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CHAPTER8ー2 開戦、クラスマッチ

日常が戻ってまいりました。閑などこにでもある風景…なのでしょうか?


少し遅れましたが、無事投稿。皆様これからもよろしくお願いします。

ー教室ー


「まもなく、クラスマッチの本番ということで………明日の体育は男子はF組男子と、女子はF組女子とそれぞれ練習試合だそうだ。」小林が言った。

「明日?」

「そっ。」黒澤の問いに小林は断言した。

「練習はこれまで大量にしてきた。だがいざ試合をしてみると、なかなか思うようにいかないのが常識だ。だから、練習試合らしい。但し怪我はすんなよ?」

「いいね?俺らの実力を思い知らせてくれる!」堀江がそう言って、拳を掌に打ち込んだ。

と鐘が鳴り授業開始を告げた。


「じゃあ、赤松君。この類題をお願いします。」G組の副担人にして、数学の教師の柴崎先生が楽しそうに言った。

「みんなさ、『フェルマーの最終定理』って知ってます?」柴崎先生は赤松が解いてるのを見ながら言った。何人かが曖昧に頷いた。

「フェルマーは実はそんな有名、実力のある数学者ではなかったのです。アマチュア、と言った所です。彼が残した最終定理とは(xn乗+yn乗=Zn乗 n≧3の時、X、Y、Zを満たす整数解は存在しない)です。」言ってる事は分かるが、なぜ突然言い出したか分からなかった。

「フェルマーは証明に関しては(私はこの命題に対する驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎて書けない。)のメモしか残していません。あまりにも長い期間を費やし、オイラーやパスカルといった有名な数学者すら苦しめました。1993年にようやく解かれますが、それまでに何人もの挑戦者をなぎ倒したこの法則。実は…………………………………」柴崎先生が一拍おいた。

「実はフェルマーが証明を持たず、単に思い付いただけという可能性があるという噂があるという噂があるという噂があるという噂があるという噂があるという噂があるのです!」

「ちょい!」何人かが叫んだ。柴崎は含み笑いをして言った。

「ですから、皆さんもこういう賢さを学びましょうね?ありがとう、赤松君。」赤松が解き終わるのを見届け、柴崎が言った。その後は淡々と授業を続けた。

「貴司君、次当たるんだけど、分かる………………?」吉田の隣席の蛯原が問題集を見せてきた。

「なんでここで円を使うの……?解説読んでも分からなくて……」

「はい?」吉田は自分のノートから顔を上げ蛯原から問題集を受け取った。

「ここ。」蛯原はシャーペンで指した。

「………………」吉田が考え始めた……と思ったら、すぐに顔を上げた。

「軌跡が円になるからですよ?ひょっとして、長方形で考えてません?」

「………………」蛯原は黙って吉田から問題集を受け取り、解き直し始めた。数分後、ホッと一息ついた所を見ると、図星らしい。

「貴司君、次当たるんだけど、教えてくれない?」

「顔近い。キモい。自分でやれ。」吉田はそう言って前から後ろを振り返った海老澤の顔を押した。海老澤はちっと舌打ちをして、言い直した。

「ここ分からんから教えて」

「最初からそう言え。気色悪い。」吉田が海老澤の指す部分を見た。

「………………お前、軌跡を長方形で考えてないか?」

「違うのか?」

「違うな。4箇所からでる等距離の線だから。……やっぱり。」吉田が海老澤のノートを除き込んで、作図を見ながら言った。

「なるほど~サンクス。」

「ねえねえ貴司…分からない所が……」

「腐れ。」吉田が右隣の小林を一蹴した。

「酷いな。明日のスタメンお前3番でいい?何番がいいのか分からなくて……」

「わざとらしく『分からなくて』を付けるな。リーダーなんだからどうぞご自由に。」

「そう?じゃあそうさせてもらう。」小林は机の上に顔を戻した。よく見ると、ノートには明日のスタメンと守備位置が書いてある。それでよく学年のトップクラスにいられたもんだ。



授業が終わると何人かは部活へ、何人かは委員会へ行った。小林はバッティングセンターに行くとかで、鈴木や小橋などと10人くらいででて行った。吉田も誘われたが、部活と言って断り、小林もあっさり認めた。

