今日は何なんだ……
「あ、なるほどね……」
馬車に揺られ、うたた寝してたらマリンに起こされた。目を擦り前を見ると街の防壁が近くに見えている。
たった一日二日離れただけなのに、ちょっとだけ新鮮に見えるなんて不思議な感覚だ。
「瑞樹、何がなるほどなの?」
で、俺の呟きにマリンが反応する。
さっきまでうたた寝してた奴が、いきなり呟くんだ。そりゃ疑問にも思うだろう。
「ん? それはね、街の食堂に卸しに行くと見せかけて、いい娘がいないか物色に行こうとする、節操無しだったて今気づいたからよ」
「ん? 物色? 節操なし……? あ〜〜……なるほど」
さすがにマリンもピンと来たのか、御者台に座っているソラグの方へ白い目を向ける。
それに荷馬車もそれ程大きく無いから、恐らく俺らの会話も聞こえているだろう。
御者台に座っているソラグとその仲間も会話が、ピタリと止まっていた。
「まぁいいよ、断ったのは私の方だし。ソラグさんもいい歳なんだから、お嫁さん候補の一人や二人いないとね。私の故郷では農家への嫁ぎ先は減る一方だったから、今のうちに物色しておかないと」
「待て待て、物色とか節操無しとか凄く人聞きが悪いぞ。これは、代替わりの為に色々覚えなきゃいけないことなんだよ、それに馴染みの店とかの顔見せにもなるんだ」
流石に我慢できなくなったか、振り向いて反論してくる。
まぁわかる。担当が変わった際にもそう言う事があるし、「これからもご贔屓に」と言う挨拶回りも兼ねているんだろう。それに、断った俺がとやかく言う事じゃ無いな。
さぁ門に着く、ここからは行き先が変わるから歩いて行かないとね。
アレン、くたばってないで降りて歩くよ。
「ソラグさん、ここまでありがとうございました」
「こっちこそありがとう。俺らは食堂へ卸してもいるけど、朝市にも並べてるから気軽に寄ってくれ」
「そうですね、その時は是非。で、誰かいい娘がいたら紹介しろと?」
「もう、勘弁してくれよ……」
二人で冗談を言い合い、農園の人たちと挨拶を交わしそこで別れた。
三人パーティでの依頼でこれなら、大成功と言えるだろう。
「これであとはギルドに報告して完了だね、やったよ!」
そうだね。
後ろのアレンも馬車から解放されて少しは回復しているけど、依然として顔が青い状態だ。
「アレン、報告は私とマリンに任せて先に帰る?」
「いや……俺も行くぞ。何せ初討伐だ、ここは何としても行かせてもらおう」
わかった、アレンの気持ちを尊重しよう。
その代わりその辺で倒れないでくれよ?
「ただいま、依頼終了しました。」
「お疲れ様です。いかがでしたか? 瑞樹さんには些か簡単過ぎたのでは?」
ギルドに戻ると、カウンターでメリッサが出迎えてくれた。
俺がオラグのサインが書かれた依頼書を手渡すと、「確かに」と言って預かる。
そして次いでとばかりに、間接的にランクアップを誘っている。
俺にとっては簡単だけど、これは俺の為の依頼じゃなくて、アレンとマリンがステップアップする為の依頼だ。
それに、魔物を討伐する上でのノウハウも学んで貰わないと。
本来はそれは俺じゃあ不向きなんだけどな。
何せ殆どソロでしか活動してななかったし。
マリンの魔法もだけど、その辺りのことを面倒見てもらえる人がいればなぁ。
「いえ、アレンとマリンにとってはいい刺激になりました」
そう言うと、隣にいるマリンも強く頷く。もちろんアレンもだ。
「そうですか。あ、あと農園の方から連絡がありましたが、デッドラビットが出たとか。」
俺から報告しようとしたが、先触れでオラグが気を利かせてくれたのか。
だとしたら、ある程度の説明が省けるけど、細部は俺自身が話さなきゃいけないよな。
「そうですね。それについてギルマスに直接報告したい事がありまして」
「大丈夫です。瑞樹さんが戻ったら通す様に言われてますので。それと依頼報酬については明日以降に支払いが出来ますが、三等分にしますか?」
用意周到な事だ、ならアレン達とはここでお別れだな。
暫くは体を休めて、次の依頼に備えて貰うことにしよう。
「わかりました、三等分でお願いします。二人とも、これで依頼は達成だよ。次に依頼を受けるのは三日後にしようか。だから明後日の昼頃にここで待ち合わせでいい?」
「「オッケー」」
アレンもあの調子なら夕方には完全に治っているだろう、ゆっくり休んでくれ。
さて、俺はギルマスに会いに行くか。
コンコンッ
「瑞樹です、ギルマスいますか?」
返事がない、留守か? いや、部屋の中に気配があるからいるな……。じゃあ寝てるのか?
寝てたら申し訳ないし、出直すか。
コンコンッ
「ギルマス、起きてますか?」
あれで、結構多忙らしいし、疲れて寝てたら申し訳ない。
これで返事がなかったら、改めて出直そう。
「名前……」
扉の向こうから、ボソッと声が聞こえた。間違いなくギルマスの声だけど。
名前?
名前がどうしたんだ?
俺が黙っていると、再びボソボソと声が聞こえる。
「領主のメルには名前で呼ぶのに、ワシだけ肩書きとか悲しいのう……」
……は? いきなり何を言ってるんだ?
それにあれはメルがそう呼べと言われたからで……。
「ワシのこともデンと名前で呼んでいんじゃよ?」
めんどくせぇぇぇぇぇ!!
戻ってきて早々、超面倒なんですけどぉぉぉぉ⁉︎
何? 説明入らずに帰ってもいいってことか⁉︎
「依頼報酬、デッドラビットの分色も付けちゃおうかなぁ〜」
うぜぇぇぇ!
ってか職権乱用じゃねぇぇか!!
アレンとマリンも頑張った事を考えると……。
「デン、瑞樹です。説明に来たのですけど」
「…………もっと可愛く、何ならデンちゃんと言ってもいんじゃよ?」
二人の為だ、二人の為だ…………。
「デ〜〜ンちゃん、瑞樹が来たから入れてほしぃなぁ〜〜♪」
「うひょぉ〜!」
扉の向こうではしゃぐ声が聞こえると共に、真横でも音が。
「み、瑞樹さん何をなさっているのですか……?」
一部始終を見ていたメリッサが俺の台詞でお茶を落としていた。
「わ…………忘れてください!!」
最悪だぁぁぁ!!
今日は朝からずっと何なんだぁぁぁ!!
ダメだまた恥ずか死ぬ……。
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