CHAPTER6 風紀委員会
翌日、小林達也は誰よりも早く登校した。
小林は鼻歌を歌いながら、呑気に校舎に入りながら、教室に向かう。
1年生は校舎の1階、2年生は2階、3年生は3階。小林が階段を上り、教室が立ち並ぶ廊下の始まりの部分にある、休憩ホールについた。
小林はすぐさま、ホールの壁にやたらとデカイポスターを貼ってる男子に気づいた。
小林が胡散臭げに目を細め、近づいて行った。
男子生徒は振り向いた。どこか小バカにしたような顔だったが、相手が誰だか分かると完全に警戒した表情になり、ポスターを急いで貼って立ち去った。
小林はその姿に見覚えがあった。始業式で校長の話だからどうのこうのと、難癖をつけた奴である。
「生徒会からか?」小林は一旦教室に行き、鞄を置いて戻ってきた。
生徒会、ではなかった。
『学校に必要の無いもの………マンガ、ゲーム機類、音楽機器、雑誌等は見つけ次第没収となる。抜き打ちで持ち物検査をするので、命じられたら直ぐ様荷物を開示すること。
~風紀委員会~』
で、下の方に
校長認定と、判子が押されている。小林は直ぐ様ポスターを剥がした。
「小学生か。」小林はそれだけ言うと、ゴミ箱に投げ捨てた。その時である。
「器物破損!!」女子生徒が小林の前に出てきて、指をビシッと突きつけた。
「風紀委員会の公共掲示物であるポスターを剥がしましたね?」
「だったら何なんだよ。」小林が傲慢に言った。自分より明らかに幼く慎重も低い。小林にとっては生意気なガキぐらいにしか思わないだろう。
「罰金です。金額は1000円。」
「はあ?」小林は嘲るような笑みを浮かべた。
「聞こえませんか?罰金です。」
「ちょっと待ってくれ。」小林が笑いだした。笑ったと言うよりこんなに面白いことはないという笑いだ。腹を抱え、柱に掴まりながら笑った。
やっと発作が収まると、小林は女子に向き直った。
「なあ、教えてくれよ。風紀委員会って何?そんなのあったっけ?」
「昨日発足しました。生徒会が最近学校生活の緩慢さが、成績不振を招いていると判断し、生徒達の生活を改善するために作ったのです。」
「ほぅ。」小林は薄く唇を歪めた。
「分かりましたか?では罰金を。」
「まだ待て。罰金は集めて何に使うんだ?」
「模試代や、教材費などに当てるようです。私がお金が欲しくてやってるわけではありません。」
「ほぅ。じゃ、お前に警告しておく。」
「?」
「大変、結構な事だ。だがな、ここの校是を忘れたか?自由な校風だろ?現に俺は必要があると判断した授業以外は自由に過ごしている。だから干渉するなら、俺の妨害をするわけだよな?そんなに痛い目を見たいか?」
「今ので、脅迫が加わりましたね。」女子生徒は整然としている。
「痛い目を見るのは、委員長だな。そいつを連れてこい。ここに。」
女子は動かない。
「どうした?」
「それが人に物を頼む態度ですか?」
「…………馬鹿らし。」小林は肩をすくめ、立ち去ろうとした。
「待て。」強固な手が小林の肩にかかった。小林は後ろを振り向いた。
体格の良い男子が小林の肩を掴んでいた。
「誰だ?」
「3年に向かってその口のききかたは何だ?」男子がドスの効いた声で言った。小林は動じない。
「好きなように口をきくさ。」小林はそう言うと、しゃがみこんで、肩にかかった手を払った。
「お前の名前は?」
「教える必要などないな。俺が誰か先に聞いたんだが。」小林が冷たく言った。
「ならいい。それも一種の答えだ。お前は器物破損に加え、脅迫、さらには、不敬罪だ。今すぐ罰金を払え。さもなくば、職員会議にかける。」
「かければ?これ以上バカに付き合う道理はない。」小林はそう言うと、身を翻した。
「待てと言ったはずだが?」男子が素早く小林の前に回った。
「しつけえな。怪我したいのか?」
「お前が命令に従わないなら。」
男子がいきなり小林におどりかかった。
