とある少年と神ギャル
「……うぅ……ハッ!? ここは!?
……俺の……部屋?」
うなされて起きた場所、そこは見なれた自分の部屋だった。
目の前にはつけっぱなしのテレビ画面に、赤い背景でゲームオーバーと大きく表示されている。
どうやらゲームをやりながら寝落ちしてしまったようだ。
それにしても……何をうなされてたのかは覚えていないが、凄く怖い夢を見ていた事だけは覚えている。
それだけに、見慣れた自分の部屋にいる事実に凄く安心し、更には何故か妙に懐かしく思えた。
だけど、それでも拭えない心にポッカリと空いた損失感……。
その理由はわからないけれど、損失感を拭う為、窓から見える外はまだまだ夜の帳が下りる真夜中だが、気分転換に外出する事にした。
外に出れば肌に感じる蒸し暑さ。
今は夏真っ盛り。
夜中とは言え、まだまだ暑さの残る熱帯夜だ。
「暑いなんて感覚……久しぶりだなぁ……」
ずっと家に引きこもっていたせいで久しく感じなかった感覚に思わず独り言が漏れる。
……だが、果たしてそれは引きこもっていたせいなのか……それとも強靭な肉体を得たお陰で、暑さや寒さと言った外環の要因を受けなくなっていた影響か……。
ん? 強靭な肉体?
自分で考えた事なのに、自分の考えに疑問に思う。
そもそも、ずっと他者を拒み引きこもっていた筈なのに、何故今日に限って外に出ようと思ったんだ?
しかも、こんなにも簡単に……
今日の俺……なんか変だな……。
「マジマジ! まさかと思ったけど、やっぱりクソチビじゃん!」
その時、忘れもしない……聞きたくなかったとある人物の声が、忌まわしき俺を呼ぶ幼稚な呼称で後ろから呼びかけてきた。
振り返れば案の定そこには、生意気だと俺を虐めていた同級生でイジメの主犯格であった女が、恋人らしきガラの悪い男と腕を組んでもう片方の手でこちらを指差していた。
クソッ! そうだよ! 俺はコイツらイジメてきた同級生に会いたくないから家に引きこもっていたんだ。
なのに何で今日の俺は……
いや! 今はそれよりもとにかく、コイツから逃げ……「逃げんなッ!!」ビクッ!?
踵を返して走り出そうとした矢先に同級生の女に大声で怒鳴られ、反射で動けなくなる。
ダメだ……虐められていた記憶が邪魔をして、コイツに逆らう事も……それどころか震えてまとまに動く事も出来ない……。
「せっかく声かけてやったって言うのに逃げようとするとか、お前何様だよ! あん!!
ちょっとターくん、ムカつくからコイツしめちゃってよぉ」
「おう! 任せとけ! 俺の必殺100トンパンチが火を吹いちゃうぜぇ」
「キューーッ! ターくんカッコいい!! やっちゃえやっちゃえ」
目の前ではターくんと呼ばれたガラの悪い男が、その見た目同様頭の悪そうな発言をしながら腕をグルグルと回している。
容易に想像出来るこの後の未来……。
それでも体は言う事を聞かず、それどころか腰が抜けてその場に倒れてしまう。
クソッ! 何で俺がこんな目に!!
こんな世の中おかしい!!
気に入らないからって理不尽に罵られ、殴られるこんな世の中なんて!!
こんな世の中なんて、なくなっちゃば……
「ははぁ〜ん、さぁーて最初はどこから行こうかなぁ。
顔か? 腹か? うーん……やっぱり、その生意気な目で睨んでくる顔……いっちゃお〜う!」
「ひぃ!?」
怖い! 痛いのは嫌だ!!
逃げようと体を動かそうとするが、いまだに言う事を聞かない体はただ震えるだけ……。
その間にもガラの悪い男は迫る。
誰か……助けて……
誰か僕を助けてッ!!
