CHAPTER6ー2 風紀委員会
棋道部室の下の階の生徒会室では、始まったばかりの風紀委員会の集まりが行われていた。
「没収品は全部で5点、いずれも任天堂DSやPSPといったゲーム機です。」
「手緩い。」生徒会長兼風紀委員長の大束が言った。
「そんな事はどこの学校だってそうだろうが。」
「……持ち主は皆、3年生です。」
「手緩い。」大束がまた言った。
「と言いますと?」
「そんな奴等はどうだっていい。2年の大物を捕まえなくては意味がないぜ。」
「2年の大物?」副委員長の桐原が聞く。
「覚えてる奴は?」
「ハイ。」そう言って手を挙げたのは小林に詰め寄ったあの1年女子である。
「よし、横倉。言ってみろ。」
「2年B組が後藤、田子、松井。C組に阿部。D組に飯沼。E組に大須賀と川又。F組に鈴木。最後にG組に小林と吉田。以上です。」
「素晴らしい。」大束が傲慢な笑みを浮かべる。
「奴等が他の生徒達を触発し、この学校を荒廃させている。もしもこの状態が続いたら学力低下が問題になって、職員並びに生徒会がとばっちりを受けるぞ。」
「それで、まずは生活面からか。」桐原が言った。
「だから、奴等を因縁つけてでも、痛い目を見せないと。大半の先生方は巻き込んだ………サッカー部以外の運動部員の3年の協力も得られた………あとは、口実だ。何か良い案があるものは?」
こうして生徒会室での暴挙は続いた。
ーグランドー
「センター!!」堀江が叫んでボールをバットでかっ飛ばした。
「うわっ、眩し!」館が顔を上げた瞬間に言った。
そして落球。
「眩しいなら、自分の手で影を作ればいいだろ。」ライトにいた小林が言った。
「慣れてねえんだから。サッカーであんな高い球ゴールキックですらないぜ。」館がイライラしながらこぼれた球を拾った。
今はクラスマッチに向けた練習中である。昼休みは朝練と放課後に時間をとられる運動部がだいたいである。バスケ部は例外だが。
堀江がバッターボックスに入った。
ピッチャーの園部が投球モーションに入る。
投げたぁ!!
そして打つ。サードにボテボテのゴロとなる。
軟式野球部の小橋が簡単に捕球し、ファーストに余裕をもって投げる。ファーストの長身テニス部員の春日がこれまた余裕で捕球。
園部がマウンドを降り、サッカー部の大塚に交代する。バッターボックスには、軟式野球部の鈴木が入る。
一球目と二球目はボール。三球目に鈴木が打つ。
左中間を真っ二つ!! 俊足の館、レフトのハンドボール部の大高が追うが間に合わない。鈴木が3塁に達して、ようやく内野にボールが戻ってきた。堀江がバッターボックスに向かいながらライトの小林に叫ぶ。
「ちょうどいい機会だ。小林君!犠牲フライを阻止するんだ!少し深いぞ。」そう言って大塚に合図する。
大塚がポーンと軽く投げる。堀江が打つ!
小林が少し浅めでキャッチ。鈴木がタッチアップからスタート!
「ぬううおおおおおぉぉぉっっっ!!」小林が吠えながら全力投球!
だが、しかし。
ボールはキャッチャーのバド部の山田の5メートルも手前で落ち、鈴木は楽々生還。
「小林君、早さよりも正確さだよ。イチローみたいにレーザーしようなんて無理なんだから、キャッチャーに届くよう高く放り投げないと。」堀江がため息をついた。
その時、予鈴が鳴った。
「む、もう終わりか。じゃあ皆お疲れさん。間違いなく上達した。こりゃ練習してないチームだったらコールドだな。」堀江がそう言うと、皆がクラスに戻り始めた。
ー棋道部室ー
「どうだ?何か分かったか?」
「何も。」大須賀はそう答えると、パソコンの電源を落とした。
「なんにも。もしも、霊力があるなら眠らせても、異様な反応が脳波に現れるのに、一般人と変わらん。」
「じゃあ、一体襲撃の狙いは何なんだ?」
「さあな。潜在能力ではないな。そこら辺はお前の仕事だろ?」大須賀は立ち上がる。
吉田が三次の背中の数センチ上で手をかざし、何か言った。
すると不思議な事に、三次が目を覚ました。 「おはようございました。」
「…………おはよ……」三次は伸びをした。
鐘が鳴ったので、3人は部室を出た。
大須賀は部室棟の入り口で友達と話していた川又と合流し、吉田達と別れた。
「分からないのね………」話の一部始終を聞いた三次は落胆した声で言った。
「何か、すみません。嫌な思いまでさせて無成果で。」吉田がため息混じりに言った。
「いや別に………貴司君の事を責めてる訳ではないし……」
