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第83話 追試

2021/02/11 誤字の指摘をいただきました。ありがとうございます。

(誤) しかも買える先は理香の家、

(正) しかも帰る先は理香の家、

「テールさんから、今日は休廷にしたいと言われたのです」


 土曜日の朝。学校に向かうため、酒挽(さかびき)の家を訪れたキイナに、開口一番そう告げられた。一緒についてきていた理香は、既に話を聞いているらしく「メイドの事情聴取をするそうだ」と、理由を補足してきた。


「でも、不思議なのです」


 キイナは小首を傾げる。


「何が?」


「テールさんは、とにかくさっさと審理をしたがる人なのです。事情聴取で一日欲しい、なんて今まで言われたことなかったのですよ」


「でも、櫛の鑑定の時には、ずいぶんと時間をかけていたじゃないか」


「正確には、櫛の鑑定と、小人の家の毒の検査なのです」


 酒挽の疑問に、キイナが突っ込みを入れて来る。


「鑑定は、テールさんが自分でできないから仕方がないのです。でも、事情聴取は自分でできることなので、そんなに時間をかけるとは思えないのですよ」


「メイドの事情もあるんじゃないか?」


 検察の事情聴取は、裁判所の証人召喚と異なり、言えば強制的に目の前に現れるものではない。呼び出しをして話を聞く必要があるものだ。


「メイドは白雪姫付きと王子が言っていたのです。そんな白雪姫は今は監獄に入っているのですよ。メイドが四六時中付きっ切りでお世話することなどできないのです」


 酒挽が一番最初に童話世界に行ったとき、キイナに連れていかれた城にそっくりな建物。それを監獄と説明され、白雪姫は確かにそこにいた。


「監獄、か」


 理香がポツリと呟く。


「……どうかしたのです?」


「いや、いい得て妙だなと思ってな。受刑者を入れておく『刑務所』、被告人を入れておく『拘置所』。姫の場合は、どちらの立場でもあるからな」


 白雪姫は、一審で極刑の判決を受けた。そして刑は即日執行される。もっとも、童話裁判の極刑は、その登場人物を人間の記憶から忘却させることにあるのだから、白雪姫の身体がどうこうされるものではない。

 一方で裁判は控訴により第二審が行われている。未だ裁判を受ける立場も持ち合わせているわけだ。

 身柄を二つの意味で抑えられている意味で言えば「監獄」という単語は、一番似つかわしいのだろう。


「まぁ、監獄といわれれば、確かに牢屋があったけど、白雪姫がいたのは、応接間みたいなところだったからなぁ」


 見た限りでは牢屋には一人も人が入っていなかった。

 キイナに案内されて連れていかれた白雪姫の部屋は、面会用の部屋だったのか、割と人の出入りがあった気がした。

 入ったときは、王子と王様、そしてテールも訪問して、その時に初めて顔を合わせた。


「童話裁判では、裁判中、被告人となった登場人物を隔離して留め置くと決められているのです。でも、それ以上の決まりがないので『閉じ込める』というより、『留まってもらう』という感じになっているようなのです」


 それは昔からの話なので、キイナも「そういうもの」と教えられた以上の理由は知らないらしい。


「いずれにせよ、今日は半日授業だ。休廷なら、ゆっくりと戦略を練ることもできる。明日から2連休でもあるし、何だったら、キイナはボクの部屋に泊まっていくか?」


 海の日のおかげで、月曜日も学校は休みだ。


「よければそうしたいのですが、二つほど条件があるのです」


「条件?」


 理香が聞き返すと、キイナはコクリと頷く。


「休み明けに、試験を受けなければならなくなったのですよ。私だけ、期末テストを受けていないからと」


「あ~……」


 思い当たる節はあった。

 キイナが転校してきたのは、1学期の期末テストが終わった後。おまけに異世界から来ている関係上、前の学校の成績も存在しない。学校側としては、成績を出しようがない状態なのだろう。