小林はそれをなんなくかわす。小林が蹴りを入れた。男子の足に命中。
「ちっ。」舌打ちをして、男子生徒が小林につかみかかった。
「何をしている!!」声がした。
二人は離れて、声がした方向を見た。
見ると、生物の豊崎先生がやって来ている。
豊崎先生は1年の半分のクラスと2年B組と2年G組の生物の授業の担当である。
「何をもめてんだ?全く。いい歳して喧嘩か。何か言ったらどうなんだ?」豊崎先生は二人を見た。
「先生、こいつは学校の公共掲示物を破壊し、1年生を脅迫し、3年生である俺に喧嘩をふっかけて来たんです。」
「証拠があるのか?」小林が言った。
「ああ?俺達の目の前でやっておいて、言い逃れか?なあ?」最後に男子は女子に向き直った。女子が頷く。
「お前らが有りもしないことをでっち上げたんだ。証言なんて、証拠になると思ってんのか?」
「お前らの証言だけでは、証拠にならんぞ。」豊崎先生が言った。
「あります。証拠なら………あれっ?」女子はゴミ箱を覗き込んだ。空である。
「因縁つけられたんですよ。先生、聞いて下さい。」と小林は携帯を取り出した。
録音機能で、先程のやり取りを記録していたらしい。
だが。
「お前が命令に従わないなら。」という声が聞こえ、携帯に何か重いものがぶつかった音がした。
「ふん、先に手を出したのはお前か。今の音からして、そっち(小林を指差して)がぶつかりにいった音じゃない。」豊崎先生は小林にもう行けと言うように、手をふった。
「二度とくだらんことはするな。お前。」豊崎先生は男子生徒を睨み付けた。男子生徒もにらみ返した。
「今度はただじゃ済まさんぞ。さ、行け。」
小林は急いで教室に戻った。何人かがまばらに登校してきており、その様子を目撃していた。
ー棋道部室ー
「厄介な事になりましたね、霊術師が。」
「そうだよ、全く厄介だな。」吉田が水に手を浸していた。後藤が水に塩を入れながら聞いていた。
「火術が裏目に出るとは。」
「でも、対戦するのは初めてではないですよね?」
「ああ。一度戦ったことがある。」
「勝ったんですよね?」
「どうかね?止めを刺そうとしたら、すんでで逃げられた。感術師だったけな?応援が来たんだ。」
「止めを刺そうとって、殺すつもりだったんですか?」
「まさか。霊術を尽きさせるだけだよ。無意味な殺生はしない。」
「ですね。よし、準備完了です。行きますよ。」
後藤がそう言って、水に向かって指を広げて
何か言った。すると、水が凍りついた。
「サンクス。よいしょ。」今度は吉田が手から火を生み出した。掌の氷が溶けた。
しかし、火傷をした跡には氷が残った。
「これで、処置は済みました。戻りますか。」
「ああ。」
「しばらくは右手が思うようには動きませんね。氷が溶けたら完治ですね。この処置をしないと、指がくっついてしまうかもしれないんで。」
「分かってるって。」
「今日、私も残りましょうか?」
「いや、2日続けての襲来は向こうが不利だ。霊術は非常に体力を消耗するからな。戦い終わった時はそうでもないが、一旦寝ると疲れがどっと出てくるんだ。それに………」
「それに?」
「霊術は仏滅の日にしか使えない。」
「仏滅?大安とか、友引とかそんなのの奴ですか?」
「そう。だから、今度来るとしたら5日後。向こうは僕がそれを知ってるとは夢にも思わないさ。」 「なるほど、じゃあ5日後に迎え射ちましょう。」後藤がそう言って立ち上がった。吉田も部室を出る。
「また………奴等と激突するんですかね?」後藤が部室棟から教室棟に通ずる道を進みながら言った。
「かもね。」吉田が短く答えた。
ー教室棟ー
「マジしらけるわ。ぶっ殺していいかな?」
鈴木隆徳が小林に言った。小林は携帯から目を離さずに言った。
「殺りたきゃ殺れば?俺は助けないけど、殺る理由はしっかりしてるからな。」