「なら責めるべきです。ここまで依頼主を危険な目に合わせ、何の成果も上げられないのは、間違いなく僕達の………いや、僕の責任です。以前僕は自分達より警察はだらしない的な事を言いましたが、警察より遥かに劣ります。」
「でも、警察に言っても信じて貰えません。」
「それが唯一の救いですけどね。」吉田が言った。どことなく疲れが混じった声だった。
吉田と三次がホールで別れた。
ー別場所ー
前回の空き地にあの男子高校生がいた。
「それでは、何故拉致れなかった?」男子高校生が言った。
「邪魔が入ったからです。」ベビーカーの中の赤ん坊が答えた。押していた老婆も頷く。
「邪魔?」
「はい、我々の仕掛けた封鎖霊場に入ってきた者が。」
「封鎖霊場にか?」
「はい。」
封鎖霊場とは一時的に現実世界の人間に幻を見せ、人間を寄り付かせないための仕掛けだ。
あの時は、あたかも歩道橋そのものがないように見えていたはずなのだ。
「どういう奴だった?」
「二人組の男女です。」
「ハッ。」男子高校生がせせら笑った。どうやら嫉妬らしい。
「ハハハ………で、どんな妨害をされたんだ?」
「我々の正体を火術師に教えていました。」
男子高校生の顔から笑いが消えた。
「お前らの正体は見えないはずだ、奴等以外は。」
「無論、全体が見えていた訳ではないようで、我々の一部分が見えていたようです。」
「その一部分というのは…………」
「はい。具現化されている部分です。」
赤ん坊が淡々と言った。男子高校生は顔をしかめた。
「なんだって具現化された部分を見せたから問題になるんだ?お前は、具現化された部分を自由に変えられるはずだろ?」
「そうです。だからこそ問題なのです。」
「は?」
「具現化された部分が次々と変わるのを見せてしまったんです。」
「…………」
「それが火術師にばれてしまった。火術師には全身が見えている訳だから、具現化された部分が変化するのに気付いてなかったんですが、奴等は目に見える部分が腕になったり脚になったりしたのが見えたんですな。」
「火術師にばれたか…………」
「おそらく。」
赤ん坊が少し残念そうに言った。
「噂によると、だ。」男子高校生が唐突に話し出した。
「火術師は何人か仲間がいる。あくまで噂だが、氷術師というのもいるらしい。その他にも仲間がウジャウジャいるとか。もしそれが本当なら仲間が集まる前に倒す必要がある。」
「ならば、殺してはいかがですか?」赤ん坊が言った。男子高校生は冷たく首を振った。
「殺害の意味など全くない。さらに言うなら奴らはそう簡単に殺されるような連中でもない。特異の能力を奪うだけで十分だ。向こうだって、本来あの時俺を殺せたはずだ。それを力を半減させることしかしなかった。火術師は力を根こそぎ奪ったと思ったらしいが、それは大きな間違いだった。」男子高校生が自嘲的に笑いながら言った。
赤ん坊は黙ったままだ。
「だから殺す意味はない。警察が本腰を入れて捜査したら、必ずどこかの監視カメラに俺が映っている。ずっと戦闘を見守っていたら、嫌疑がかかるだろ。」男子高校生が言うと、赤ん坊は頷いた。
「じゃ、5日後だな。法則は読まれてないな。」
「大丈夫です。仏滅の日だけでなく、赤口の日にも力を振り絞ってターゲットの前に現れました。予測不能のはずです。」
「なら、5日後だな。その時には必ず火術師を無力化させる。」男子高校生、前道一成は険しい表情をした。
ー放課後の教室ー
「………負けたか。」
教室のパソコンにUSBを繋ぎ、エミュレータでハドソン社の「ボンバーマン5」をやっていた春日がうめいた。
「少しは骨があると思ったんだがな。」対戦相手の吉田がキーボードを捜査し、次のフィールドを用意する。5本先取で5ー0とは情けない。
「お前が強すぎるんだ。それにしてもPCでゲームが出来るとはな。」
「まあ、エミュレータは違法だけどな。良い子の皆は真似しないでね。」吉田がサラッと言った。春日がようし、と意気込み、第2ラウンドが始まった。
午後4時、G組教室から聞こえるゲーム音はB組教室まで聞こえていた。
「何の音かな?」茶髪の女子が言った。
「見てくる。」岩本が立ち上がり、教室を出て行った。
B組とG組までは直接廊下で繋がっている。音は賑やかで、教室の明かりが点いているのは、G組だけだ。
