CHAPTER9ー5 狙い通り
お久しぶりです。
1か月以上投稿が滞ってしまったこと、申し訳ない限りです。
少なくとも1か月に1話の投稿を心がけていたのに、有言実行できませんでした。
次話からはこのような事が起きないよう徹底しますのでどうかよろしくお願いしますm(__)m
ー???ー
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静寂………………………………………………………
囁き声が僅かに聞こえる気もする。
「む………………………………」
寝ていたのだろうか。酷く瞼が重い。無理矢理瞼を開けると真っ白な世界だった。
「は?」吉田は異変に気付き、ガバッと起き上がった。
「痛っ……!!」吉田は呻いた。
シャーッ、と音がした。
「吉田君!起きましたか!!」聞き慣れた声だ。
吉田はそれに応える余裕がなく、ベッドに戻った。よく見るとカーテン、天井、脇の棚には水差しや花瓶や、テレビなどが置いてある。
「ごっつぁん………」吉田は呼びかけた男子を見た。
「いや~~心配しましたよ。生きててよかった~~地球に生まれてよかった~~~」
「ここどこ?」吉田は後藤を無視して聞いた。
「病院ですよ。」
「病院…………」
「服を見れば分かります。」
吉田はそう言われて下を見た。入院着を着せられている。
「あれ…………」
「記憶が飛んでますな。刺されたのを忘れたんですか?」そう言うと、後藤はどこかへ行ってしまった。
「………………」
校舎。非常階段。2階。人質。戦闘。日本刀。女。………
「!!!!!」吉田は一気に思いだし、起き上がろうと上体起こしのように跳ね起きた。
途端に、脇腹に激痛が走った。
「ぐぅ…………」改めて刺されたかのような痛みに吉田は起きるのを断念し横になった。
「貴司!!!!!」叫び声がした。吉田が振り向くより早く、何かが覆い被さってきた。
「むっ……」
「貴司ぃ………よかった………よかったよぅ…………」
よく見ると岩本であった。普段は笑顔に溢れる彼女が安堵からか泣いている。その後に、川北先生と後藤が現れた。
「目覚めたようですね。」
「はい………僕は気絶してたんですか?」
岩本がガバッと起きて離れた。
「うん………とにかく凄く血が出てて………呼んでも反応がないから、本当に………本当に………」岩本は吉田から目を背けた。
「思い出しました?」後藤が気遣わしげに聞いた。 「断片的には。」吉田は目頭を押さえた。
「僕は何時間くらい、意識を失ってた?」
「うーん………えっと………80時間くらいですかね?」後藤は悪戯っぽく言った。
「えっ………なんだって?僕は……あー、3日も気を失ってたってこと?」
川北先生と後藤が頷いた。
「お陰でクラスマッチ男子と混合はぼろ負けですよ。あんなに欠員を出して勝てたら奇跡ですけどね。」川北先生は苦笑しながら言った。
「あんなに欠員を出す……?」
「小林君と鈴木君と、小橋君と吉田君です。一体君達は何をしてるんです?全員………小橋は違うが……入院するなんて。」
「入院しなかった小橋君も、怪我してますからね。」
「いや………えっ、小林達が入院?!」
「彼らも重傷ですよ?入院するに決まってますよ。」川北先生は苦々しく言った。
「えっ………えっ!」吉田はガバッと起き上がった。途端、激痛に襲われる。
「ぬっ…………」
「落ち着いて下さい。みんな命に別状はありませんから。一番重傷なのは君なんですからね。弁解は後にして下さい。」川北先生は丁寧にはっきりと言いつけた。吉田は罪悪感に溢れた表情になったが横になった。
「まあ、一般人を巻き込んでしまいましたからね。謝らなきゃならんでしょう。私は既に謝りましたが、『自分達が首を突っ込んだことだから』って言ってましたよ。
「………………そうか………」
「ご両親には一応本当のことを言いましたが、どうやら何かの刑事事件に巻き込まれたと思ったらしいです。」川北先生は一歩下がった。
「目が覚めたなら警察の人が君に話があるそうです………今すぐでも大丈夫ですか?」
