第24話 第二の殺人未遂――白雪姫が倒れた理由
アップがギリギリになってしまいました。
2019-4-27 後書きに注意書きを追加しました。
「「おはよう」なのです」
翌朝、立ち寄った理香とキイナを見た酒挽が尋ねる。
「キイナ、理香に何された?」
「開口一番に失礼な話だな、当利」
理香は抗議の声を上げるが、疲労の色が見えるキイナを見れば、そう思わざるを得ない。
そもそも、理香の表情がニヤついていることが拍車をかけている。
「日頃の行いの賜物だろう」
隙あれば、彼女の体に何かしようと狙っている印象しか酒挽にはない。
「あの、されたと言うか、させられたと言うか……」
「やっぱり」
「あ、でも、これは致し方のない事なのです。急ぎ、裁判記録の確認をしたのです……フフフ……」
キイナの瞳が、漆黒に染まったような錯覚を覚える。闇に落ちなければいいと、思わずにはいられなかった。
「全く、ボクが毎度毎度キイナにイタズラすると思ったら、大間違いだ」
「す、すまん」
「第一、キイナにイケナイことをしても、羞恥心を煽る効果しか見込めないではないか。その様を当利に見せて、反応を見ることで、ようやくボクの嗜虐心は満足するのだ」
「俺の謝罪を返せ!」
「ボクへの謝罪は必要だろう? 当利の思い込みのせいで、あらぬ疑いをかけられたのは事実だ」
そう言われてしまえば、グウの根も出ない。
3人は、学校へと向かいながら話を続ける。
「次の童話裁判では、順番どおり、第二の殺人未遂事件を扱った方がいいだろう」
第一の殺人未遂は、白雪姫を狩人に森へと連れ出させて、殺害を企てたこと。
計画した王妃はすでに死亡。実行犯である狩人は、第一審で証言を行っていない。
「理香に『一応確認して欲しい』と言われたので、狩人の証言を裁判記録で詳細に確認したのですが、弁護側にも検察側にも、証人として召還されていなかったのです」
「え?」
酒挽は、てっきり、狩人は召還しても現れなかった、と思っていた。事実は、召還すらしていなかったとは。
「検察側は、事前の調査で狩人の死亡を確認している可能性は高い。召還しなくても、さほど不自然ではない」
起訴する立場としては、調べられる証拠、証言はすべて調べ上げているだろう。
「第一の殺人未遂事件についての白雪姫の証言は、私たちが証言で聞いたのと、ほぼ同一の内容だったのです」
であれば、白雪姫は狩人について証言をしている。
「王子は、なぜ召還していないんだ?」
「裁判記録には何も書かれていなかったのです」
キイナも釈然としない表情を見せながら答えてきた。
「外野があれこれ推測したところで、真実は何一つ判明しない。狩人のように死んでいる可能性は皆無なのだ。直接王子に聞けば、自ずと答えは出てくる」
確かにそのとおりだった。
現に酒挽は、童話世界で一度王子と会っている。
王子に『なぜ狩人を証人として呼ばなかったのか』なんていう質問には、緊急性がない。証言台に立たせるため、強制的に召還させる必要性はないわけだ。
「キイナが調べさせられたのって、それ?」
キイナは首の動きで否定する。
「第二の白雪姫殺人未遂で、白雪姫が気を失ったときの証言を確認して欲しいと言われたのです」
「ボクの書いた『森の姫君』では、姫は2度しか殺されかけていないからな」
白雪姫の裁判では、白雪姫殺人未遂事件は4回起きている。
1度目は、狩人に森へと連れて行かれ、殺されそうになった。
2度目は、胸ひもで圧迫され、意識を失っていた。
3度目は、毒の櫛で、意識を失っていた。
4度目は、毒リンゴで意識を失っていた。
理香の書いた演劇台本『森の姫君』では、そのうちの1度目と4度目の事件しか描かれていなかった。
「キイナのお陰で、ある程度事件は見えた」
「本当か!?」
「ウソをついても、ボク的に、何一つ面白くはないからな」
「でも、理香は何も教えてくれないのです」
頬を膨らませて、唇を尖らせるキイナ。
「だから、昨日宣言したではないか。『森の姫君の姫を演じてもらう』と」
確かにそう言っていたが。
「それで何がわかるのか?」
「ま、見てみればわかるさ」
理香は悪戯っぽく笑うと、自分の唇に人差し指を押し当てて見せた。
どうやら、真相はまだ秘密にするつもりらしいが、それを見た酒挽には、嫌な予感しかしなかった。
そして、時間は放課後へとたどり着く。
演劇部の部室には、酒挽と理香を筆頭に演劇部員が一同に介していた。
それに加えて、キイナの姿もある。自分を抱きしめるように体を小さくして、しゃがみこんでいる姿が。
「理香、一つ聞いておこうか」
「何をだ?」
「キイナのこの格好についてだ」
「水着を着用してもらっているが、何か問題でもあるか?」
「大有りだろうが!」
そう、キイナは水着姿だった。それも競泳用水着で、体のラインがくっきりとわかってしまう。
