第7章 誘拐
火曜日、つまり明くる日吉田はいつも通り徹夜をしていた。パソコンでエミュレータをやりながら、何やら叫んでいる。近所迷惑も甚だしい。 朝刊がポストに入る音がした。3時30分を回っていた。
吉田は、ちょうどきりのいい所で止めて、朝刊をとりにいった。
吉田は朝刊を取り、早速広げた。
「ほほう。
WBCで日本がキューバに6ー0!!流石、松坂!!」吉田は昨日の試合を朝5時から起き出して見ていたが、それでも読売新聞独特のスポーツ欄を見ると、何故か満たされた気分になった。吉田は、スポーツとしては、相撲と野球が好きで、野球は巨人ファンであった。金に汚い吉田らしいと言えば吉田らしい。
「対した記事は無しだな。」吉田はそう言うと、新聞を放り投げた。
パソコンを再びやりはじめて、5時になったころ、吉田の携帯がなった。 メールではない。バイブが鳴り響いた。
吉田は携帯を開いた。
「ニア」と書いてある。
「もしもし、Lだ。」吉田は奇妙な事を言った。
「ニアです。番号は369」
「9から7。」
「7から5。」
吉田は奇妙なやり取りを終えた。
「さて、ごっつぁん。朝早くどうしたんだ?」ニアと書いてあるのは後藤のことだった。
「すみません。実は凄まじい事件になって………」
「?………凄まじい?どんなことだ?」
「金子君の妹さんが失踪したんですよ。」 吉田はパソコンから目を離した。
「何だと?金子の妹?」
「はい。夜には既に帰宅しているにもかかわらず、朝3時にガラスが砕ける音で目が覚めた母親が、部屋を覗いてみると、もぬけの殻でした。」
「………ヤバいな。今すぐ、金子の身内の人一人をこちらによこすのだ。」
「それには及びません。兄である金子君がそちらに向かっています。駅に着いたら私に電話するよう言いましたが、あとゆうに25分はかかりますな。」
「何か妹さんの身の回りの物をもってくるよう言ったか?」
「言いましたが。」
「よし、では駅に迎えに行くさ。ごっつぁん、妹さんが見つかり次第、迎えに行けるか?」
「はい。私以外には誰もいません。」
「………そうか。気をつけてな。」
「はい。では一旦切ります。」 ブツッ。電話を切ると吉田はパソコンを閉じUSBを抜いた。
(………誘拐か、それとも単に家出なのか………後者の場合はわざわざ、家族を起こすようなガラス割りをするか?誘拐にしてもそれは言えるが………) 「考えても始まらん。」吉田はそう言うと、ガムをポケットに何個も入れ、戸締まりをしっかりとして家を出た。
11月のうえに、5時だから、物凄く寒かった。だが、吉田は暑がりなので、普通よりはずっと薄い服装にフード付きのオーバーを着こんだだけだった。そのまま黙ってチャリに乗ると、駅まで10分の距離をこぎだした。
10分を切るタイムで吉田は、駅に着き、自転車の鍵をかけ、鞄を背負った。
だが、その時、茂みから何者かの足が吉田を狙った。
「?!うおっっ!!!」吉田はギリギリでかわしたが、バランスを崩し倒れた。何者かは吉田を踵落としをやろうとした。
吉田は得意のカポエラで器用に転んだ状態から立ち上がりながら、踵落としをよけた。銃を取り出したその時………
「やめな。まだまだ甘いぜ、貴司。」
吉田は何者かが声をだしたので銃を向けるのを止めた。
「小林………」
吉田を襲ったのは小林だった。小林は服に着いた葉を落としながら言った。
「油断し過ぎだな。貴司君よ、そんな守りで俺を防げるわけないだろ?」 「偉そうに言うな。奇襲してくるとは最低な奴だな。」吉田は銃をしまいながら言った。
「もし俺が服部だったら死んでたな。」
「………………」吉田は黙りこんだ。小林に未だに劣ることを思い知らせたからだ。 「悪かったよ、貴司。こんなに朝早く貴司がいるということは金子の事を聞いたからか?」
「はあっ。小林も金子の妹の件で?」
