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宴だ!!

「さぁ、三人とも食べてくれ。お代わりは沢山あるからな」


 戻る前のアレンとマリンの驚き様もそうだったが、農園の人達もソラグの変わり様に驚いていた。

 そりゃあ最初、あれだけ俺ら三人に冷たく当たっていたのに、朝一の作業から戻って来たら掌を返した様にもてなすんだからねぇ。

 ただ、父親のオラグだけは違っていた。

 息子の過去を知っているだけあって、この光景を見て逆に一番喜んでいる。


「お嬢ちゃん、いや、瑞樹さんと言わせてくれ。ありがとう、貴女に話して良かった」


「いえ、息子さん、ソラグさんの根が良い人なんですよ。過去の巡り合わせが悪かっただけだと思います」


「そう言ってくれて嬉しいよ」


 頭にクエスチョンマークを浮かべている二人にも、昨日聞いたソラグの昔のことを話した。

 アレンも、なる程と頷くがその頬に詰まったパンをどうにかしないと、真剣味が全く感じられないぞ?

 その隣のマリンはちゃんと聞いていたらしく、何かを感じていたらしい。


「それってさ、ケリーも同じ様な事にならないよね?」


 なる程、あいつか。

 街の巡回警備と魔物が街に入り込まれた時に、一緒になった奴だ。

 会ったのは二度だけだけど、二回目のは仲間を危険に晒す行為だ。

 それが仲間だけでなく、依頼主にまで及ぶとなれば話が変わって来る。


「それはわからないけど、信じるしかないわね」


 俺らが話しているうちに、ソラグがまたやって来た。


「食べてくれ、この農園の一番の売りの果物だ」


 これは昨日見た、ピンク色の甘い匂いの果物か。

 皮が剥かれた状態でもほんのりピンクがかって、更に甘い匂いが食欲を誘う。


「いただきます。……美味しい、甘くてすごく美味しいです。一番の売りと言うだけありますね」


「そうか、そう言って貰えて嬉しいよ」


「えぇ、ありがとううございます」


「お、おう。まぁ良いってことよ……」


 俺のとびっきりの笑顔の筈だったのに、そっぽを向いて何処かへ行ってしまった。

 変なソラグだ。


「「美味い!」」


 だから、二人とも食べ過ぎたら動けなくなるって。昨日に続いて今日もか!

 デッドラビットは倒したから良いけど、午後には動けるよな?




「「ごめん、動けない」」


 うん、予想済み。

 君ら、昨日の今日なのに学ばないね……。


「だって出されたものは食べないと失礼じゃん?」


 言いたい事はわかるよ、アレンも食べ盛りだしね。

 でもさ、マリン。


「マリン、太るよ?」


「うぐ…………瑞樹ってば酷い。私も気を付ければ瑞樹みたいにスタイル良くなるかな?」


「どうだろ? スタイル良いかは気にしてないけど、マリンみたいな健康美も悪くない気がするけど」


「それ褒めてないよね? ムチムチだって言いたいだけだよね? これが持つ者と持たざる者の悩みの差か……」


 意味のわからんことを……。

 君の悩みなんて、メルを前にしたら些細なことだと思うぞ?

