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第5話 オリジナル台本

もう少し状況説明が続きます。

2019/04/15 「女王」を「王妃」に変更しました。

2020/02/23 誤字を訂正しました。(「本人が間の感情も」→「本人が何の感情も」)

 童話『白雪姫』。

 酒挽(さかびき)が、この有名な物語に起きた異変に気づいたのは、昨日の放課後。1学期の期末テストが終わり、中止されていた部活が再開した直後のことだ。

 酒挽は、演劇部室で理香に渡された台本を最後まで読み終わり、ページを閉じた。


 ……理香のヤツ、また随分と手の込んだ冗談を仕込んできたな。


 そんな感想を真っ先に思いつく。

 周囲を見回す。

 部屋には総勢20人の部員が、長方形に並べられた長机に等間隔で座っていた。

 かなり蒸し暑い。

 真夏の、温度も湿度も限りなく高い昼時である。その上、立地条件も最悪だ。

 演劇部の部室は本校舎と体育館に挟まれている建物の1階。普通なら日陰になりそうなものだが、体育館の窓に反射した光が窓から容赦なく降り注ぐ。

 涼しい風を求めて窓と扉も開け放ってはいるものの、通り抜けてくれるのは暑苦しさを助長するセミの鳴き声ばかりだった。

 だが、部員達はこんな劣悪な環境の中、各々うちわや下敷き、扇子で自分を扇ぎながらも、さっき渡されたばかりの台本を一心不乱に読み耽っていた。

 そんなに熱心に読むほどのものかねぇ。

 ため息を一つついて、酒挽は表紙を眺める。

『森の姫君』

 何の変哲も捻りもないタイトル。その横には『七つ坂高校演劇部オリジナル台本』の文字が添えられていた。

 だが。


 ――魔法の鏡に、世の中で一番美しいのが誰かを尋ねる王妃。

 ――毒のリンゴを食べて倒れてしまう姫様。

 ――通りかかった王子のキスで目を覚ます姫様。


 もうお分かりいただけただろう。酒挽が抱いた感想の理由が。

 全編にわたって見覚え、聞き覚えのあるシーンのオンパレード。それを『オリジナル』と銘打って堂々と晒している。性質の悪い冗談にしか思えない。

 途中から流し読みしても何の問題もなかった。当然だろう。あの有名な童話と寸分違わないストーリーなのだから。

 酒挽は、置いてあった水のペットボトルに手を伸ばし、一口飲む。ここに来る途中にある自動販売機で買った。だが、ほんの数十分の間ですでにぬるくなってしまっていた。喉の渇きは解消されるが、冷涼感は全く得られない。

 扇子かうちわを持ってくればよかった。

 一瞬、台本で扇ごうかとも思ったが、さすがに隣にいる作者の前では慎むべきだ。

 仕方なく、緩めていたネクタイと一緒に開けていた襟元を人差し指で引っ掛け、パタパタと体に風を送る。汗でシャツが張り付いている部分もあって少し気持ち悪いが、それでも何もしないよりは幾分かマシだ。


「読み終わったのか?」


 隣の席に座る理香が声をかけてくる。


「一応な」


 理香の髪は普段通りポニーテールに結われていたが、服装が異様だった。限界まで着崩した制服姿。襟元に結ばれているはずのリボンはなく、上から2つもボタンを開けている。シャツはスカートから引き出され、裾を両手で上下に動かし、涼を求めている。時折へそが見えてしまう。


「……何て格好だよ」


「ん? クールビズだが、何か?」


 絶対わかっててやっているだろう、と酒挽は思うのだが、本人が何の感情の揺らぎも表に出さず答えるので、突っ込んでは負けた気になってしまう。だから、それ以上は何も言わない。

 羞恥心はないのか、という疑問ももっともだ。が、舞台本番中は、更衣室もない舞台裏を使い、短時間で着替えをしなければならないことが頻繁にある演劇部である。そんなことをいちいち気にしていては芝居ができない、というのもまた事実である。


「そんなことより、読んでみてどうだった?」


 酒挽は返事に困る。

 演劇部の次回公演は、理香が書いたオリジナル劇を上演すると部員全員で決めていた。

 テストが終わった翌日に「できた」と言ってきたものだから、仕事が早いと感心したものだが、結果読まされたのが『白雪姫』のパクリである。

 一体何を考えている?

 酒挽は顔をじっと窺う。


「何かついているか?」


「何もついてねぇよ」


「おかしいな。目と鼻と口はついているはずなのだが」


 酒挽はため息一つを突っ込み代わりにして話題を切り、本題をストレートに尋ねた。


「これ『白雪姫』だろ?」

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