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第93話 白雪姫蘇生の瞬間――メイドの証言(その3)

「それは本当にりんごの芯でしたか?」


 酒挽(さかびき)は、メイドに問いかける。


「私はその後、実際に手に取りました。間違いなく、りんごの芯でした」


 メイドは、そう断言した。


「大きさは、どの程度でしたか?」


「……これぐらい、だったと記憶しております」


 メイドが親指と人差し指で大きさを示す。縦で示された大きさは、さほど大きくない。


「計測をお願いしたいのです」


 キイナが裁判長に依頼すると、係官が出て、その長さを計る。約4センチという結果だった。大体、人差し指の指先から第二関節までの長さ程度だ。

 童話裁判では、基本的に発言内容だけが文字化されて記録される。だから、メイドの「これくらい」という発言に、具体的な内容を付加するために、計測を依頼する必要がある。


「では、厚みは?」


「厚み、ですか?」


「幅と聞いた方が、しっくりきますか?」


「そうですね……この程度で握れる程度でした」


 メイドは軽く手をグーに握る。

 よく見れば、掌は完全に閉じられてはおらず、ほんのわずか、筒状に形作られている。


「全体のサイズとしては、これですべてが隠れました」


「内径の計測をお願いするのです」


 指で作られた輪の内側は、1~2センチ。

 細長い形状のリンゴの芯。確かに丸呑みすれば喉に詰まってしまいそうだ。

 だが、大きさ的にはリンゴの破片以上の大きさではない。それを「りんごの芯」と断言できるだけの物だったのかには、疑問が残る。


「白雪姫の口から飛び出したりんごの破片を『芯』だと判断した理由は、何ですか?」


「『芯』独特の色が出ていたからです。りんごの果肉は白味色。対して芯の部分は、やや黄味がかかった色。破片の中心が黄色で周辺に向かって白へとグラデーションしていたため『りんごの芯』と判断いたしました」


 おそらく、破片の一部に蜜の部分が含まれていたのだろう。であれば「芯」という判断が下されても仕方がないだろう。

 そして、メイドは一言加えてくる。


「それと、萼窪(がくあ)の形状が、ございましたので」


「萼窪?」


「芯の部分にある、窪みのことです。そのうち、通常、下になるところにある窪みを『萼窪』と言います」


 りんごは球体ではない。樹から実の部分に伸びるところと、その反対側は窪んでいる。断面にすれば、「ω」に近い形状となる。

 なるほど、そこまで揃えば「芯」と言い切るのも納得できる。

 納得はできるのだが、それを体内に取り込む方法がわからない。

 検事席に座るテールをちらりと見やる。頬杖をついて興味なさ気に視線だけを向けている。

 多分、彼女はこの件を見逃してこない。間違いなく、白雪姫と王子、メイドの矛盾した証言を突いてくる。そして、それを以て信憑性なしという結論を出そうとするに違いない。


「ところで、あなたは王子から随分と信頼が厚いようですが、長く仕えているのですか?」


「……そうですね。王子に直接仕えたのは、ごく最近のことではありますが、私の仕事ぶりを随分と高く買っていただいたようです」


 ごく最近仕えたメイドを、王子が最も大切にしている白雪姫専属にする……これはもう、大抜擢と言えるかもしれない。

 しかし、一つ見落としてはいけないことがある。


「あなたは、白雪姫のメイドであると同時に、護衛でもあるのではないですか?」


 メイドの働き方だけで、抜擢をされる理由は、あまりないだろう。それでなくても、今回の件は特殊だ。何せ、寄り添わなければならないのは、棺に入った死体なのだ。そんじょそこらの一般メイドの精神力では、とても耐え切れないだろう。

 そして、仮に棺が他から襲撃された場合、棺を抱えている者は、どうしても一旦棺を置かなければ反撃ができない。ならば、自由に動ける護衛が必要だ。

 そういった意味でも、メイドは護衛と兼任である方が合理的だ。


 それに、白雪姫は、現に棺の運び手に背中を叩かれている。


 おそらくは、棺の運び手に対する監視も兼ねている。

 日がな一日、死体の入った、それもガラスの蓋が乗っている重い棺を抱えて移動を余儀なくされているのだ。

 何か重大な、それこそ国家的な目的があるのなら、そんな任務にも耐えられるのかもしれない。

 だが、とどのつまり、王子の趣向、下手すると性癖に付き合わされているのだ。長くやらされていれば、次第にバカバカしくなっていってもおかしくはない。


「仰るとおりです。私は、白雪姫様の護衛兼お世話係として、常にお傍にいるよう命じられております」


 おります、ということは……


「それは、今もですか?」


「命令は撤回されておりませんので、今でもそのつもりでおります」


 メイドは、テールを見つめてそう言い切った。

 テールは肩を竦めて、一つため息をついてから説明する。


「補足いたしますと、監獄においては、同一物語の登場人物との面会に制限がかけられております。3人以上同時に面会することは禁止。一定時間以上の面会も認められておりません」


 そういえば、最初に白雪姫に会ったときは、王様と王子が面会に来ていた。規則に抵触するから、メイドは面会室にいなかった、ということか。


「そして、本件被告人に対する面会時間で最も多くの時間を活用しているのが、そこにいるメイドであることは、当職も保証いたします」

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