C組からF組は真面目な文系クラスなので、教室で遊んでいる奴などいないのだ。岩本達だって、今は勉強ではなく、総体に出場する先輩のために千羽鶴を折っていたのだ。岩本達の所属するハンドボール部は2年生部員はわずか岩本の他に1名しかいない。ハンドボールは外で練習させられていて、今日は雨だから休みなのだ。
ーG組教室ー
「今回は頑張ったぞ。」
「わざわざ僕だけ狙わなくとも。」吉田がコントロールパネルから手を離した。
スコアは5対2。コンピュータを他に3体入れているが、春日は吉田を集中的に狙ったのだ。
「疲れた。少し休憩しよう。」吉田が言った。
「ああ。………なあ、吉田。」
「うん?」
「お前さ、霊感あるんだって?」春日が言った。
「ああん?誰から聞いた?」
「小林から。」春日が言うと、吉田が冷たく笑った。
「違うな。多分、三次さん→松本さん→海老澤→小林→春日ってとこだ。」
「何だその回路は。」
「小林の連絡網………情報源だな。マフィアのボスじゃあるまいし。」
「小林が言ってたな。お前、その三次さん?って人と付き合ってんだろ?」
「そ、そんなことないんだから!!」
「ツンデレ風味?!お前がそんなことになるくらい焦るってことはやっぱり………」
「ねぇよ。」
「だよな。俺より吉田に先に彼女が出来たら立ち直れないぜ。」春日が言った。吉田が肩をすくめた。
「で、何だっていきなり霊感の話なんて始めたんだ?」吉田が言うと、春日は鞄をゴソゴソやりだした。
そして、やや大きめな紙を取り出した。
「いつか、やってみたかったんだよなーー」そう言って春日は50音が書かれた表を取り出した。
「なんだそりゃ?」
「知らねーのかよ。こっくりさん。」
「ああ、レストランの厨房で料理担当の………」吉田がいいかけ…………
「それは、コックさん。」
「他人のそら似………」
「そっくりさんか。」
「非常に驚いている様子。」
「びっくり………さんはいいか。」
「簡単に割れる様子………」
「さっくりな。いつまでやるつもりだよ?」
「落ち着き、十分に時間をかけます。」
「ふざけんなよな………」
「『じっくり』」
「あ?………今の解答か!」
「じゃ、そろそろ部室行かないと。」
「何だって?お前今日は部活ないからエミュレータしてたんじゃなかったのか?」
「実は罠。」
「何の?」
「孔明の。」
「三國志ネタはもういい。本当に知らないのか、こっくりさん。」春日が言うと、吉田は首を横に振った。
「知ってるっつうの。大概のホラー映画は見た。」
「マジか?呪怨とかは?」
「見た。つまらないよ、ありゃ。」
「つまらない?!」春日が目を丸くした。吉田が冷たく言う。
「ありゃ、つまらないよ。白にしろ、黒にしろ。理由はいつか説明しよう。」
「…………………ああ。」
「本当にやるのか?」吉田が聞いた。
「ああ。」春日が力強く頷いた。
「じゃ置いてくれ。10円…………あった、あった。」
春日と吉田が向かい合い、10円玉の上に人差し指をそれぞれ置いた。
吉田が一通りの事をして、問い詰めた。
「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいますか?」
ぴくりとも動かない。
20分間粘ったが、ぴくりともしない。
「いいや。取り敢えず質問してみろよ。春日。」
「来てないのに?」
「存在しないんだろ。取り敢えず質問だけでもしてみろよ。」
「……………俺が一番得意なスポーツはなんでしょう?」
やはり動かない。
「僕が好きなプロ野球チームはどこでしょう?」
続けて吉田が言うが、何も起こらない。
「腐ってるぜ。馬鹿馬鹿しいことはやめようぜ。」
「………だな、時間の無駄だった。」春日がそう言い、
ゲームに戻った。
吉田も50音の表を一瞥すると、ゲームに戻っていった。
「しっかし、何でこっくりさんなんかやろうとしたんだ?」
「被恋占い。」
「何だ、それは?」
「俺の事を好きな人を教えてもらおうと思って。だが、所詮は遊びか。」
「噂だな。現実世界ではあり得ないことだ。」
大音量が鳴り、ゲームが始まった。
こんにちは。川田です。
話が脱線しているように見えますが、全ては事件に繋がる伏線であります。週一での投稿を目指していますが、思うようには行かず、アイディアが枯渇してしまう事がありました。
このCHAPTERを乗りきったあとは、もう考えてあります。どうか、完結までお付き合いして頂けるとありがたいです。
それでは、皆さんごきげんよう。