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第7話 調査結果

「ボク自身は決着がついているのだが」


 酒挽(さかびき)の正面で頬杖をついた理香が、少し退屈そうな表情でスマホをいじりながらそう言った。

 二人は『白雪姫』を探し求めて方々を訪ね歩いた。学校の図書室、本屋、アニメショップ。そして今は市立の中央図書館にいる。

 酒挽の前にはハードカバー本が5冊積み重なっている。背表紙には『グリム童話全集』とあった。

 そのすべてを細かく調べたが、『白雪姫』は掲載されていなかった。


「もういい加減認めたらどうだ? 童話全集を調べても、絵本を全部ひっくり返してみても出てこない。蔵書検索でもヒットしなかったではないか」


 わざわざ貸し出しカウンターで係の人に調べてもらったのだ。しかも、この図書館だけではなく、市内全図書館の蔵書まで調べてもらった。


「全く、無用な恥をかいてしまった」


 理香が文句を言う。全図書館蔵書検索は、利用者カードを提示しないとやってもらえない。だが、酒挽はカードを持っていなかった。仕方なく、理香のカードを使った。


「『白雪姫』ですか?」


 物凄く怪訝な表情で確認され、結果「ありませんね」の冷たい一言が返されただけだった。


「アニメ化もされている、映画にもなったという話だったがな」


 理香は、スマホの画面を酒挽に見せる。


「ネットで『白雪姫』を検索しても、完全一致はゼロだ。『白雪』の名でなら、豆腐に日本酒、アニメキャラ、モデル、女優――全年齢対象からR、X指定までがヒットする」


 完全に手詰まりだ。その現実は『白雪姫』がこの世に存在していないことを示しているだけのものだった。

 理香はスマホをしまう。上半身を前に倒し、組んだ腕をテーブルに乗せた。


「やはり勘違いなのではないか?」


 ここまでの状況証拠を突きつけられては、酒挽の自信も完全に揺らいでいた。

 本当に『白雪姫』はないのでは?

 存在を信じて疑わなかったものが、痕跡すら見つけられないのでは、認めざるを得ない。あるのは記憶の中だけなのだ。


「だが、解せんな」


 理香の表情が険しくなる。


「何がさ?」


当利(とうり)がこんなつまらない戯言を言うような奴ではないことは、ボクもよく知っている」


「嘘なんて言ってない」


 酒挽はムッとした顔になる。


「わかっている。だから、わからんのだ」


 理香はため息をついた。


「もし、当利がボクを騙そうとしているのなら、徹底しているはずだ。部員を巻き込んで演技指導をし、図書室に小道具として捏造した『白雪姫』の本を一つ二つ仕込むだろう」


「あのなぁ」


 反論しようとする。自分も同じ疑いを理香に向けていたことは棚に上げてだ。

 理香はそれを手で制した。


「まぁ、有体に言えば勘違いだろう。おっと、異議は認めないぞ。事実、これだけ探しても、『白雪姫』はないのだからな」


 反論のしようもなかった。理香の言っていることはことごとく正しく、反証する材料が一切ない。


「勘違い、なのかな」


 酒挽は手元へと目線を落とす。

 どうにも諦めきれない。

 証拠が何一つなくても、酒挽の記憶の中にしっかりと残っているのだ。理香と初めてキスをした芝居。それを間違えるはずはない。

 どういうことなんだろう。自分が覚えている思い出を、相手は覚えていない。なぜ二人の思い出にこんな差異が生まれたのか。


「夢かもしれないし、幻だったのかもしれない。もしかしたら、本当にボクが忘れてしまっているだけなのかもな」


 そう言いながら、理香は立ち上がる。


「もう帰ろう。少し時間を置いて考えた方がいいだろう」


「あ、うん。そうだな」


 酒挽も立ちあがった。


「『白雪姫』は、ないんだな」


「尽くせる手を打って出た結果だ。まぁ、家でも少し調べてみるが」


 二人は揃って中央図書館を出た。

 途中、お互い声を交わすことは一度もなかった。


「また明日」


「あ、うん」


 別れ際の挨拶だけが、唯一の会話だった。

 一人になった酒挽が、もう一度ぽつりと呟く。


「『白雪姫』は、ないんだ」


 まるで自分にそう言い聞かせるようにして。

 それが、昨日の夕方のできごとだった。

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