「トウッ!! アタシ……参・上!!」
その時、そんな掛け声と共に颯爽と僕とガラの悪い男の間に現れたのは、メッシュの入った金髪に厚化粧、露出の多いド派手な服には至る所にジャラジャラとキーホルダーをぶら下げた、テレビで見た平成初期のギャルだった。
「誰が平成ギャルじゃ!!」
「えっ……? どうして僕の考えてる事が……」
「誰だテメェ!?」
目の前のギャルのまるで心を読んだようなツッコミに思わず疑問が口に出るが、ガラの悪い男がその言葉を遮る。
「アタシ? アタシはただの通りすがりのプリティー神ギャルちゃんよぉ」
「はぁ? 紙ギャル?」
「神ギャル!! 漢字が違うわドキュンヤンキー!!」
ガラの悪い男の間違いに、神ギャルと名乗った女性が怒りを露わにする。
「はぁ!? どうでもいいし! 関係ないおばさんがしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」
ブチっ!!
ガラの悪い男の言葉に、神ギャルと名乗った女性から、アニメのような聞こえる筈のない血管の切れる音がした。
そして次の瞬間……
ボコバコバキグチャ!!
「「……」」
目にも負えない速さでガラの悪い男の目の前に移動した神ギャルさんから繰り出される、格ゲー顔負けの一方的な暴力。
全てが終わった後、僕の目の前には1分前に自分が想像した無惨な未来の光景が広がっていた。
ただ、ボロボロなのは僕じゃなくてガラの悪い男だけど。
「ドューユーアンダースタン?」
「イ……イエス……神ギャル……様」
「ノンノン……プリティー……」
「プ、プリティー……神ギャル様」
神ギャルさんに片手一本で襟を握られ持ち上げられたガラの悪い男は、神ギャルさんからの何故か英語での問いかけに、痛みで途切れながらも答える。
「オーケー」
ポイっ……ドサッ。
「そこの小娘。
こうなりたくなかったら、そのゴミを連れて……散れ」
「ヒィ!? ターくん行くよ!!」
僕を散々一方的な暴力で支配した同級生の女は、それを超える暴力を目の当たりにして自分の目の前に投げ飛ばされたボロボロのガラの悪い男を連れて逃げるように立ち去って行く。
「フッ……雑魚が。
さて! 少年、だいじょうぶぃ?」
「……へ? ……あっ! は、はい! 大丈夫です!!」
先程の残虐な光景を見た後なのに、振り返った神ギャルさんのその無邪気な笑顔に思わず見惚れてしまった僕。
一瞬腑抜けた声を出すがすぐさま我に返って返事をした。
その際あまりにも大きな声で返事をしてしまったせいで、神ギャルさんは一瞬キョトンとした顔になるが、すぐに再び笑顔になって笑った。
「あは、おかしな少年。
んで突然だけどぉ……どうやら君はああ言うドキュンに絡まれやすい体質みたいなんだぁ。
だから、このままバイビーだとまた厄介ごとに絡まれる事間違いなっしんグーなんよ」
「は、はぁ……」
「あぁ〜! その顔信じてないなぁ〜!」
「そ、そんな事!! ッ!? ……カケラも思って……ません」
おかしなと言われた事で落ち込む僕は気のない返事をしてしまい、それを信じてないと勘違いされてしまう。
だから咄嗟にまた大声で否定してしまい、途中でそんな自分が恥ずかしくなった。
クッ……カッコ悪い……こんなんじゃ今までのように……このカッコいい女性にも嫌われてしまう。
だから嫌なんだ……こんな……みっともない自分……。
だが、目の前の女性は今までの女性とは全く違う反応を見せた。
「……クフッ! カ〜ワユ〜イ! そんか可愛い少年は……これからお姉さんが守ってあ・げ・る!」
「……えっ?」
そう言って手を差し出す神ギャルさん。
突然の神ギャルさんの提案は突拍子がなさ過ぎて、全く理解出来なかった。
理解出来なかったが……
「ん」
ギュ……。
差し出さらた手を、僕は何の迷いもなく握り返した。
神ギャルさんは今までの周りの女性とは違う……
神ギャルさんなら……。
そう自然と信じる心が無意識に神ギャルさんの手を掴んでいた。
「んじゃ! 早速このままカラオケオール行っちゃおっか! ユウタ!」
「あっ……はい!!」
化粧でガッチリ飾っているのに、その笑顔には何の飾り気がなく、僕はその笑顔に導かれるように握った手の温かさを感じながら夜の街に消えて行く。
……あれ? 名前名乗ったっけ?
……まぁ、良いか。
「……少年はアタシが責任を持って面倒見るからね。
アンタたちは……そっちで幸せにね」
「はい? 何か言いました?」
「んなゃ! 何でもな〜い!
よーしユウタ! 今日は歌いまくるぞ〜!!」




