わんばかりに大袈裟な態度をとるこの男を、私は心底軽蔑する。


 これまでの態度もそうだ。


 この男は私達を自分の欲求を満たす為のただの道具としか思っていない。


 魔法使いのポリーは世界を救った後の自分の利益を考え、むしろ積極的にアプローチしていたが、戦う事にしか興味のないコクーンは適当に流していた。


 私自身も正直こうして触れられるだけで嫌悪感を感じたが、この男が居なくては魔王を倒し世界を救う事が出来ないのも事実で……一線を越える事は流石に拒んだが、体を触られる程度なら我慢してきた。


 王国では魔族は野蛮で他人を力で支配し、残虐非道で他者を苦しめる事しか考えておらず、賢い人族が導いてやらない限り害悪でしかないと教わった。


 ……しかし私達を助けた意思のある骸骨兵といい、ダンジョンの地下で四天王ルカレットを助けようとして戦っていたエルフといい、そこには確かに心があり、他者を思いやる気持ちがあった。


 なら、魔王もまた心があり、何か目的があり戦争をしかけてきたのでは……?


 それがもし、話し合いで解決する問題なら?


 ……本当に魔王は倒さなくてはいけない存在なのだろうか。



 そして……



「魔族は本当に、全てが悪なのでしょうか……」


 思っていた事が思わず言葉になり漏れ出る。


 ハッとして周りを見たが、幸い勇者は既に私から離れコクーンと会話をしており、誰も私の言葉を聞いている者はいなかった。


 助かった。

 こんな事を王女である私が言っていたなんて広まったら、王国は大変な騒ぎになる。


 その事に今更ながらに気付き、今はこの考えは心の中にしまっておくべきだと思った私は、未だ勇者を適当にあしらうコクーンをフォローするべく勇者達の元へ向かう。



「探しましたよ勇者様!」


 すると少し離れた所から兵士の一行が駆け足でやってきた。


 先頭を走るのはこの軍の副隊長だった筈。

 名前は……ダメね、隊長の印象が強すぎて出てこないわ。


「四天王ルカレットはどうなりましたか?」


「四天王……そう、四天王ね……」


 勇者の元までやってきた副隊長は今回の討伐目標である四天王の行方を気にして聞いてくる。


 しかしその討伐目標はあの骸骨兵が連れて行ってしまった。

 ボロボロだったけどきっと生きているのだろう。


 まさか討伐に失敗しました、とは言えないようで、勇者は言い淀んでいる。


 さてどうしたものか……。



「四天王ルカレットは勇者様の手により、瀕死の重症をおっておりました。その状態でダンジョン消失に巻き込まれたので、きっと生きてはいないでしょう」


「それは本当ですか!? 流石勇者様です!! 直ぐに部下達に連絡して勝ちどきを上げましょう!!」


 私の言葉で大喜びをする副隊長含めた兵士達。


 勇者も兵士達からの称賛の嵐に私の言葉を疑問に思う事もなく、調子に乗っていかに四天王を倒したか語っている。



 骸骨兵さん、これで借りは返しましたよ。


 喜ぶ兵士達を他所に、私は一人、骸骨兵達が消えた方向を見るのだった。




 そして今日より数日後


 四天王を全て倒した勇者率いる人族軍は、この戦いで減った部隊の再編成を行った後、そのまま魔王領へと侵攻した。


 そしてそれから更に数日ののち、魔王領内では一切抵抗される事もなく順調に進行した勇者達は、魔王城へと到達したその日の内に攻撃を開始し、程なくして勇者の手により魔王は討たれたのだった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

一先ず一章はここまでで、次回からは二章になります。

処女作ですので色々拙い文章や、ノリで描いている事も多々あり話の繋がらない変な箇所もあるかと思いますが、生暖かい目で読んで頂けると幸いです(苦笑)


追伸

評価していただいてる方々、本当にありがとうございます!

マジで励みになります。

更新は遅いですが、これからも頑張りますのでよろしくお願い致します。

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