CHAPTER5ー3 襲来
10000アクセス突破。ありがとうございます。初作品ですが、日々努力して執筆していくので、これからもよろしくお願いします。
生徒会室の上の棋道部室では、そんなことどこふく風。いつも通りの活動が行われていた。
棋道と言うから、将棋や囲碁な筈なのだが、この部室ではウノ(UNO)による賭けが行われている。
高校生なのでレベルは低い。プレイヤーが参加するときに、10円を出す。で、1抜けしたら全部獲得。普段は100円だが………今日は後輩が初めての参加となるので、10円である。
参加者は3人。吉田と川又、それに1年の後輩、大澤。ベテランの2年二人組に「今すぐ、金くずして来い!!」と異様な迫力で迫られ、わざわざ銀行に行って1000円を10円玉100枚に代えてきたのだ。それが昨日の日曜日での電話での会話である。
で、今に至るわけだが、吉田と川又は大澤がつく前からUNOをしていた。賭け無しで。大澤が挨拶しながら入ってくると、吉田が不気味に笑いだし、川又が無理矢理大澤の腕を引っ張り座らせた。UNOルールの確認と賭けの仕組みを説明
したら、直ぐ様始めた。
「ウノ!!」大澤が叫ぶ。
「ウノなの?」
「ウノだって?」吉田と川又がニヤリと笑う。
「ドローツー!」
「ドローツー!!」
「ぐはっ。」二者のドローツーを
受け、呻く大澤!
「んで、上がり。」赤、黄、緑の1を三枚揃えて、ウノ上がりする川又は、吉田と大澤の10円を取る。
「次いこ。」
「おk!」2人が言って、10円を出すと大澤が音を上げた。
「待って下さい。」
「待たない。」吉田がそう言いながら、山札をきって7枚ずつ配り出した。
「弱いな。」川又が配られた手札を見ながら言った。
「あの、すみません。」
「なんだよ?」さも面倒くさそうに吉田が大澤を見た。
「もう、10円がありません。」
「じゃ、5円玉2枚でも構わん。」
「細かいのがもう………」
「じゃ、100円で許してやる。」
「何か、掛け金があがってます?!」
「嫌か。」
「嫌です。」
「上司命令だ。」
「理不尽!!」
「世の中は理不尽にまみれている。」
「こんな所で、世の中語らんでもらえますか。」
「腐ってやがる………」
「……何かすみません。」
「………今のネタなんだが。」
「……え…………あ、あ、ナウシカ!!」
「実施に言ったのは参謀だけどな。」
「へえ~~」
「じゃ、100円。」
「はい。」
「じゃ、始めよう!!」
「………ちょっと待って下さい!!」
「だから、待たねえよ!!はい、川又君から。」 「リバース、リバース。」と言って赤と青のリバースを出した所で、吉田がスキップを出す。川又がドローフォー、吉田もドローフォー。「またかーーー!」←嘆く大澤。川又がワイルドを出し、「赤。」と言う。吉田が赤のリバース。川又が「ウノ」と言いながら、スキップを2枚出し、色が緑に変わる。「すみません、待って下さいまだ終わって…………」←8枚のカードを引きながら、奮闘する大澤。「待たねえよ。んで上がり。」と言いながら、吉田が赤、黄、緑、青の4色の5でウノ上がり!!
「もう、銭がありません…………」
「じゃあ野口さんで我慢しよう。」
「………もう騙されませんよ!」
「じゃあ1ドル札で我慢しよう。」(当時は100円代)
「……………すみません、用事が。」大澤は電光石火、部室を飛び出して行った。
ーバドミントン部ー
三次が全ての作業を終え、帰り支度ができたのは、7時前であった。三次は戸締まりをまだ残っている卓球部の主将に任せ、体育館を後にした。
部室棟はまだ7時をまわってないのに明かりは一つしか点いてない。棋道部室である。しかし、今日は音楽無しである。三次はドアをノックすると、「はい。」と返事があったのになかなか出てこない。よく見ると、部室の中を確認できる扉についた小窓が隠されている。
三次はもう一回ドアを叩く。
「はいはい。誰ですか?」
「三次です。予定より早く来ました。」三次はそう答えた。すると中でじゃらじゃらという音が聞こえた。
「入ってきて大丈夫ですよ。」
「………………」三次はドアをそっと開ける。吉田が金勘定していた。
三次がドアを閉めると、吉田はふんふんと頷いて、金を片付けた。
「今、大丈夫?」
「大丈夫っすよ。」吉田がサッサと片付けた。心なしか、焦っているように見える。
「今日は早いですね。」
「休みが多くて、あまり練習にならなくて。美樹も
舞も休みだったし。でも舞は海老澤君と帰るのを見たって人が居るし…………」
「なんか今日は海老澤が落ち着かないと思ったら。あの封筒はチケットか何かか?」