「警察………?ああ………あ…大丈夫です。」吉田は顔をしかめた。
「すみません、岩本さん。心配おかけして………」吉田はそう言ったが、顔をそらしたままの岩本は何も言わずに頷いただけだった。
「じゃ、また後で。」後藤が頷き、3人は出て行った。
「………………ごめん、小林、鈴木君、小橋…………」罪悪感が込み上げてきて、自分が情けなく感じられた。
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「殺しはしてないんだな?」
「はい。生きている確認が取れました。今は○○病院で治療を受けています。」
とある、高校の倉庫。長身の女が見える。しかし話し相手は奥にいるためか見えない。
「しかしだな、俺は手を出すな、と言ったはずだが?殺るなら殺るでしっかり始末をつけなかったのは何故だ?中途半端な試みのせいで、警察が動き出してしまったではないか。そこをどう釈明する?」
「殺るつもりでしたが………思わぬ邪魔が多数入り、止めをさしたと思った一撃を心臓ではなく腹部にもってかれたのです。援軍が集まりつつありましたので、清水も私も逃げるしかありませんでした。」
「よかろう。しかし命令違反は命令違反だ。」
「………………」
「主に歯向かうとどうなるか、今一度その体に覚えさせよう。」
「………………」
カチッ。
「ぐあああああああああああぁああああぁああぁあぁあああぁああぁああぁぁぁあぁああああぁああぁあぁあああぁああぁああぁぁぁあぁああああぁああぁあぁあああぁああぁああぁぁぁあぁああああぁああぁあぁあああぁああぁああぁぁぁあぁああああぁああぁあぁあああぁああぁああぁぁぁあぁああああぁああぁあぁあああぁああぁああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」上久保が絶叫する。上久保をもってしても避けらない速度で、スタンガンが突きつけられ、気を失わない限度の電流が流された。
「貴様の忠誠心が揺るがぬよう。」男の声を最後に、絶叫は止み、上久保はバタリと倒れた。
ー病棟ー
「では、君を刺したのは全くの見ず知らずの人だね。」
「そうです。通り魔的なものでしょう。」
「何か会話を交わしていたとの目撃情報があるんですが?」
「向こうが『死ね』だの『殺す』だのと錯乱したように言ったので、制止する際に二言三言発しました。あれを会話と呼べるなら、ですね。」
警察官の質問に吉田は滔々と嘘をついていた。
はっきり言い切るわけでもなく、迷うわけでもなく。なるべく事件を公にしたくないのは大富豪同好会にしても、3Gにしても同じだった。
だが後藤が言うには、ニュースに取り上げられたらしい。それほど世間を賑わわせたわけでないにしても、公にならなかったわけではない。
それは幸いなことだから、吉田ももうこれ以上蒸し返すつもりはないらしく、わざわざ事を荒立たせることもしたくなかったのだ。
「ふう~~。」
1時間強の質問が終わり、ようやく横になる。試しにトイレに行くのに立ってみたところ腹の激痛は全く癒えていなかったので、諦めて大人しくしていた。
「終わりましたか。お疲れ様でした。」後藤が入ってきた。吉田は天井を見たまま言った。
「ごっつぁん、学校ではどうなってる?やっぱり騒ぎになったかね?」 「そりゃあ事件が事件ですからね。話題にならない方がおかしいでしょう。大富豪同好会が関わってきたことや、どんな仕事をしてきたか、とかもばれたて思いますね。」
「……………そうか。」
「……いつかはばれたとは思いますがね。生徒会が黙ってませんよ~棋道部の部費をそんな仕事に使ってたなんて。」
「別に改ざんしてないぜ?何に使ったかを書く報告書に『努力費』って書いたんだから。」
「…………それでよく通りましたね。」
「我らが棋道部の文系の川又君の詭弁には目を見張るぜ。フハハ……痛っ!」笑った瞬間、腹に痛みが走った。
「全治2か月らしいですよ、傷。」
「なんだと。」吉田は顔を上げた。
「2か月?」
「なんでも大腸を貫通したらしく、完全に塞げる体力も無ければ、費用もない、だとか。吉田君には。」