鈴木隆徳は今朝、あろうことか、iPodを没収されたのである。その他の生徒は没収されなくとも、朝から注意を受け不快な気持ちになっている。 鈴木は学校に不要な物として、iPodを風紀委員会副顧問の高畑先生に没収されたのだ。英語のアラフォー教師で、生徒の間違いをチクチク突く嫌な教師である。
鈴木はイライラしながらも、
小林の声色から冷静さを取り戻した。
「とにかく、後で奪還しよう。いざと言うときだけ!」ボクシングと軟式野球部を兼部している鈴木は拳を構えた。
「気絶させてくれる。」鈴木が自分の手のひらにパンチを噛ました。いいおとがした。
さて、授業が始まった。古典の関根という教師は50を越えた男性であるが、美声でなおかつ教え方がうまく、生徒は授業を聞いただけで、助動詞の意味や活用を覚えられると、とても評判が良かった。それに加え、古典が苦手な生徒にも簡単な質問をして、分からない事を決してバカにしたりしなかった。更には素で笑える話を盛り込んだりと、かなりの名教師である。
小林も吉田も自分たちが認める教師には多大な尊敬を払っていた。
廊下では自ら挨拶するし、授業は真面目にうける。この反面、尊敬しない教師だと、廊下ですれ違っても、鼻唄を歌いだしたり、内職したりと酷い有り様である。
教師陣はたいがい、小林達を嫌っていた。素直でなく、真面目でなく、その上優秀。妬みの対象になりやすかった。小林や海老澤などはモテることから更なる恨みを買っていた。
だが、名教師もいた。先程の関根先生、現国の萩谷先生、数学の柴崎先生(←副担でテスト返し時の)、担任の川北先生、小林を今朝助けた豊崎先生などだ。それ以外はたいがい敵だ。
古典、数学、生物が終わって次は体育である。
体力テストが始まる。
「今日は種目何だよ?」
「シャトルラン。」
小林の問いに金子が答えた。シャトルランが分からない人のために簡単に説明すると、決まった時間に20メートルを往く。そして返ってくる。20メートルを往復して体力をはかる訳である。但し、決まった時間は徐々に短くなる。
図に示してみる。
○→→→→→→→→
←←←←←←←●
○→→→→→→→→
←←←←←←←●
クラスメイト一斉に横に並んでやります。
閑話休題。
「だる。」堀江が言った。
さて、そんなこんなで体育の授業が始まった。
簡単な準備運動の後、全く体育会系ではない、体育の教師が5分後に始めるから、それまでウォームアップしてるよう、告げた。
「白玉、何回やれそうだ?」吉田が白玉に聞いた。身長168センチ、体重115キロの男子は答えた。
「10」
「そ。じゃあ僕も適当にするか。」吉田が言ったのを小林が聞き付けた。
「てめえ、本気出さないつもりか?」
「まあ。」
「吉田は本気出すと凄いのか?」白玉が小林に聞いた。小林は何故か遠い目をした。
「中3で137回だっけ?」
「127回だよ。」
吉田が言い直した。
「まあ、俺は140台だったが。」
白玉が感心した顔になった。
「景色も変わらんのにやってられるか。白玉+5回でいいや。」
「何だって手を抜く?」
「僕は文系じゃあないから。」意味不明な解答に白玉が首を傾げる。
話を聞いていた海老澤が割り込んできた。
「文系の奴等は体育の時間に粋がって女子にイイトコ見せようとする習癖があんのよ。」
「はあ。」
「僕は」吉田が半袖長ズボンで欠伸をしながら伸びをした。
「意味のないことはしない。」
「でも、何で文系の男子なんだ?」白玉が言った。
「アホだな。文系の女子が可愛いからに決まってるだろ。理系の女子はな…………まあ、幸いこのクラスは例外だけど。」海老澤はチラリと黒澤を見た。彼女はいつの間にか隣に立っていて、聞き耳を立てている気がしたからだ。
「じゃあ、始めるよーー!!」体育教師が告げた。
○○○○○○○○○○○
昼休み。
三次志穂は棋道部室にやって来た。
♪~♪~~♪♪~♪
何やらまた歌が聞こえていた。
三次は扉をノックした。どうぞ、と声がかかり、扉を開けた。
