第20話 狩人の証言
なんとか間に合いました。
でも、まだ裁判には突入できませんでした。
なかなか進まず申し訳ありません。
〈2019-4-21〉ふりがなの設定がおかしかったので訂正しました。
〈2019-4-23〉分かりにくい言い回しを一部訂正しました。
夜、理香から「今から電話してもいいだろうか?」とメールが来たので、酒挽から電話をかけてみる。
呼び出し音が何度か続き、程なく理香が出る。
「ボクの方に用件があるのだから、ボクからかけるのが筋だと思うのだが」
「いや、俺も用があったし」
「そうか、ならば致し方ない。先にボクの用件を伝えていいだろうか」
「ああ」
「明日、迎えに行くから、一緒に登校して欲しい。キイナも一緒だ」
「わかった」
そんなこと、メールで十分な気がするが「頼みごとをするなら、せめて直接電話するのが筋だろう」というのが、理香なのである。
「あれ、キイナは理香の家にいるのか?」
「いや、童話世界にいるはずだが……ああ、そういうことか。朝はボクの部屋に扉を開いて、一緒に通うことになった」
酒挽の質問の本質を読み取った理香が、先回りして回答してくる。
「じゃあ、夜は童話世界にいるわけか」
「そうだ。しかし、向こうの世界とは通信手段がないからな。タイミングを誤ると、ラッキースケベ的なイベントが発生しないとも限らん」
その点、同性の理香なら問題ない、というのが結論らしい。
「理香のあの行動を見ると、問題大ありのように思うけどな」
「異世界人を認識するために胸を揉みしだいたことか? 別段、性的な目的なぞないぞ?」
『あの行動』だけで、酒挽の言わんとした『問題行動』が何かを正確に言い当てている時点で、自覚ありと白状しているようなものだろうに。
「そう言えば、昨日はどうやってこっちに来たんだ? 学校まで来てるし」
キイナは昨日、唐突に転校してきた。それも午後に急遽だ。理香は学校にいたわけで、童話世界からの扉を開くことができなかったはずだ。
「文部科学省の役人と一緒だったそうだ」
急な転校手続きを、一切の必要書類なしに行うため、国が身元を保証する事で話を進めたらしい。
国家権力が介在しなければ、常識外の転校手続きなど不可能だ。理香が以前に、言及したことを思い出す。
「一応、キイナには国家権力の介入がないよう『お・ね・が・い』はしてある」
「……その程度で、国がどうこうできるものかね」
「国は、『異世界』の存在を認知し、『異世界人』との交流を既に行っている。それを、一切主権者たる国民に公表することなく、だ。投票でその地位を得ることができる議員どもや、自ら責任を取ることを嫌う役人どもは、勝手に公開されることを、何より恐れるだろうな」
「それ脅しだろ! 何、国に喧嘩売ってるのさ!?」
「売ってなどいないさ。国が関与する異世界人の面倒をボクたちが見ているのだ。ボクたちの身をキイナが案じていたのでな。交渉材料を提供したに過ぎない」
実際、キイナは上手に交渉したらしい。理香のところに、文化庁の役人が直接電話をかけてきたという。「キイナをよろしく」と。
「それ、上手くやったんじゃなくて、理香が背後でキイナを操っていると思われているだけじゃないか?」
「そう思い込んでくれれば好都合だ。余計にボクたちに迂闊に手を出せまい」
荒立てなくてもいい事を荒事にしているようにしか思えない。
「して、当利の用件とは何だ?」
「いや、一つ確認しておきたいことがあって」
「何だ?」
「理香は、どうしてキイナに『狩人の証言の有無』を確認したんだ?」
「狩人は証言をしていないと思ったからだ」
「なぜ?」
「理由は簡単だ。狩人は死んでいるはずだからだ」
そして翌朝、予告どおり理香とキイナが酒挽の家に迎えに来た。
「理香は本当にすごいのです。狩人は証言していなかったのですよ!」
そして会うなり、キイナは目を輝かせて酒挽に訴えたのだ。
「一体どういうことだ?」
昨日の電話では『キイナが裁判記録を確認してからだ』と言って、詳細な答えをはぐらかしていた。
確証を得たことで、きちんと説明してくれるはずだ。
「狩人が姫を森に連れ出したのは、『森の姫君』と同じ内容だ。ならば、王妃は、狩人に姫を森に連れて行き、殺害するよう命じたはずだ」
しかし、狩人はそうしなかった。白雪姫を逃がしたのだ。
「そして王妃は、姫が死んでいないことを知る。魔法の鏡に問いかけることによってな。殺したいほど姫の美貌に嫉妬している王妃が、自分の命令に背いた狩人を、生かしておくと思うか?」
「だから、証言台に立てなかった……既に、殺されていたから」
「……というのが、昨日のボクの推論だ」
そして、裏付けのため、キイナに裁判記録を確認させた。
童話裁判では、証人は強制召喚。拒否はできない。
なのに、狩人は証言台に立たなかった、という事実を得た。
「さて、これで検察側が、第一の姫殺人未遂事件で奇妙な表現を使った理由が分かった」
「奇妙な表現?」
「『白雪姫が狩人に森へと連れて行かれた』と言った件だ」
確かに、森に連れて行かれただけでは、殺人未遂にはなり得ない。
「確かにおかしかったのです。正確には『一度目は、白雪姫が狩人に森へと連れて行かれた時です』と言ったのです」
その時酒挽は、テールの『自分の命を4度も狙ったはずの相手』という言葉に上手く誘導され、自分が知っている話と結合し、白雪姫が狩人に殺されかけた、という事実を作り上げてしまっていた。
「つまり、検察側としては『姫が狩人に森に連れて行かれた』という事実は認めているが、『殺されかけた』は、認めていないことになる……ようやく確証が持てた」
確かにテールは「被告人は、これら4件を全て王妃によるものだと主張しております」と言った。
理香の言うように、検察側は、王妃による殺人未遂事件自体を認めていないのだ。
「姫が王妃を殺害する動機としての位置づけで、4つの殺人未遂事件は取り扱われているに過ぎない。こちらとしては、姫から正確な証言を引き出すしかあるまい」
「……そうか。1番目の事件だけ、実行は狩人で、残りの3件は王妃自身が実行しているからか」
理香は頷く。
「実行犯が既に存在しないのだ。姫にできる限り正確に思い出してもらい、その証言を裏付ける証人の存在を何とか引き出す必要がある」
「それで、脇役、か」
「そうだ。ありとあらゆる脇役を確認し、事件に関わっていそうな人物の証言を集める」
それが、朝の作戦会議。
学校にいる間、キイナはやたらと酒挽の近くにいたがった。
キイナ曰く『異世界人だとバレないよう、フォローをお願いするのです』。
それがまた、同級生男子からの反発を招いたのであった。
と言うわけで、いよいよ次回から本格審理の開始です!