「なので、勉強を教えて欲しいのです」


「それは構わんが……それは条件というより、依頼ではないか」


「条件は、それに関係してくる話なのです」


「何だ?」


「時間がないので、お触りとか、変なことするのは禁止なのです!」


 理香に指をビシィ! と突き付けて、キイナは主張する。


「なるほど……納得した」


 何か一言二言言うかと思った理香だったが、あっさりとその申し出を受諾した。


「これでキイナに赤点でも取られたら、ボクが文化庁の役人に何を言われるかわかったものではないからな」


 そういうと、理香はスマホを取り出して、電話を始める。


「……ああ、すみません、閑梨さん。平です。キイナの件で一つ。彼女、期末テストを受けていないせいで、来週追試を受けることになったようなんですが……」


「なんで閑梨に言うのですか~っ!」


 どうやら内緒だったらしい。

 しかし、理香はどこ吹く風で、次々と事実を説明していく。


「……ついては、ご協力を。簡単なことです。追試の試験問題を事前に入手いただきたいだけですよ」


「ちょっと待てぃ!」


 これには酒挽も突っ込まざるを得ない。だが、理香はそれすらも無視して話を進めてしまう。


「……わかりました。では、そちらに伺います」


 そう言うと、電話を切る。


「というわけで、キイナが来週受ける試験問題を貰えることになった」


 理香が、何でもないことのように、とんでもないことを言い出す。


「それっていいのかよ?」


「仕方あるまい。先方はキイナの正体を隠蔽したい。ただでさえ美少女で胸が大きく腰が括れているという外見のせいで目立っているのだ。これで成績が悪くて何度も追試を受けようものなら、悪目立ちして仕方がなかろう。キイナの後ろ盾は、文科省に文化庁といった国家権力なのだ。下手に探りを入れられて、正体を突き止められたら、いろいろなところに火の粉が降り注ぐからな」


 そして、一番煩わしい思いをさせられるのは、酒挽と理香だ。一緒に登校して、部活も一緒。そして一緒に下校する。しかも帰る先は理香の家、となれば、キイナに何かあれば、色々な方面から二人が質問攻めにあうのは間違いない。


「というわけで、ボクは放課後、閑梨さんに会いに行くことになった。試験問題を受け取りにな」


「私が行った方がよくないです? 童話世界を経由すれば、あっという間に行けますよ?」


 そういった意味では、童話世界は4次元で、あの扉は超有名な秘密道具と言えるのかもしれない。

 だが、理香はその提案を断った。


「閑梨さんからの指示でな。『試験範囲を教える意味で試験問題は教えるが、キイナに見せるのは厳禁。あくまでも実力で試験を突破させろ』だそうだ」


「うぅ……やはり、試験勉強はやらなくちゃならないのですね……」


「当然だろう? まぁ、安心していい。ネタさえもらえれば、平均点前後は確実に取らせてやるさ」


 そういうと、理香は打ちひしがれているキイナの肩を軽く2回叩いて見せた。


「というわけだ、当利。放課後は、ボクが連絡するまで、理香に勉強を教えてやってくれ」


「え? その試験問題が届いてからでよくないか?」


 酒挽が反論する。

 試験範囲を思いっきり絞ることができるのだから、そっちの方が効率がいいように思える。


「教える、というより、今の実力を確認して欲しいのだ。ボクたちが受けた期末試験を、キイナにやらせてみて、今の時点度どの程度の実力があるか、計って欲しい」


「まぁそういうことなら」


 酒挽が応じると、キイナは絶望の表情を浮かべて呟いた。


「人間界の試験なんて、わかるわけがないのですよ……」

さて、私が所属している劇団の稽古が始まる関係で、申し訳ありませんが、更新のペースを落とさせていただきます。

何もなければ、日曜日、水曜日、金曜日のおおむね22時50分ごろを目途に更新させていただきたいと思います。

更新ができない事情がありましたら、後書きまたは活動報告でご連絡させていただきますので、ご承知おきいただければ幸いです。


ちなみに、所属する劇団では私は脚本を担当しておりません。また、参加名義も別名です。

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