「え?」
「何でもありません。さて、三次さん。学校は楽しいですか?」
「楽しいですけど……………」
「それは何よりです。どうかその時間を大事にして下さいね。」
吉田がインチキくさい深い声を出した。
「では。」
「待って!!」三次は慌てて返答した。
「はい?」
「急を要するから今日はここに呼んだんじゃないの?」
「………………チッ。」
「舌打ち?!」
吉田は低い声で言った。
「まだ『ジョバイロ』の音程つかめてないのに………」
「聞こえてるけど。」
「ええっ??」
「何その異様な驚きは!」
「さて、話題を戻しましょう。」
「貴司君が脱線させたんでしょ。」三次は冷たい声になった。
「三次さん。」
「はい。」
「落ち着いて聞いて下さい。」
「…………」
「三次さんの事を狙っているものがいます。」重苦しい声だった。
「え?」
「君がここ数日で幽霊を目撃しているのは単なる偶然ではありません。」
「そうなの?でもどうやって幽霊を私に目撃させたんですか?そもそも誰が?何のために?狙っているって………何を?」三次が一気に詰め寄った。
「別に君を殺そうとしてるわけではないですよ。多分。」
「多分?!」
「誰がこんな事をしたか、と言いますと。」吉田はそう言って携帯を操作しだした。吉田はやがて三次に携帯の画面が見えるよう、手渡した。
「これ、誰ですか?」
「霊術師の前道です。」
「………れい……?」
「霊術師、霊体を自由に操る力を持つ、人間ですよ。」
「……………はあ?」
「フフン、信じてませんね?そうでしょうとも。君がいきなり魔法を信じてるか、なんて聞かれたら信じてるなんて言う訳がない。たとえ内心信じていたとしても、口にはしないでしょう。」吉田が携帯をしまいながら言った。
「そんなことができるの?」
「そんなこととは?」
「幽霊を操ること。」
「幽霊ではありませんよ、霊体です。」
「同じじゃない。」
「違います。幽霊は完全な亡霊です。たまに悪霊や怨霊がいますが。霊体は遺体が完全に見つかっていなかったり、心残りがあったりすると、地上に残った痕跡が行動を起こし、幽霊を構成しようとします。でも試みは必ず中途半端になり、体のどこかは触れる事ができてしまう。」
「うーん…………」三次は頭を抱えて悩みだした。三次が苦悩していると、吉田がさらに言った。
「三次さんには乳母車の幽霊が見えたんですよね?」
「見えました。」
三次が顔を上げた。
「でも、周りの人間には見えなかった。これは何を示してるのでしょう?」
「分かんないです。私、人より霊感が強いとかはないよ。」
「では、ひょっとしたら三次さんに元々の才能があったとしたら?」
「元々の才能?」三次が笑いだした。
「そんなの絶対ないって。私、今まで一度も幽霊を見たことなかったし。」
「………確かに。霊術師が三次さんの持つ何かを偶然見つけたのか………?」吉田は首を傾げる。三次はさらに言った。
「私は、他人がそんな熱心に奪いたがる物なんて持ってません。家にだってありません。」
「………となると、三次さんは何故狙われたんだろう?間違い?単なる偶然?」
「さっき言った、れいじゅつ?」
「はあ、霊術師ですね。」
「そう。その人は貴司君の知り合い?」三次が言うと、吉田が無表情になった。
「知り合いですが、友ではありません。霊術師はゲシュペント・ガイスト・ビュローの一員です。敵です。」吉田が言うと、三次は困った顔をした。
「何て言ったの?」
「ゲシュペント・ガイスト・ビュロー。」
「やっぱり分かんないや。」
「ドイツ語で『幽霊事務所』という意味です。」
「何それ?」
「R高校にある………って、三次さん。R高校分かります?」
「私は地元出身ですから。」
「なら話は早い。R高校にある何でも屋みたいなもんです。」
「ここみたいな?」三次は床を指差した。
「違います。奴等と一緒にするな。」吉田が乱暴に言った。三次は少し怯えた表情になった。
「ごめんなさい。奴等と言うことは、何人かいるんですね。」
「そうです。『幽霊事務所』は大富豪同好会とは絶対に違います。奴等は我々がやらない事をあっさりやる。」
「………例えば?」三次が興味津々で聞いた。
「我々は依頼内容が悪質なものは受け付けません。喧嘩に加勢してくれとか、何かを奪ってくれとか、アリバイの証人になってくれとか。奴等はそれをする。金のためなら何でもする。」
「酷い。許されていいわけ?でも、それと霊術師はどういう関係が………?」三次が憤慨した表情で聞いた。
「奴等は全員、何かの術を心がけています。霊術師だけじゃなく、他にもたくさんいます。」
