第75話 第四の殺人未遂――王子の証言(その1)
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酒挽が理香の家に出向くと、理香は制服姿のままで出迎えた。着替える余裕がなかったのは、酒挽よりも後に学校を出たことが原因だろう。
理香は、何もなかったかのように普通に酒挽へと接してきた。酒挽も、理香と同じく、ごく平然とした態度で応じた。もっとも、酒挽の心中は、まったく穏やかではなかったわけだが。
一通りの打ち合わせを済ませ、童話世界にたどり着いた酒挽とキイナは、いつものとおり、法廷の弁護側の席に座っていた。
法廷に木槌の音が響き渡る。
「それでは、審理を再開します」
酒挽の正面に座るテールは、腕を組んで目を閉じていた。
「それでは、白雪姫の夫である、王子の証言を求めます」
いつものとおり、証言台が光り終わると、そこには若い青年が立っていた。
白雪姫が設定上8歳。王子はそれよりずいぶんと上に見える。とはいえ、見た目好青年なのは間違いない。まだ10代。若く見えたと考えても、20歳前後であろう。
「証人にお尋ねします。名前は?」
「王子、とだけ呼ばれている」
「職業は?」
「王子だ」
「所属世界は?」
「童話『白雪姫』だ」
姿勢よく直立不動で立ち、質問にもはきはきと答える。若干口調が尊大な気もするが、国の支配階層であることを考えれば、そんな態度もおかしくない気がする。
「生まれた時から王子になることが宿命づけられていたのです」
横から小声でキイナが補足を加えてくれる。なるほど、そうなると、小さいころから支配者としての英才教育を受けていたに違いない。
とはいえ、親の威光を背景に好き勝手するような、よく話に聞く2代目のバカ王子、という感じはない。
ほんの少し偉そうなだけ。これで白馬に跨って颯爽と登場しようものなら、法廷中に黄色い悲鳴が上がるのは間違いないだろう。
教科書で見る、中世ヨーロッパのような恰好をしていたが「自分は王族です」というアイデンティティを主張するためによく見る、頭への王冠は存在しなかった。
「それでは、弁護人。尋問を」
裁判長の言葉に、酒挽は立ち上がる。
正面のテールは、最初に見た姿勢から微動だにしていない。話を聞いているのか、そもそも話を聞く気があるのか。それすら読み取ることができない。
「あなたが小人の家にたどり着いてからのことについて証言してください」
「わかった」
王子は長く、細めに息を吐きだすと、証言を始めた。
「あれは、私が森の奥に深く入り込んだ時のことだ。
少しずつ日が暮れてしまい、暗くなってから動き回るのは危険だと判断した私は、偶然に小人たちの家を発見した。一晩泊めてもらおうと家に入ってみると、ガラスの棺に入れられている、白雪姫がいた。
小人は、白雪姫を『死体だ』と言ってのけたが、どう見ても眠っているようにしか見えなかった。
聞けば3か月近くも変わらずそこに、横たわっていたらしい。
私は、そんな奇跡のようなできごとに感動した。
ガラスの棺には、白雪姫の生い立ちが金色の文字で記されていた。
見れば、隣国の王女だった。
私は、どうしても彼女が欲しくなってしまった。美しすぎるその姿は、最悪鑑賞用にしても何ら差し支える要素はなかった。
だから、最初は小人に『売って欲しい』と頼んだ。
だが、答えはNoだった。
正直、ほっとした。金銭での解決を図ろうとしたのは私だったのだが、それは違う、と違和感を覚えていたのだ。だから、断られて、むしろすっきりとした気分になった。
違和感の正体。その時は、よくわからなかったのだが、後で考えてみれば、私は、恋に落ちていたんだろうと思う――白雪姫に。
なので、その後は必死になって小人に『大切にするから譲って欲しい』と言い続けた。
小人もこちらの心情を理解してくれたのだろう。譲ってもらえることになった。
ちょうどその時、城から私の手の者が小人の家にやってきたので、さっそく白雪姫の入った棺を4人に持たせて、城へと運ぶことにした。
結局2日間ほど時間を要したが、白雪姫の棺は無事に城へとたどり着いた。
私は、どこに行くにも、白雪姫の棺を持ち歩いた。
ある日、白雪姫の棺を運ばせていた者が、まぁ、些細なことなのだろうが、突然激昂した。
そして、あろうことか私の白雪姫を棺から引っ張り出し、背中を叩いたという。
その瞬間、白雪姫の口から、りんごの破片が飛び出し、白雪姫は意識を回復するに至った。
そのあとすぐに、私は彼女にプロポーズをした。
城の皆は、私たちの婚約を非常に喜んでくれた。すぐに結婚式が執り行われることになった。招待客に招待状を送った。
返事を待つことなく式を行うために、立食パーティ形式で、招待状の提示があれば、会場への出入りを自由にした。
どれほど時間が経過したかはわからないが、会場がどよめいた。
白雪姫と一緒に騒ぎの中心に行ってみたら、隣国の王妃――白雪姫の母上が、真っ赤に熱せられた靴を履いて踊っていた。
それが、死ぬまで続いた。
それだけの、話だ」




