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第6章 合流2

「……………萩谷か。」吉田は銃口を不良から反らして言った。

「また、不良から金を巻き上げてんのか?」萩谷と呼ばれた男子が言った。

「まあな。ウラッ!!」そう言いながら、吉田は不良の足を蹴り、不良を転ばせると、ポケットの膨らみに手をつけた。不良は恐怖からか、身動きもしない。

「携帯か。じゃあこっ………ヒット!!!」左のポケットの携帯を放り投げ、吉田は右のポケットの財布を取り出した。

「ほらよ!!!」吉田は不良の財布から現金だけ奪うとカード類の残る、財布を投げ返した。不良はその瞬間、走りだし、携帯を拾うと逃げて行った。

「全部で2万3000円か。高校生にしちゃ持ちすぎだな。」吉田は不良から奪った金を自分の財布にしまった。

「あの制服からすると工業の奴だな。」萩谷が言った。吉田は萩谷を見た。


萩谷は吉田や小林の幼なじみだった。

学力も吉田と匹敵していた。

特に、中学校時代、1位が小林、2位が吉田、3位が萩谷という機会がよくあった。萩谷は身長が180を越えており、169の吉田より頭一つ大きかった。萩谷は、サッカーが強い、吉田達の住む中都市の一番の進学校に行った。電車で10分の距離だし、自由な校風であった。吉田や萩谷の通う高校は制服がなかった。

萩谷は格好が良い。サッカー部のキャプテンであった。だが、忘れてならないのは、吉田達の友達だということだ。世間体を気にしないのはもちろん、萩谷の手には煙草があった。

「いい加減、禁煙しろよ。」吉田が煙草を見ながら言った。

「お前がパソコンに金を注ぎ込むように、俺はこれに注ぎ込むんだ。お前も吸うか?」萩谷は声がまだ高かった。女声ではないが、テノールとも言いがたかった。

「ああ、吸う。」吉田は保健の教科書のように、上手に断るような事はしなかった。

「ワイルド7さ。新銘柄だぜ。」萩谷は煙草を渡した。

「サンクス。いや、ライターはある。」吉田はそう言いながら、ライターで火をつけた。

「…………………………どうだ?」

「萩谷………………」

「………………?」

「うまい!!!!」吉田が言った。吉田の目がギラギラと光った。

「そんなに喜ばれるとはな。これ、お前にやるよ。」萩谷は鞄から未開封の箱を吉田に投げた。

「うぇぇぇぇい!!!じゃ、遠慮なく!!!」吉田はワイルド7を鞄に入れた。

「それはそうとな、貴司。」萩谷は煙草をくわえたまま苦笑し、吉田の名前をこの場では初めて呼んだ。

「分かってるさ。今日君を呼んだのは、君に会いたいと言う人がいるからさ。」吉田も煙草を吸いながら言った。

そう、岩本が写真を見せた時に、既に分かっていたことなのだ。

吉田は岩本が一目惚れするような人間で無いことは知っていた。となれば、萩谷が岩本に何か良い行いをしたことになる。吉田は岩本が去った後、萩谷に電話をして、会う取り決めをしたのだ。

吉田が一人で捜査すると言い出したのも、萩谷が喫煙家であるのを知っていて、萩谷が自分以外に喫煙をすすめるのは好ましくないと考えたからだ。


「俺に会いたい?」萩谷が首を傾げた。

「女子だがな。」吉田が言った。

「しかし、妙な話だな。仲介を頼むにしても、小林を使えばいいじゃないか。俺と同じサッカー部なんだぜ。」

「いや、単に1年の時同じクラスだったからさ。1年の時特別話したわけではないがな。」 「ふーん。でどんな人だ?」

「こんな人だ。」吉田は1年の時の4月に撮った写真を渡し、指で指しながら言った。

「うん………?よく見えないな。茶髪の子か?」

「ああ。」

「ほう。なかなか綺麗な人じゃないか。」萩谷が言った。

「………………この人に、何か助けになるような事はしなかったか?」

吉田は相変わらず煙草を吸いながら言った。

「………いや。話してすらいないし、こんな人を見ていない。何て名前?」萩谷が写真を吉田に返しながら言った。

「岩本さんだよ。」

「下の名前は?」

「………さあ。」

吉田が言った。萩谷は嘲るような視線を吉田に向けた。

「お前、1年の時同じクラスだったんだよな?忘れたのか?知らないのか?」

「知らん。」吉田は冷たく言った。

「出たよ。」萩谷が言った。吉田は中学校時代から女子の名前を覚えていないらしかった。特に酷いときには顔と名前が一致していないらしく、プリントを返す役を頼まれた時など、違う人にプリントを渡したりした。

「よく、そんな奴に依頼できるな。岩本さんも。」

「物好きなんだろ。」吉田が言った。

「そうか?貴司…………」萩谷が吉田を正面から見た。中柄な体、冷たい目、全くとかしていない髪、服装は安そうで、終いには煙草である。ファッション感覚などゼロどころかマイナスだ。

(まぁ、それでも鼻は高いし、脚も長いし結構格好いいんだがな。喧嘩も強いしな。)萩谷は一人回想に耽っていた。

「さて、いつ会うんだ?」吉田が言った。萩谷は現実に戻って来た。

「そうだな………てか、俺が会いに行くのか?」萩谷は吉田に問いかけた。

「普通、常識から考えたら岩本さんが来るべきだな。会いたいと言い出したのは、彼女なんだから。」レディファーストの考えの欠片もない吉田が言った。

「………ていうか、初対面の人にいきなり会わせられてもな。何で向こうは俺に会いたいんだ?」

「サッカーしてる姿に惚れたんだとさ。」

「ふうん。」基本、萩谷は吉田や小林とは違いモテたので、別に驚かなかった。ただ、外見だけで判断されたのかと思うと無性に腹が立つ気がした。

「まあ、いつ会うかは僕を仲介して話してくれ。」吉田が言った。萩谷は不承不承な様子だったが、頷いた。

「今日はそれだけの事なんだ。わざわざ呼び出して悪かったな。」

「別に暇だからな………最も、あと15分くらいで予備校が始まるが。」萩谷は駅の近くのなかなか大きいビルを指した。

「そうか。じゃあな。」吉田は大股で歩き去った。


萩谷はしばらくその姿を見ていた。

「………貴司………お前は未だに無理矢理感情を押さえ込んでいるのか………だがな。貴司、小林が言うには、結構お前と話してみたい、勉強を教えて欲しい、もっと彼を知りたいと思ってる女子がいるんだぜ………………」萩谷はそう呟いた。フッと笑うと、その場を去った。


その二人を今まで監視していた人物がいたことに、吉田や萩谷ですら気づいていなかった。

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