 そして揉みしだかれてしまえ。

 アレン、視線をどうにかしろ。


「アレン、動けそう?」


「まだもう少しかかる……」


「じゃあ私は裏で少し体を動かして来るわね」


「「うえぇぇぇい」」


 君ら似た者夫婦だな、良いコンビだよ。



 この母屋の裏が広めの空き地になっていて、刀を振るうにはちょうど良かったりする。

 白兵戦は得意とする所だけど、油断は禁物。反復練習あるのみだ。

 俺はお気に入りの刀を抜いて、目の前に仮想の敵をイメージする。

 そして、敵を一体倒すごとに少しずつ強くしていく。最終的には武神ガレルだ。

 あいつには何回かに一回は勝てる様になったけど、それでも防戦一方になる事もあった。

 そう考えると、俺も大分脳筋になってしまったな……気をつけないと。

 そうして、どれだけ時間が経ったのかわからないが、知らぬ間に周りに農園の人達の人だかりが出来ていた。


「凄えな嬢ちゃん、本物の敵と戦っている様に見えたぞ!」


「ありがとうございます」


 イメージでも武神ガレルは強かった。

 回避に専念してから、カウンターを繰り返さないと倒せないとかどんだけバグなんだよ。

 ともあれ、体も十分暖まったし、アレンもギャラリーに加わっているところを見ると大丈夫な様だし。


「アレン、実戦稽古しようか。強くなるにはひたすら稽古と実戦だよ!」


「バカヤロー! その前に死ぬわ!」


 そんな訳あるか。もちろん手加減するに決まってる。

 依頼に支障が出る様な事はしないぞ。

 けど、アレンは頑に参加しようとしない。

 強くなりたくないのか?


「瑞樹は相当強そうだな。俺が少し相手をしてもらって良いか? これでも少しは腕に自信があるんだ」


 そう言いながら木剣を持って出て来たのは、ソラグだった。

 そう言えば冒険者を目指して剣の練習をしてたんだっけ?

 ならばと俺もポーチから木刀を出す。


「なら、受けましょう。いつでもかかって来てください」


「なら遠慮なく行かせてもらおう!」


 そう言って正面から打ち込んできたソラグの剣を、敢えて正面から受け止めた。

 この人はどれだけ練習したんだろう?

 農場で鍛えた足腰と、恐らく今でも自衛のために振っているだろう使い込まれた木剣。

 そして、我流だけど腰下に重心が据えており、打ち込んできた際に重さがきちんと伝わって来る。


「いい感じの重さですね」


 今の段階では、アレンよりソラグの方が強いかな。

 年齢が一回り上だったり、練習を欠かさないでやっているせいもあると思うけど。

 まぁ実戦を経験してない分を加味すると、どっこいって感じか?


「瑞樹はあれだけ自主練している割にはまだ余裕だな」


 そう言いながら次々と打ち込んでいるソラグに少しずつ疲れが見えてきた。

 ならそろそろ終わりにしようかな。

 そう思って俺はソラグの渾身の一撃を去なすと、体制を立て直せないその肩口に軽い一撃を与える。

 

「はい終わりです」


 そう言って顎先に切っ尖を向けて宣言した。

 あれだけ振り回されたソラグの顔は、何故か清々しい者だった。

 今朝まで見た顔とは凄い違いだ。


「ありがとう。久しぶりに充実した練習だったよ」


「いえ、私も楽しかったですので。で、アレンはどうするの?」


 そう、ソラグが打ち込んできている最中、ずっとソワソワしていたのだ。

 一度は断ったものの、やはり気になったんだろうな。

 しょうがない奴め。


「お、俺もやるぞ!」


「わかった。けど、夕方の巡回が終わったらね」


 言質は取った、逃げは許されない。

 なら夕方までに特別プログラムを組もう。

 覚悟したまえアレンよ!





「ぜぇぜぇぜぇぜぇ………………死ぬ……水……」


「はい水、もう少し工夫して攻めようね」


 大丈夫、このくらいじゃ死なないよ。

 夕方の巡回の後、アレンの稽古をつけた。

 ひたすら打ち込ませ、時には躱し時には打ち返し、それを延々と繰り返させた。

 その間マリンには魔法の練習をしてもらった。

 と言っても魔法に必要になる魔力循環ってのをやってもらった。

 これを繰り返すだけで、魔法の行使が随分と楽になるんだよ。


「マリンもそろそろ終わりにしようか」


「はーい」


「丁度良いわね、三人とも汗掻いてるからお風呂で流して来なさい。そしたら皆で夕飯にするわよ。あんた達の分もあるからね!」


「やった! 女将おかみさんのご飯美味しいから好き!」

 

 俺らが終わるのを見計らっていたのか、女将さんが呼びに来てくれた。

 ちなみに名前はモーラと言う。

 マリンもはしゃいでるし、断るのは野暮だろう。

 