「もう5月か。」海老澤が部活のジャージに着替えながら言った。同じバスケ部の金子が苦笑した。

「早いよね?俺勉強ほとんどしてないからヤバイんだよね。授業ちんぷんかんぷん。」

「まずいな、そりゃ。でもまだまだテストまで時間があるし今は目の前の事をやらんと。」海老澤が言い切った。

「貴司は1日にどれくらい勉強してんだ?」

「日によってばらばら。0か3時間くらいか。」

「そんなんであの成績かよ?」金子が言った。

「成績ねえ…ぶっちゃけどうでもいいんだよね。学校のテストなんざ暗記で点取れるし。」

「やっぱり東大とか狙ってんの?」

「狙ってない。東京には行かない。あんな人がウジャウジャ居るところにいったら身が持たないよ。じゃ。」吉田は荷物を詰め終わり、教室を出ていった。教室に残っているのは海老澤と金子だけとなった。



ー体育館ー


「じゃあ、もう志穂が被害にあうことはないのね?」

「うん。大丈夫だよ。」三次が答えると松本舞は考えるような仕草をした。気になることがあるようだ。

「凄いねー大富豪同好会。それなのにどうして、同好会なのかな?」

「部の方が上だよね?確かに何でだろ?部費も出るのに。」

「ああ、部費出ないんだっけ。だから、研究費を取ってるのかな。」

「賄えるのかな?1回1000円って言ってたけど、普通に交通費とかで消えちゃうよね?部室は棋道部室だから関係ないかな……?」

「何か考えがあるんじゃない?

