反撃と新たな戦い
意識を戻したルカは勇者を睨み付けて居たが、先程まで勇者と対峙していた骸骨兵の中から俺を見つけると驚愕の表情に代わり、その後思い詰めたような表情へと変わると念話を飛ばして来た。
『クリス……どうして来たの!』
自分の中で当たり前の事を聞かれて一瞬キョトンとしてしまったが、先程契約破棄して友達になる命令も無くなったのにどうして来たのかと言う疑問の気持ちと、単純に俺の安全を思って何故こんな危ない場所に来たのかと攻めている事に気付いた。
だがら俺から言う事は一つだけだ。
『ルカの友達だからさ』
その瞬間泣き出しそうになるルカだが、まだ敵と対峙している事を思い出し、グッと堪えている。
『一緒にコイツから逃げよう!』
『……う、うん!!』
よし、よし! 気合い再注入だ!!
「感動の再開は終わったぁ?」
あっ、ルカが意識を取り戻した喜びでグラスの事すっかり忘れてた。
そして、グラスの言葉を自分に言われたと勘違いした勇者が、さっきまでの驚愕で固まった表情からみるみる怒りの表情に変わっていってる。
『師匠が時間を稼いでくれたお陰で何とか意識は取り戻せたよぉ、ありがとう』
うわぁ、ここだけ念話で話してる辺り、さっきのはわざとだな……。
俺に念話を飛ばしながら前に立つルカの今にも敗れ落ちそうな服の代わりに魔法でツタを這わせて簡易の服を作るグラス。
ただそのデザインが完全にビキニなのは流石真態と言うべきだろう。
しかし、例え真態だとしてもグラスならルカの治療をやってくれると信じてましたよ!
「どうやって……どうやって治療したんだ!! 俺の攻撃でついた傷は魔族の治癒魔法じゃ治療出来ない筈だ! それともまたこれもあのクソジジイの嘘だったって言うのか!」
勇者は先程のグラスの煽りと、自分の思い通りにならない現実を突き付けられてご立腹のようです。
ニヤニヤが止まりません。
骸骨兵だから顔は変わらないけどね。
「いや、そのお爺ちゃんの情報は正しいよ。ただ僕がやったのは、ルカの中で悪さしている勇者菌を退治しただけさ」
勇者菌って、小学生じゃないんですからそんな悪口聞く訳な……いや、勇者の顔がみるみる赤くなっていく。
マジでコイツの精神年齢低すぎじゃね!?
「それと一つ勘違いしてるかもしれないから言っておくけど、君の仲間にルカを回復させてたら、この子は……死んでたよ」
「なん……だと?」
「そりゃそうでしょ。魔族は大概が聖なる攻撃に弱いからねぇ。人族の使う回復魔法は教会の広めた聖なる魔法でしょ? そんなの浴びせたら、傷口に毒を塗るのと変わらないよ」
そうなのか!? 回復魔法コワッ!!
「さて、もう君の脅迫も通じないし、こっちは万全な四天王と僕の二人がかり。そろそろルカの事は諦めて帰ってくれないかな? そっちもお仲間の事考えてさ」
そう言われて気付いたが、いつの間にかルカの傷は全て治っていた。
治癒力が戻ったのだろう。
グラスも戻った時には既に何事も無かったように、服すら綺麗な状態になっていた。
あれ……それが出来るなら、ルカの服も元に戻るのでは?
「ハッ、何言ってんだ。回復出来ないなら今度は拘束して連れて帰れば良いだけだろ。それに俺の女達はどんな時も俺を優先してくれるから、大丈夫だよッ!」
その瞬間勇者が消えた。
そしてルカとグラスもだ。
俺のグラスへの疑問も消えた。
考えても無駄だもん、真態だから。
あとはその場で響き渡る爆音と飛び交う魔法だけが視界に入る。
こうなると最早俺の出る幕は無い。
あとは二人を信じて待つだけだ。
『師匠、悪いんだけど勇者にバレないように、このダンジョンのマスタールームに行って試作賢者の石取ってくれないかな?」
俺の仕事は終わった! と完全に油断をしていると、突然戦闘を行っている筈のグラスから念話が飛んで来た。
『ッ? い、良いですけど、どうしてですか?』
『ぶっちゃけ、このままルカと二人でやっても勇者には勝てないからさ』
そんな爆弾発言を何ともなしに答えるグラス。
相変わらずだが、緊張感がなさ過ぎて冗談だと思ってしまう。
『て言っても、このまま何事も無ければ二人で勝てると思うよ』
何だ、じゃぁやっぱり冗談か。
こんな時にタチの悪い冗談だ。
『でも、この勇者はまだ……何か力を隠してるから』
ぉぅ、こんな時の真剣なグラス様の声は普段とのギャップで、説得力が半端ない。
まぁ、どうせここで二人の戦いを見ていても次元が違い過ぎて手助け出来ないし、俺に二人の助けになる事が出来るのならやってやりますよ!