「じゃあアレンは裏の川ね」


「マジか! まぁいいけど……」


 マリンの意見に激しく同意だ。

 覗いたら死刑。


 そう言えばよくある話しなんだけど、いくら精神が男でも、女の体で百年もいれば大分引っ張られるな。

 個人差はあると思うけど、俺の場合、男の体に戻ろうとかそう言う考えがほとんど無くなっている。

 元の性格上、考えている時は男言葉だけど、声に出すと女言葉だ。

 この状態で困る事はこれっぽっちも無いけどな。

 で、何が言いたいかと言えば、覗かれたり見られたりしたら普通に恥ずかしいと言う感情が湧いたりする訳だ。

 これはいつの間にか、と言うか魔法神アレフと一緒の時に芽生えて、勢いで殴ってしまった。


「覗いたら、社会的にも死ぬと思ってね?」


「わ、わかった……」


 女将さんにお風呂を借りて、マリンと一緒に汗を流す。

 体を動かした後のお風呂は格別だね。

 このまま宿に帰りたくなくなるわぁ。

 ドリュウには悪いけど、女将さんに頼んで今日はここで寝かせてもらおうかな?

 ってかさっきから視線が刺さるんだけど、マリンよどうした?


「瑞樹は十五歳だよね?」


「そうだけど?」


「うぐぐぐぐ……この差は何⁉︎ 十年後は勝ってやるんだから!」


「知るか! 胸見て叫ぶなぁ! やめろ! 外に丸聞こえだ!」


 クソッ、俺まで叫んじゃったじゃないか……。

 メルの時もだけど、風呂は一人で入るに限るわ。




「女将さんお風呂ありがとございます。夕飯の支度手伝いますね」


「良いって事さ。あ、そこの大皿取ってくれるかい?」


 お風呂から上がって、俺とマリンはそのまま夕飯の支度を手伝うと、タイミング良くオラグ達が戻ってきた。

 これだけ大人数だと、全員が家族って感じだな。

 だからおかずは大皿に盛って、好き好きに自分たちで取り分けるスタイルか。


「お、今日は瑞樹さんとマリンさんも手伝ってくれてるのか。綺麗所がいると食事が進むな!」


「私はどうなんですか? 私は!」


「もちろんマリンちゃんもだ!」


「おだてても何も良いものは出ないですよっと!」


 マリンが上手に返すと、事前に女将さんから預かっていたお酒がテーブルに出された。

 明日も朝から作業があるからアルコール度数は低めだけど、それを見たオラグやソラグ、それに住み込みの皆は大はしゃぎだ。

 そして一斉にマリンコールが上がる。巡回警備の時も感じたが、親父キラーか?

 はしゃぎっぷりがまるで子供だ。

 で、その子供の中にアレンもどさくさ紛れに混ざってやがる。

 まぁ初めての依頼で成功した様なものだし、勘弁しといてやるよ。


「じゃあ依頼達成の前祝と、瑞樹さんのパーティ……えっと名前は?」


「「「あ……」」」


 そういや考えてなかったな。

 二人に何か候補があれば、それにするんだけど……。


「瑞樹が決めなよ」


「そうそう、私らだけじゃパーティ組もうなんて考えもしなかったんだから!」


 わかったよ。

 まぁこう言うのも巡り合わせと言うのか、運命とでも言うのかね。

 女神エレンがロクでもないことには変わりないけど、良い人たちと出会えたことには感謝だな。

 エレンとの約束で飛ばされた様なものだけど、こう言う約束なら悪くないね。


「じゃあ、パーティ名は『エレミス』で」


 エレンとの約束プロミスを掛けわせて『エレミス』だ。

 安直だとは思うけど、『雀の涙』や『猫の額』よりはましだろう?


「じゃあ、エレミスの今後の活躍を期待して、乾杯!」


『かんぱーーい!!!』


 この日は夜遅くまで大騒ぎとなり、俺とマリンは女将さんの部屋で休ませて貰った。

 ちなみに男どもは食堂で酔い潰れてしまっている。

 全員明日が心配だ。

読んでくださり、ありがとうございます。

三人での初依頼は次回で終了となります。


感想や評価など入れてくだされば、今後の励みになりますので、よろしくお願いします!!

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