「しまった……やべ!とにかくこの痛みがあったままでも良いからここを出よう。」 「はあ?何を言い出すんですか。」
「入院費がいくらかかると思ってるんだ。」吉田は吐き捨てるように言った。
「払えるわけ無かろう!奴に賠償させることすら不可能だろう。だとすればどうやって捻出できるのだ?バイトもできないのに!!」
「………そうですか。」 「………フム。胃を貫かれるのとはまた違った痛みだな。」吉田は上体を起こした。
「無理を言ってるのは分かってる。こないだの入院だって、半分も居ないで無理矢理出たんだ。」
「………そうですね。」 「………………仕方ないさ。貧乏人なのは自分の責任だしね。」
「でも怪我が悪化しますよ………?」
「傷口を無理矢理縫ってもらおう。抜糸も後回しだ。」
「マジですか………」後藤が苦い苦い笑いを浮かべた。
「ま、前回よりはマシさ。」吉田は軽く言った。前回の怪我は腹を貫かれる大怪我で、自分が死んだと思ったほどだ。胃が直るまで何も食べることができず、二次災害的な苦痛に比べれば、痛みだけの今回はまだマシだった。
「さてと。」吉田はふいに起き上がった。
「どうしました?」
「小林達んとこに行く。岩本さんや先生は?」 「帰りましたよ。あんまり寝てなかったみたいで疲れてましたから。」
それを聞いて吉田は顔をしかめた。
「まあ………過ぎたことです。あとで謝った方が良さそうですね。」
「それで済めばいいけど…………ッ……」
起き上がりかけて顔をしかめた。
「ああほら。車椅子で送りますよ。」
「いや、いいよ。」
「ほう?では無理矢理車椅子に座らせることになりますね?今なら私は負けませんよ。」後藤はフッフッフと笑った。吉田は呆れたような、困ったような顔をした挙げ句、「お願いします。」と言った。
入院している階が違ったので、車椅子を押してくれたのは幸いだった。
小林と鈴木はそれぞれ包帯をしているだけで、寝転んで漫画を読んでいた。
「よう、貴司。」小林はこちらを見たあと、また漫画に目を戻して言った。
「ん……いや二人とも無事?痛みは?」
「自分よら重傷な奴に言われるとはな。」小林がクックッと笑った。
「いやそりゃそうだけどさ………二人とも本当にごめん。変なことな巻き込んじゃって。」吉田の珍しく殊勝な態度に面喰らったのか、小林は呆気にとられた顔をしている。対して鈴木はニカッと笑った。
「気にしてないけどさ。教えてほしいな。犯人は誰で、何のために俺らを殺そうとしたのか。警察に聞かれても、分かりませんしか言えなくて、怪訝な顔されたぜ。」
「いや貴司が、何でも屋みたいな活動してんのは知ってっけどさ。いくらなんでもありゃなんだ。お前敵居すぎじゃね?」小林が言うと、吉田は苦笑した。
「商店の客取り合戦みたいなもんかな?鈴木君を襲ったやつはその一人だ。」
「なんでまた俺なんかを。」
「僕を黙らせるためだろう。」吉田が言った。
「暴力団と同じ手口でさ。標的を攻撃し復讐したりするのに、家族や友達を攻撃するんだよ。あの場に、鈴木君が居るのに戦い始めたのは迂濶だった。鈴木君を人質にとることは目に見えていたのに。」
「…………………」
「だから、あんまり奴らと関わりあわせたくないから、なるべく目立たないようにしてるのさ。二人が殺されでもしてみろ、僕は二人の友人や家族にどんな顔をして謝ればいいのか、想像もつかないよ。だから今回の一件だけで…………」 「手を引けってならお断りだ。」小林が素早く遮った。
「悪いが、俺は俺で復讐したいんでね。『交渉より報復を』だ。」
「いや逆だろ……」
「だから貴司がどう思おうが、感じようが知ったこっちゃない。と言うわけで、詳しく教えろ。名前やら、住所やら。」
「…………本気か。」
「無論。」
「…………………」吉田は振り替えって後藤を見た。後藤は肩をすくめて首を傾げて見せた。鈴木も小林も真剣な顔だった。
「少し、考えてみるわ。これは僕達だけの問題じゃないからね。」吉田がそう言うと二人は顔を見合せ、不満そうな顔をしたものの、頷いて見せた。