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第34話 第二の殺人未遂――弁護側の実証

2019-05-04 11:48

サブタイトルの統一のため、「殺人未遂事件」から「殺人未遂」に変更しました。

「……何の冗談ですか?」


 テールのものすごい冷たい視線が、酒挽(さかびき)に突き刺さる。

 彼女の手には、ボンデージの衣装が握られていた。


「白雪姫が、胸ひもの圧迫により倒れていた件の実験を行うのです」


 場所は法廷。

 一応、角が立たないようにと、検察側の席へキイナに衣装を届けさせたわけだが、どうやら酒挽の指示だと幼女検事は信じて疑っていないようだ。

 違う、やらせているのは、理香なのだ。

 キイナにやらせてもいいのだろうが、演技だと思われる可能性もあるため、検察官であるテールに体験して貰った方がいい、というのが理香の言い分だった。

 確かに、それは間違いではない。

 しかもテールは、人間じゃない。

 人間が行うと、()()()()()()()。実際、死亡事故も数多く起っている。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()、死ぬことはないので、被験者になり得る、ということだった。


「つまり、これを私に着ろ、と?」


「そうなのです」


「ちょっと、弁護人。これ、実証実験したんですよね?」


 目の前のキイナを無視して、テールは酒挽に確認する。


「しました」


「これ、この人で実験したものですよね!?」


 テールの指先がキイナを示す。


「ええ、まぁ……」


 何が言いたいか、酒挽には、よくわかった。


「私に喧嘩を売ってるんですかー!?」


 そんなつもりはないのだが、当然、そういう結論に至るだろう。

 テールが手にしているのは、実験の時に、キイナが着用したものだ。彼女とは体型が正反対の完全幼児体型テールに「着ろ」と言えば、当然、喧嘩を売られているように思うだろう。


「テールさんにこっちの胸は大きすぎるのですが、こっちの腰側はジャストフィットなので何の問題もないのです」


 悪気があるのかないのか、キイナが腰側を指し示して提案する。


「裁判長! 二人に法廷侮辱罪を適用しなさいっ!」


「いや、しかし……」


「こんな屈辱、耐えられますかーっ!」





「……では、窒息ではないと?」


「弁護側としてはそう主張する」


 テールに白雪姫が倒れた原因が、窒息ではなく、胸部圧迫による脳への酸素供給強制遮断である可能性を説明して、ようやく落ち着いてもらえた。


「というわけで、胸部を圧迫する必要があり、かつ、紐で引っ張る時に破れない素材を考慮すると、実験ではこの衣装が最適なんだよ。あと、可能な限り圧迫するのに、狭い方を使う方が再現度は高い。実際、キイナは、ちょっと小さめの水着を着て実験した」


 キイナの水着の件は、酒挽が抱いた個人的な感想であることは伏せておく。


「白雪姫が証言した『体がゾワゾワっとして、一瞬寒気みたいなものを感じたと思ったんですが、目の前が真っ暗になって……』と似たような経験をしたのです」


 キイナが自分の体験談を語る。


「わかりました。おっしゃる通り、私が経験しなければ意味がなさそうです」


 承諾を得たところで、実験を行う。

 意識を意図的に奪うので、倒れた時の対策として、検察側の席で行うことになった。

 できるだけイスを机に近づけ、上にはクッションを配置。

 イスは両側に肘置きがあるので左右に倒れても支えはある。

 キイナにはイスごと倒れないよう、横から脚を押さえてもらう。

 テールの胸に、ボンデージの腰部分を巻きつかせて、準備が整う。

 酒挽がテールの耳元で囁く。


「では——」


 頷いたテールは、酒挽の言うとおりに動く。タイミングを見計らって酒挽は、紐を一気に締め上げた。


「……っ」


 ものの数秒でテールの上半身から力が抜け落ち、顔が真上に向くようにがくりと仰け反る。瞼は閉じられていた。

 酒挽が紐を急ぎ緩め、テールの頬を軽く叩く。


「う……」


 意識が戻る。

 頭に片手を当て、何かを振り払うように左右に振る。


「大丈夫か?」


「え、ええ」


 声を掛けられたテールは、返事はしたものの、どこか心ここにあらず、という風にぼんやりとしている。

 まだ脱力しているテールから、キイナがボンデージの衣装を解く。


「なるほど……首を絞められた形跡も、被害に遭ったと主張する被告人の抵抗の跡もない理由がこれだと」


「検察としては、胸を絞められても窒息するとは思えない、と考えていたんだろうが、意識を失わせることは可能なわけだ。

 状況次第だが、脳への酸素供給を遮断させるものなので、意識を失ったまま死亡することや、倒れた際に頭を強く打って死亡するケースもある」


「あくまでも可能性、でしかありませんよね?」


「だが、少なくとも、白雪姫が窒息のために倒れていた、という事実認定が覆る可能性がある。加えて言えば、王妃がこの事件の犯人である可能性がゼロではなくなった」


 検察側は第一審で、胸ひもを用いて窒息状態に陥っているにもかかわらず、首に索条痕がないこと、王妃に白雪姫が抵抗した際についたはずの傷がなかった、という2点をもって、王妃が白雪姫を殺害したというのは白雪姫の思い込み、という理論を構築した。

 今回の審理では、それを否定できる可能性を立証した。

 裁判長の木槌が響く。


「検察側、今の件で何かありますか?」


「色々思うところはありますが、審理上の意見はありません。そして可能なら休廷を」


 テールのジト目が酒挽に注がれる。

 承諾したとはいえ、実験で使った衣装については相当異議があるようだ。


「弁護側は?」


「休廷に同意します」


 ——カンッ!


 裁判長が宣言する。


「それでは一旦休廷とします」

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