吉田は黙りこむのをやめ、小林を見た。
「そうさ。次の電車に乗るぜ。」
「駄目だ。金………」
「物品を持ったまま、乗車した駅から6番目の駅で降りるよう指示した。一刻を争うのに、こんな所で駄弁ってどうするんだ?」
「………そうだな。現場検証をしないとな。」 こうして5分くらい小林と話していると、更に新たな男子が来た。
コツコツコツコツコツコツコツコツ。
足音がして、吉田と小林が振り向いた。
「はーぎじゃねーか。何でこんな朝早く?」小林が久しぶりの再会に歓喜した。暗闇から姿を現したのは萩谷だった。
「貴司………達也………朝早くお揃いでどうした?」
「実はだな………ン?電車がきちまった!!!急ぐぞ小林!!!萩谷、悪いが急ぐからこれで!!!」
吉田と小林は走りだし、Suicaを叩きつけるように認識すると、ホームに行った。
「待てコラァ!!!」萩谷が不良口調で叫びながら吉田達を追った。
ガタン!!萩谷がドアを膝を入れて無理矢理止めた。車掌が鋭く笛を鳴らしたが、萩谷はそれを睨み付け、ドアを蹴り開けるようにしながら乗車した。中では吉田と小林がのほほんと座りながら、萩谷を見ていた。
「フー。さて、何故こんな急いだのか教えてもらおうか。」萩谷は始発のため、ガラガラなのを良いことに、靴を脱いで、席に横たわった。
「ちょっとした刑事事件さ。」吉田が、小林と2人分席を空かし、自分の荷物をドカッと席に置き、挙げ句の果てにふんぞりがえりながら、対面にいる萩谷を見ながら言った。
「刑事事件?依頼か?」萩谷が面白そうに言った。
「ああ。依頼ではなく、もう友達の妹を助けに行くのさ。」小林が言った。
「ほう。誘拐?」
「そうと決まった訳じゃないけどな。2つ目の駅でそいつと合流するんだ。」
「面白そうじゃないか。俺くそ暇だから、朝散歩してたんだ。昨日、貴司に久しぶりに会った後にこんな事があるなんて、偶然とは怖いな。」
萩谷が自分の掌にパンチをしながら言った。
「面白いって、来るのか?誰も知り合いがいないのに気まずいぜ。それに学校はどうするん?」
小林が言った。
「へっ、もう1年の時に風邪ひいてから、皆勤賞なんて気にしてねぇよ。1日休んだから何だと言うんだ?」萩谷が目をギラギラさせて言った。吉田の冷酷な目の光に似ていた。 「来たけりゃ来るがいい。ケンカできるかもよ。」吉田が、萩谷の目を見ながら言った。
「そうさせてもらう。但し、事件がどうなってるのか、教えてくれないと。」
「それは金子を合流させてからじゃないと。二度話すのは手間だしな。………ウラッ、あと一駅だ。」小林が言った。電車は吉田達が乗った駅よりは幾分大きい駅で停車した。
「金子?」萩谷が言った。
「ああ、依頼人さ。まだまだ知り合ったばかりだが悪いやつではない。」吉田が唸った。
誰も乗る気配を見せず、電車は再び動き出した。
ブーーブーーブーーブーーブーー。
吉田の携帯が鳴った。吉田は面倒くさそうにダホダボのジーパンのポケットから携帯を出すと、確認し、電話に出た。
「はい?」
「ニアです。番号は369。9から5。」
「7から3。」吉田が先程とは若干違う合言葉で対応した。 「L………妹さんの居場所が判明しました。我々の高校にある体育館4階体育職員室だそうです。」
「何故分かったんだ?犯人は誰だ?」
「保坂翔平と名乗る者でして、集団で誘拐したと。」
「保坂………か。ニア、妹とは僕との会話用だろう。本当は誰が連れ去られた?」
「金子の恋人、黒澤瑞穂です。」
「………今ニアはどこだ。」
「金子と同じ駅で一緒に待っています。…………ああ、今Lが乗っている電車が見え始めましたよ。」
ニアがそう言うと、電車が速度を落とし始めた。会話を聞いていた、小林には緊張が走り、萩谷には新たに吉田の会話を聞いて暗号の多さに疑問していた。