悪口じゃないけど、あの人達の考えなんて分からないもん。」

「そうだね。何考えてるか正直分かんない。」三次と松本は笑った。

「だけど、ちゃんと解決には辿り着くからすごいよね。」

「うん。」

「志穂、なんか表情が明るくなったよ。」松本が微笑んだ。女子の三次すら思わず見とれてしまった。それくらい魅力的だった。

「そう?ありがとう。なんかね………楽しい。」

「楽しい?今まで楽しくなかったの?」

「………うん………なんかただただ毎日を過ごしてる感じがしてね。つまらなかった。でも今は………楽しい。」

「…良かったね。」松本はそう言って、ネットを張りおえた。二人はそれ以上は言わずにバド部の活動に励んだ。


ー棋道部室ー


「ヒハッ!!!」吉田が大声で入った。案の定、本を読んでいた大澤はびくつき、本を取り落とした。

「先輩か…こんちはーー」落ちた本を広い上げながら大澤が挨拶した。

「よう。」吉田は荷物をドカッと下ろすと、おーいお茶のペットボトルに詰めた冷却水をごくごくと飲み始めた。

「暑いな?」

「結構暑いですね。窓開けます?」

「よろしく。」吉田が言うと、大澤は立ち上がって窓を開けた。

「大澤……」

「はい?」吉田がペットボトルの蓋をしながら言った。

「飛び降りろ。」

「はいい?」

「飛び降りろと言ったんだ。」

「何故?」

「大澤………人間はいつか死ぬよな?」

「………はい。」

「それだけだ。飛び降りろ。」

「意味不明なんですけど。」

「大澤……」

「そんな哀れな者を見るような目で見ないで下さい」

「最後噛んだな。句点がないぜ。」

「誰に説明してるんです?」

「うるせえな。」

「先輩が言い出したんでしょう!」

「腐ってやがる…………」

「ナウシカですか。」

「黙れ小僧!!」

「美輪さんですか。」

「そこで何してる!」

「……………ネタですか?」

「当たり前だ。ラピュタ。」

「…………そんなシーンありましたっけ?」

「親方がパズーに呼びかけるシーンだな。かなり序盤。」

「すみません、分かんないです。」

「身を投げろ。」

「ええっ?!」

「さあ」

「『さあ』って!」

「とまあ、冗談はこれくらいにして。」

「ホッ」

「自ら手を下すか。」

「ちょw結局死ななきゃならないんですか!」

「死ななきゃならないって…当たり前だろ。」

「うう……」

「人間はいつか死ぬんだから。」

「なんかこのやりとりが周回する気がするんですが。」

「疲れた。」吉田はそう言って、漫画に手を伸ばした。

「ハガレンの18巻そっちにないか?」

「………………………………ありました、ハイ。」

「サンクス。」吉田は呑気に漫画を読み始めた。部室にいるのに部活である将棋や囲碁をやらないのはどうかと思われるが、大澤はもう慣れていた。

「先輩。」

「なんだ、グラトニー。」

「なんで俺がグラトニー(英語で暴食の意)なんですか?!」

「体型。で、なんだ。」

「体型て。いや先輩に聞きたいんですが、クラスマッチ出ます?」

「出るよ?」

「自ら進んでですか?」

「うーん、違うかな。友達が推薦したのを何の躊躇もなく了承したから………なんとも言えんな。」

「そうですか…自分から立候補してヘマしたら、ヤバイですかね。」

「立候補したいなら、すれば?チームプレーであるからには誰が悪いとかは無いんだがな。エラーはな……………まぁ、恨まれるな。いや、怨まれるな。」吉田はケタケタ笑った。

「はぁ………俺どうすればいいっすかね?」

「知るか。自分で決めな。だがな、クラスマッチの意義をよく考えろよ。」吉田はそう言ったっきり、口を閉ざした。この話はこれで終わりだと完全に言い切った、口調だった。

「………………」大澤も将棋の本に目を戻した。

と。


「ゴルァ!!!」勢いよく扉が開き、同じ2年の棋道部員の川又が入ってきた。

「うぃ。」吉田が漫画から顔を上げ、手を上げた。川又も手を上げる。

「ハガレンか。俺も俺も。」川又はそう言うと、13巻を拾い上げて読み始めた。

「川又君よ。川又君はクラスマッチ出る?」

「でるよ。人数不足。」川又は苦笑いした。吉田は川又が女子の多い文系のE組である事を思い出した。

「なるほど。出来るの?」

「出来ない(笑)だが、俺一人が下手な訳じゃないし。それに参加できるだけで充分じゃん?」

「まあね。クラスマッチで勝ったら出るのは………金くらいか。」

「俺は出たかったから出た。文句いうやつはぶちのめしてくれる。」川又は拳をさすった。

「おいおい。」吉田は呆れた顔を作りながら苦笑した。川又はニヤッと笑った。

「クラスマッチで金を賭けたがために殆んどのクラスが本気だからな……主旨が失われないか?」

「確かに。川又君が言う通り、親睦……を深められるかね?敗退したら責め合うクラスが殆んどだろうな。主旨を間違えてるぜ。」 「俺のクラスも金に飢えてんな。勝てればいいが、負けたら修羅場だな。吉田くんの所は?」

「案外そうでもないんだよ。勇気ある男子の一人が、女子に聞いたんだ。何のために一生懸命練習してんのかって。そしたら、『みんなで仲良く学校生活を過ごしたいから』だとさ。いやはや、拍手したくなったね。きれいごとじゃないのを証拠に、毎日のように楽しく話してるしな。口には出さないが、あのクラスは凄いよ。」吉田が言った。川又がほっと息をついた。

「美しい話だな。」

「全くだ。どこまで理想論が現実に沿うかね?」

「ま、面白くていいよな?楽しいぜ、そういうのを援護するのは。」

「だな。」吉田と川又がトランプを出してポーカーをやりはじめた。

「賭け金は?」

「ノーレートで頼む。金欠状態だ。」川又が言った。

「つまらんな?まあ、いいさ。交換は2回な。」

「先輩。」吉田がカードを配り始めた時に、大澤が鞄をもって立ち上がった。

「すみません、今日は退かさせてもらいます。」

「……そうか。」

「お疲れ様。」吉田と川又は適当に手を上げて挨拶した。大澤が急いで出ていった。足音が階段を下り、聞こえなくなった。


途端に、吉田と川又は椅子から立ち上がり、部室のドアを開け、左右を確かめ、ドアを閉め、鍵をかけ、出窓に覆いをし、電気を消し、窓を閉めた。

「……………ったく、川又君よ。聞いてたな?」

「さすが♪アイコンタクトで分かったな?」

「ああ。だがな、大澤は何をしにいったんだろ?」

「ラノベなら、クラスメイトを集めて、『金より友情』みたいに言って皆も承諾してくれるんだがな。」

「なんにせよ、大澤はこれで金の亡者にはならんだろうな。」

「クラスメイトに殺されなけりゃいいけど。」

「殺人の苦しみを知らない人がそう言うこと言わない。」

「スマン。」

「さて続きやるか。」吉田が椅子に座り直した。川又がドアの鍵と覆いを退け、吉田が窓を開けた。


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