理香に『真相の究明に必要なことだ』と言われたので、着たはいいが、やはり恥かしいらしい。
他の部員も、スタイルのいいキイナの姿に注目している。男女問わずに。
「お前は、『森の姫君』の姫は、水着姿だとでも言うつもりか!?」
「変なことを言うな。姫は当然ドレスを着るに決まっているだろう」
「じゃあ、なぜキイナは水着なんだ!?」
「胸ひものためだよ」
「紐じゃねぇじゃねぇか!」
理香が取り出したのは、まるでSMで使うような衣装だった。
黒光した光沢のある皮が、胸から腰を覆うようにできている。
体の前部分は完全に開いていて、そのまま着たら、胸の谷間から臍部分までが完全にさらされるようになってしまう。
「紐なら、ほら」
理香が指し示したのは、晒される谷間から臍の縦ライン。縁取るように多くの穴があり、紐がクロスしながら下から上に編み上げられ、胸の部分で結ぶようになっていた。
「ボンデージビスチェとか、ビスチェコルセットという名前だ」
「商品名は聞いてねぇよ!」
「人がせっかく親切心で、後で画像検索しやすい単語を教えてあげたというのに」
「いや、それはいいから、キイナの水着姿と、その衣装について説明しろよ!」
「キイナの豊満な胸では、この衣装からうっかり零れてしまいかねないので、水着を着てもらった。そして、胸ひもできつく縛り上げるための強度を求めた結果、SM用衣装が最適だと判断した」
一応、尤もらしい理由だった。
「昨日、キイナの胸を計測して、サイズは確認した」
そういいながら、理香は指をワキワキと動かす。
確かに、胸を触った後、何か納得したようにしていたことを思い出すが。
「その手の動きで台無しだよ!」
「単なる準備運動をそのように捉えてしまう当利に、ボクは一抹の不安を感じざるを得ないがな」
どこまでが本気なのか、理香の平然とした表情からは読み取れない。
「さて、キイナ。ボクの知る中で、もっとも胸の大きさと腰のくびれの格差がある君が最適だと判断してのことだ。その水着の上から、これを着ろ」
「うう……本当に必要なことなのです?」
涙目になりながら、キイナは問いただす。
「無論だ」
即答した理香に、キイナはヨロヨロと立ち上がる。
「わかったのです」
そういうと、衣装を受け取り、水着の上から着用する。
「さて、シチュエーションとしては、姫は、胸ひもを結んでもらうことになるわけだが、当然、自分に似合うかどうかを見ながらのことになる」
そのため、姫の正面には鏡。それも鏡台が置かれ、紐を結んだ者は、背後から締め上げることになる。
「そうでなければ、姫が苦しんだときに、抵抗が容易になるだろうからな」
理香はそういいながら、キイナをイスに座らせる。
そして自分は正面に立つ。
「当利。君はボクの前に座ってくれ。それと、脇田と茂部は、右と左に立って、キイナの腕を取る」
女子部員二人がキイナを挟む形で立った。
腕を取る、と言っても、立っている二人に対して、キイナはイスに座っている。
どうしても、脇下に腕を入れ、上に向かって支える形になってしまう。
「園田は、紐を縛り上げる担当だ。ボクがストップをかけるまで、思いっきり締め上げるんだ」
部内で最も握力の強い部員が、王妃の役に抜擢される。男子部員であるが。
「では、はじめよう。園田、準備はいいな?」
王妃役の男子部員が頷く。
「キイナ。目線を当利の方へ。決して逸らさないこと。そして、深呼吸してリラックスを」
頷いたキイナは、酒挽を見つめ、息を深く吐き出す。
「では、用意……」
少しの間。
そして理香は、キイナが息を吸い始めたタイミングを見計らって『パン』と手を叩いた。
同時に園田は紐を左右に引っ張りあげる。
数秒後、キイナの目線が、わずかながら上へと彷徨う。
――パン!
理香が手を叩く。
同時に、キイナを締め上げていた紐にかかる圧力が下がる。
そして、キイナの体はゆっくりと前へ倒れてきた。足からも力が抜け落ちるようにして、くずおれる。
その体は、左右から支えていた女子部員の力では止められず、酒挽が正面から抱き抱えるようにして抑えた。
「キイナ!」
「当利。そのままゆっくりと、仰向けに寝かせるんだ。頭を揺らしたりしないように」
慌てて声を上げた酒挽に対し、理香は冷静に指示を飛ばす。
酒挽は言われたとおり、キイナを囲んでいた他の3人の部員と協力して、彼女を仰向けに寝かす。
最終的に、酒挽が膝枕をする形になった。
「どういうことか、説明してくれるんだろうな?」
胸の紐を緩めている理香を、睨むように見つめて、酒挽は尋ねた。
「索条痕――首を絞められた痕跡なしに、圧迫で意識を失わせる。これが姫が倒れた理由だよ」
次回の更新は、28日になってしまうかも知れません。
極力27日にできるよう、がんばります。
※注意! おわかりかと思いますが、危険ですから、キイナがされたようなことは絶対にやらないでくださいね。




