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先が思いやられるね

「ウチのお母さんがゴメンね」


「何か凄いお母さんだね……」


 依頼主のところへ向かいながら、マリンが申し訳なさそうに謝ってきた。

 エリンが腰に縋り付きながら懇願するものだから、マリンとアレンが無理やり引き剥がしている最中に、俺が何とか脱出して門で待ち合わせして脱出した。

 中々に強烈なキャラだった。

 もしあのまま見せてたら、日が暮れても返してくれなかったに違いない。


 依頼主の場所までは街から徒歩三十分くらいの所だから、話している最中にも遠目から見えてきた。

 街の周りの平野には魔物は殆ど出て来ないんだから、この間のオークがいかに異常かわかると言うもんだ。

 ちなみにこの間の魔物達の襲撃とは反対方向だから農場も無事だったわけだ。


「すいませーん! 依頼を受けにきた冒険者です!」


「おーい、こっちだ!」


 農場の奥で声がする。そりゃもう午前中も真っ只中だしな、仕事してるわ。

 呼ばれて向かうと、二人の男性が出迎えてくれた。


「来てくれてありがとう。俺は農場主のオラグだ、こっちは息子のソラグだ」


「フンッ」


 ん? やけに機嫌が悪いな。

 まぁそれより依頼内容だ。あれだけじゃ判らない事があったからな。


「初めまして。俺はアレン、こっちの二人はマリンと瑞樹です」


「君ら三人か? 結構厳しいと思うが大丈夫か?」


「僕とマリンはまだ駆け出しですけど、瑞樹はベテランなので、教わりながらになります。」


「まぁ退治してくれるなら、何でもいいさ」


 まぁそうだわな。

 ここが出発点となるから、アレンとマリンには色々覚えて貰おうか。

 けど、さっきからソラグって言う息子の方の視線がやけに気になるんだが……?


「フンッ、お前らに退治できれば苦労はねえよ!」


「おい、ソラグ! すまん、作物の被害が出てて気が立っててな。で、詳しい話をしたいんだが、坊主がリーダーでいいのか?」


「「あ……」」


 おい、何で俺を見る? 特にアレン、自分から前に出といて俺に投げるとは何事か。

 二人とも討伐依頼は初めてだし、しばらくは俺が主導でもいいか。

 あれ? 俺も初討伐依頼じゃね?


「アレンってば、まぁいいわ。オラグさん私が話を伺います。まずは、主な出現場所か発見場所を伺いたいのですが……」


 それから俺は出現場所、そして時間帯、大体の数、そして亜種っぽいのが居なかったかを聞いて、三人と今後の方針を話し合うことにした。


「依頼主から判った事を説明するよ。まずは出現場所、これは主に根菜を主食とするから、この辺りね」

 

 そう言いながら、依頼主に描いてもらった農場の大まかな地図に指を指しながら説明する。

 二人とも頷きながらしっかり聞いてる。いい感じだね。


「次に出現時間帯、ホーンラビットが現れるのは主に夕方前、朝一で見る時もあるけど大半は夕方辺り。そして数は十体前後、これはその時々で前後するけど大体似たようなものね。最後に、亜種はここ一週間では確認できなかったそう。ここまでで、質問はある?」


「何で狙われているんだ?」

 アレン君良い質問ですね! けどそこの所は依頼主もわかっていない。

 そして、畑自体にも柵はあるんだけど、そこはウサギらしいと言って良いのか、柵の下に穴を掘って侵入している様だ。後ろ足の力も大きいが、魔物となると前足の力も大きいから一分もあれば侵入を許ししてまう様だ。


「亜種ってどんなの?」


 マリンさんもいい質問ですね! この亜種ってのを見ないのも一応理由がある。


「亜種の名前はデッドラビット。普通のホーンラビットって草食で角で、そこまで長く鋭くは無いけど、亜種の角は長く鋭い。そして体毛は赤く……性格は獰猛で肉食だよ」


 そこまで話すと、二人はゴクリと喉を鳴らした。

 ちょっと脅しすぎたかな?

 ホーンラビットの集団の中にいる事が稀で、この辺りだと大森林にいる確率が高いんじゃないかな?