「へえええ。教えて、どんなのがいるの?」三次が聞くと、吉田は顔をしかめた。
「無理矢理にでも僕から聞きたいですか?三次さんがバドミントンの大会で、フェアプレーをしない他校の選手を自ら紹介しますか?」
「そんなこと………ごめんなさい、調子に乗りました。」
「はあ。三次には来るべき時に話します。いずれは知ることになるやもしれません。」吉田がため息混じりに言った。三次は恥じ入った表情で聞いた。
「でも、そんな特別な力をもった霊術師に襲われたらどうすればいいの?」
「………………。」
「聞いてます?」
「はい。どうしましょうね?」
「他人事?!」
「僕が居れば、霊術師も手が出せませんが。」
「何でそう言い切れるの?」三次はそう言ったが、吉田の顔を見て、慌てて付け足した。
「もちろん、貴司君が強いのは認めます。でも相手は、…………まさか?!」
「はい?」
「貴司君も何かの術師なの?」三次が称賛の目で吉田を見た。吉田はフンと鼻を鳴らした。
「さあ、どうでしょう。」
「何それ?教えてください。」
「さて、対策を立てねば。霊術師は三次さんを何故狙うかは分からないにせよ、狙われているのは間違いない。では、どうすれば安全か?」
「シカトされた………」
吉田は淡々と続ける。
「暗くなってからは出歩かない。一人での外出は控える。我々が霊術師を捕まえ、打ちのめす、三次さんを追うのをやめさせるかどちらかまでの辛抱です。」
「分かった。」
「霊術師は霊を扱います。霊は、暗闇や冷たさを好むのです。襲われたらどうします?」
「明かりが有るところに逃げる?」
「不十分ですね。これを持ってって下さい。」
吉田がポケットからライターを取り出して、渡した。三次は困惑した。
「こんなの持ってて大丈夫?」
「大丈夫です。ライターの付け方は分かります?」
「分かりますけど、これでどうするの?」
「霊術師に投げ付けて下さい。」
「犯罪じゃない?」
「最悪の場合は。ただ逃げるだけなら脅しに点けてみるのも良いでしょう。」
「そもそも、何でライターなんか持ってるの?」
「さてと。これで、対策は終わりました。霊術師を捕まるまで長い期間を要しますが、我慢できますね?」
「またシカトしたーーー。」
「我慢できますね?」
「…………………」
「でーきーまーすーよーねー?」
「できます、できます!」三次は吉田が鍛えられた喉を張り上げて声を出したので、思わず耳を塞ぎながら叫んだ。
「すばらしい。では、今日はもう帰りましょう。僕もついて行きます。」
三次はため息をついて立ち上がった。吉田が最後に電気を消し、ドアに施錠するのを待ち、二人は帰路についた。
二人はしばらく無言だったが、三次がやおら聞いた。
「貴司君は、こんな時間まで大丈夫なの?」
「大丈夫とは?」
「この間なんか、家に帰ったの何時くらい?」
「11時くらいでしょうか?」
「すごい、親は何も言わないの?」三次は何の悪気も無しに言ったが、吉田はまた無表情になった。
「独り暮らしですから。」
「そうなの。…………って、えっ?!」三次は驚いて立ちどまった。
「まさか、ご両親は…………」
「母親は死にました。父さんは生きてます。たまに会います。」
「ごめんなさい…………」三次がまた謝った。
「別に大丈夫ですよ。もう慣れました。」
「えっ、何歳から独り暮らし?」
「7歳…………ですかね。父さんが生活費を振り込んでくれるんで。何とか生きてます。」
「そんな…………」三次の声は、太い道路に出たため、車の音に掻き消された。
三次が下を向いてしまった。吉田は気にするでもなく、歩き続けた。
5分も経った頃、吉田が言った。
「駅に着きますよ。」
「あ、……はい。」三次が慌てて顔を上げた。
駅に入るには歩道橋を渡る必要があった。2人は足早に階段を上がり、通路に出た。
その時だった。
通路の向こう側から、ベビーカーがやって来た。しかも、ベビーカーだけどはない。
「貴司君!!!あれです。私が今朝見たのは!!」三次が吉田の後ろに 隠れて言った。
「あれが?でも三次さんはさっき、ベビーカーだけが放置されていたと………」
今のベビーカーは老婆によって押されていた。こうしている間にも、距離が詰まってきた。
不思議なことに、吉田達以外に通行人はいない。
「止まれ。」吉田が老婆に言った。
老婆はあと2メートルという所で停止した。
老婆は今まで一度も顔を上げなかったが、ここに来て、真っ正面から吉田と三次を見た。
その時、吉田が若干身震いした。三次が絶叫し、闇夜をつんざいた。