「それでもー夜ーが優しーいのは、見てみぬふーりしてくれるかーらぁ………」
「今日は高音域が冴えるな。」
吉田がCDを止めた。三次は目を丸くした。吉田だけでなく、見覚えのある男子がいた。
男子が歌っていたらしく、ぜえぜえと息をし、茶を飲んでいた。
「あれ、三次さん。こんにちは。うん?」吉田が三次を見て、真面目な表情で言ったが、三次が不可解な表情をしているので、吉田がああという顔をした。
「今のはポルノグラフィティの『ジョバイロ』です。」
「違います!」三次が気にしてるのはそんなことではないらしい。だが。
「違くないですよ。確かにポルノグラフィティの……」
「私が気になるのはそんなことじゃないよ。」
「そんなこと?」吉田が目を細くした。
「ああ……ごめんなさい。そう意味じゃなくて、この人は誰かを………」
三次がこう言うと、男子が顔を上げた。眼鏡をしており、顔が縦に長かった。イケメンとは言い難くとも、その男子は親切そうな印象を持っていた。
「大須賀………大須賀………下の名前何だっけ?」吉田が大須賀と呼んだ男子に言った。
「隆太郎だっつうの。」
「そうそう。大須賀りょ、隆太郎だ。」
「今、噛んだの………?」三次が呆れた。大須賀が頭を下げた。
「大須賀です。あなたが三次さん?」
「はい。」
「ほう、なかなか…………」大須賀がニッコリする。
「美人だな。」
「ナンパかよ?」
「失礼な。素直な感想だ。」大須賀が言うと、吉田が嘲るような表情になった。
「リア充め。彼女は一人とか言ってなかったか?」
「無論、俺が好きなのは麻耶だけさね。浮気じゃないさ。」その言葉に、三次がピンときた。
「もしかして、麻耶ちゃんの彼氏?」
「露骨だね。そうだけど。」吉田がため息をついた。
フルネーム、川又麻耶。岩本と同じタイプの女子で、良く大富豪同好会を利用していた。彼女の依頼を請け負ったのが大須賀である。そして、大富豪同好会を辞めた。
「辞めた、というより辞めさせられたんだがな。大富豪同好会にリア充はいちゃだめらしくて。」何故か、モノローグと会話しながら、大須賀が答えた。
「でも、何で大須賀君がいるの?」
「それはですね。」吉田が大須賀の背中をバンと叩いた。
「こいつが例納車………間違えた。霊能者だからですよ。」
「え?霊能者?」
「そうです。三次さんが霊術師に襲われる原因が知りたいので、呼びました。早速始めるか。」
吉田が立ち上がった。大須賀も立ち上がる。
「じゃあ、三次さんには眠ってもらいます。」
「え?どういう事?」
「気絶させます。君を。」
「え?ええ?」
「昼休みが終わる前に済ませませんと。此を早く吸って下さい。」吉田が布を渡す。
「何なの、これは。」 「クロロフォルムを滲ませた布です。大丈夫ですよ、体に害は有りませんから。」
「………………私が眠ってるからって何をするの?」
「とりあえず、脳を眠らせなければ、分かりません。脳を調べるだけです。」
「どうやって?」
「これで。」大須賀がそう言って頭につけるらしい、コードの束を取り出した。ノートパソコンもある。霊脳者にしか、分からない読み取りがあるのである。
「絶対に変な事しない…………?」
「しませんよ。」
「ほんとに?」
「ああもう。そんなに心配なら、部室に仕掛けてある監視カメラを後で見てください。三次さんが不快に思う事をしてたら、後で賠償しましょう。」
「はあ…………分かったわ。」三次がやっと言った。
三次が布を吸う。
「しばらく嗅ぎ続けて下さい。刑事ドラマみたいにすぐには気絶しませんから。」
1分もしたころ、三次の力が抜け落ちた。吉田が三次を支えて座らせ、大須賀と準備をし出した。
かなり長くなりました。お気に入り登録して下さった方、大変ありがとうございます。
読んで下さる皆様がいるからこそ、創作意欲も湧きます。これからもよろしくお願い申し上げます。