「まぁ二人が遭遇したら、目を離さずに離脱してね。離した隙に突進されて、角で刺されるから」


「わ、わかった……」


 俺も未熟だった頃に遭遇した時は結構苦労したもんだ。

 何せただの突進だと思ったら、弾丸の様な速さだからな……。

 おっと、話を戻そう。


「で、今後の方針なんだけど。一応朝にも目撃報告があったと言う事だから、早朝から全員で巡回して昼間は交代で休憩。そして夕方はまた全員で巡回って感じかな」


「わかった。取り敢えずそれで行こうか」


 俺の案に二人が乗った。

 そこまで説明すると、依頼主がお昼を提供してくれた。

 通常の依頼だと、冒険者が自分らで持ち寄って食べるんだけど、依頼主であるオラグの考えで、依頼中はお昼を提供してくれるそうだ。

 息子の態度が少し気になるけど、経費が浮くのは助かる。

 そして食材が採れたてだから美味しい。


「「旨い! おかわり!」」


 お前ら……三杯目はそっと出せ!


「あらあら、いっぱいお食べなさい」


 オラグの奥さんも気を良くしたのか、沢山おかわりをする二人にさらに山にして注ぐ。

 昼から動けなくても知らんぞ?




「「ごめん、少しだけ休ませて……」」


 打ち上げられたトドのように情けない姿を晒した二人がそこにいた。

 ほら言わんこっちゃない、先が思いやられる姿だな。


「二人とも、依頼中は腹八分目にしといて下さい。いざと言う時に動けませんから」


「「うぇぇぇい……」」


 返事なのか、呻き声なのか判らんような返事を聞いてからその場を後にする。

 取り敢えずは俺だけでも下見にでも行こうかな。



 なる程、果樹園もあるのか。

 歩いている道沿いには、大きなネットに囲まれた果樹園が広がっていた。

 ピンク色の実の甘い匂いに誘われて遠くで鳥の鳴き声が聞こえるが、口に出来なくて悔しそうに鳴いているようだった。


「鳥達も残念だけど他を当たってね、でも問題はこっちの畑かな?」


 果樹園を挟んで道の反対側には、問題の畑が広がっていた。

 そこには大根の他に人参もあれば、その向こうにビニールハウスに囲まれたトマトまである。ってかこの世界、ビニールハウスってあるんだ。その名前が正しいのかはわかんないけど、まぁ栽培方法として確立してるのは正直凄いね。

 そう感心して見れば色々手掛けているんだな。

 そして畑の所々にはオラグやその息子のソラグではない、他の人もいた。

 そりゃこれだけ広大な土地を家族だけってのは厳しいよな。


「こんにちは〜!」


 俺が挨拶すると、手を振って返してくれた。

 どうやら、俺らが来てる事を話してくれていたようだ。


「フンッ」


 どうやらその中にソラグもいたらしく、鼻を鳴らしながらそっぽを向く。

 あまり余計な摩擦は増やしたくないんだけどな……。


「どう、動けるようになった?」


 下見を終えて戻ってくると、二人は身を起こして装備の点検をしていた。

 いつでも出れる様には、しといてくれたみたいだ。


「瑞樹、ごめんね」


「初依頼はしょうがないよ。けど、ここからが本番だよ。畑まで行って最終調整しようか」


「「わかった!」」


 もう一度畑に出向いて、俺が何かを言う前に二人の感想を聞いてみる。因みに温室の事をそれとなくマリンに聞いてみたところ、正式名称は『スライムハウス』って言うらしい。何やらスライムをそのまま捕まえて核だけを抜いたのを錬金術師が色んなものと合わせて加工するらしい。

 って事は、これは全部スライムでできてるって事か。


「このスライムハウスが破られて中のトマトをやられてるなら、三人でここを囲うか?」


「アレン、それじゃあ他の作物が狙われるよ!」


「じゃあマリンの考えを教えてくれよ!」


「私なら、進入路の第一候補にアレンでその次の候補に私。そしてスライムハウスの近くに瑞樹だね」


 案としては、悪くないんじゃないかな?

 一番確率の高い場所をアレンに見張ってもらって、穴から現れたところをそのまま叩く。

 それを取りこぼしたとしても、マリンがフォローすれば良いし。


「その根拠は?」


「私らに止めれなかった取りこぼしを、瑞樹にフォローしてもらう!」


 ま、まぁいんじゃない?

 自分らの能力を冷静に理解している。とでも言おうか……。


「よし、それで行こう」


 アレンも頷くんじゃないよ。もう少し考えろよ。

 

 まぁ取り敢えず、依頼に集中するか。


久しぶりにスポーツをしたら、全身が筋肉痛です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ビニールハウス…ビニールハウスねぇ… 現実だとビニールが実用化できたのはごく最近(20世紀半ば)なんだよねぇ 重火器や電気、工場、車、飛行機とかなさそうな世界だけどオーバーテクノロジ…
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