『わかりました! 俺に任せて下さい!』
そう返事をし、グラスの言われた場所へとバレないよう使徒している骸骨兵を残し、一人で向かう。
戦闘エリアから大分離れ、もう少しで指定の場所だと言うところでそいつは現れた。
「ちょっと待て! さっきは後ろからよくもやってくれたな! この卑怯者!」
そいつはところどころ服は焦げているが、怪我の治った状態の勇者の仲間、女武道家だった。
「私は勇者の仲間で武道家のコクーン! 骸骨兵! 私と正々堂々と勝負しろ!」
コクーンと名乗った女武道家を改めて観察してみるとキャミソールに短パンと動きやすさ重視の服装に、手の甲と手首から肘までが金属で覆われた手甲と膝から足の甲までを金属で覆われた装備を装着している、胸の大きなポニーテルの女性だ。
無視して目的の場所に向かいたいが、相手は完全に俺をロックオンしていて、先程の不意打ちで余程お怒りなのだろう、せっかくの美人が目は血走り、何故か笑顔で呼吸も荒く酷い事になっている。
正直メッチャ怖いです。
しかしそうも言ってられないのでとりあえず、武器もないので構えをとると、相手も承諾と判断したのか突然攻撃してきた。
シュッ!
目で追うのもギリギリのスピードの突きで、ギリギリで横に躱わすが予備動作も殆どない為予想して避けるのも難しい。
しかも躱した後も休む事ない流れる連打と間に挟まれた細かなフェイントによりこちらを惑わせてくるから、かなり厄介だ。
流石勇者の仲間だ。
進化して体が強化されてなければ最初の一発目でやられていただろう。
こちらも先程から攻撃しているが、流れる動作でいなされまともな攻撃を当てる事が出来ていない。
お互いが決定打を当てられず、このままいつも通り体力勝負になるかと思われたが、打ち合ってそれほど立たない内に突然コクーンは俺から距離をとった。
ハァハァハァ
漏れ出す呼吸にどうやら今のでかなり体力を消費したようだ。
「……ィ」
ん? 何か言ってるが小さくて聞こえない。
「……イイ! やっぱりイイよキミ!! この私の連打を初手からああも躱わし、あろう事か打ち合うなんて、勇者以外だとキミだけだよ!! いや、勇者は肉体のスペックの高さで誤魔化してるだけだけど、キミの場合、技術と経験による洗練された達人の動きで、寧ろ勇者より最高だったよ!! ぁあ〜興奮してきたぁ!!」
ヤバい……新たなタイプの変態来た。
この世界変態多過ぎない?
それとも、力が全ての環境だと理性より本能が強くなりがちとか?
何にしても今すぐ誰かと変わりたい。
「ハァハァ、ごめんごめん。達人との打ち合いに気持ちが抑えられなくなっちゃって。さっきも勇者との戦闘で骸骨兵達が綺麗な動きて避けてたけど、アレってキミが操ってたんでしょ? アレ見てたら興奮が抑えられなかったよ……だから、体が治ったら速攻追っかけて来たんだ!」
そのまま体が、治らなければ良かったのにね。
俺にも勇者みたいな変態の回復を邪魔する能力身に付かないなぁ……。
俺がこんな現実逃避をしていても今だに俺の動きはどう凄いか熱く語り続けるコクーン。
ん? これはチャンスなのでは?
そう思った俺は迷わず行動に移す。
本日二度目の不意打ちファイヤーボールだ! くらえ!!
ドンッ!!!
ファイヤーボールは見事熱弁を続けるコクーンに命中した。
直前まで気付く気配も無く、確実に直撃した筈だ。
……やったか?
自分で言ってアレだが、完全にフラグである。
爆煙が晴れて来て、何も反応が無いことからそう思った時、突然後ろの方から声がした。
「だがら、いつも夢中になると周りが見えなくなるの直して下さいって言ってるじゃないですか!」
咄嗟に後ろを振り返ると、そこには勇者のもう一人の仲間である女僧侶が立っていた。
コクーンが居るならコイツを治した僧侶も居ておかしくないよなぁ、完全に忘れてた。
「いやいや、今のは不意打ちしてきたコイツが悪いだろ! 私は最初に正々堂々勝負しろと言ったんだぞ!」
そう爆煙から声がする、その中から案の定無傷のコクーンが出て来た。
流石に今のでやられないだろうとは思ったが、まさか無傷とはなぁ……きっと後ろの女僧侶が守ったんだろうが。
「そもそもこの方は構えただけで返事をしているようには見えませんでしたよ?」
「ぐっ……それは」
ふむ、その通りだな。
「ほらみなさい、アナタの早とちりで油断したのですから、アナタが悪いです!」
おっ、先程まで完全に暴走していたあの変態が、今はこんなにも大人しく……思い出してみるに、この女僧侶は最初に勇者がルカをいたぶっている時も笑っていた魔法使いや興味なさそうなこの武道家と違い勇者に怒っていたし、あの勇者の仲間にもこんなまともな子が居るとはなぁ。
そう感じながらこちらを警戒しつつコクーンの元へと回り込む女僧侶を観察する。
見た目は金髪にスカイブルーの瞳、整った顔立ちとルカにも劣らない程の絶世の美人だ!
またフワッとした僧侶服を着ているのにその強調された胸とお尻は目を惹き、華奢な首や腕の細さからも決して太っている訳では無いことがわかり、その高身長も合わさりスタイルの良さも窺える。
そうして合流したコクーンを嗜めた女僧侶はこちらへ向き直ると優雅に自己紹介を始めた。
「待っていただいありがとうございます。わたくし、勇者様とパーティーを組んでおります。ヤマト王国第二王女、ルナーレ・ヤマトと申します」
「……クリス十六世」
あまりに優雅な自己紹介に思わず名乗ってしまった。
「やはり意思がお有りなのですね……せっかく知り合えましたがクリス様、アナタはわたくし達の仲間を殺した仇です。残念ですが、ここでコクーンと共に討伐させて頂きます」
だけど、やっぱり戦う事になるんですね。
そりゃそうですよね。
これで二体一になってしまった。
早くマスタールームに行かなくちゃいけないのに。




