第16話 事件の概要
なぜ王妃は殺されなければならなかったのか、白雪姫が殺人を犯した動機が、検察側から語られます。
2019/04/18 セリフ回し等を少し変えました。
2019/11/26 「法廷記録」を「裁判記録」に訂正しました。
事件の概要は、こうだった。
結婚式に招待された王妃は、会場に入場後、直ちに拘束された。
その場で真っ赤に焼けただれた鉄の靴を無理やり履かされ、死ぬまで踊り続けた。
踊っている光景は、会場にいたすべての人間が目撃している。
「状況的に、事故や過失はあり得ません。被害者は殺意を持って殺されたと断じることができます」
テールはそこで言葉を切る。
メモの類一つ見ることなく流暢に説明をしてくれたその姿に、酒挽は思わず感心する。と同時に、準備万端だということを誇示していることが見て取れた。
「ここまでで何か質問は?」
テールが聞いてくる。
「何かありますか、弁護人」
追従するように裁判長が尋ねる。
キイナの『お・ね・が・い』で便宜を図ったことにされている裁判長は、どうやらテールには頭が上がらないようだった。
それが判決に影響しないことを祈るばかりである。
とはいえ、祈るだけでは、何も変わらない。
酒挽は手を挙げた。
「弁護人、どうぞ」
裁判長が発言の許可を出す。
「今の検察側の話だと、王妃が殺意を持つ誰かに殺されたに過ぎないはずだ。その誰かが白雪姫だと断定するのは、飛躍しすぎだと思うが?」
酒挽の言葉に、テールは不敵に微笑んだ。
「全面対決を御望みですか? いいでしょう、多少の茶番にはこちらもお付き合いたしますよ」
完全な挑発だった。酒挽はムッとする。だが、感情を表に一切出さずに酒挽は応じる。
「生憎と、君の暇つぶしにするつもりはないよ。俺はできることに全力を尽くすだけだ」
「そうですか。ではこちらは、あなたの全力を全身全霊で叩き潰して差し上げます」
酒挽がテールをじっと見つめ、テールは冷めた目で酒挽を睨みつけている。
画像で演出するなら、おそらく中央で目線同士がぶつかって火花が散っている絵が一番様になるだろう。
「盛り上がっているところ恐縮ですが」
裁判長が困惑の表情を浮かべながらソロソロと手を上げる。
「ここでの発言は、すべて『裁判記録』に記されます。後での削除はできませんから、不用意な発言は厳に慎むように」
裁判長の下に二人いる人が、何かを必死に書き取っている。発言の一字一句が裁判記録にされてしまうらしい。台本みたいなものだな、と酒挽は思ったりもした。
「話が逸れてしまいましたね。ご質問は、白雪姫が王妃を殺害した理由でしたか?」
「違う。なぜ白雪姫に王妃を殺害した嫌疑がかかったか、だ」
酒挽が肯定してしまえば「王妃を殺したのは白雪姫だ」ということを事実だと認めることになる。そんな言葉尻の問題に引っかかるほど酒挽の注意力は浅くない。
テールは首を横に振ってから、
「そうでしたね。そちらにとって、白雪姫は罪をかぶせられた存在なのですものね。言葉が過ぎました。以後気をつけます」
「よくぞ見破ったのです。さすが本番役者」
本番に強い、と言いたいのだろうが、
「何か別の意味に捉えられかねないから、やめてくれ」
緊張感が漂うはずの法廷なのだが、ちょくちょくキイナがチャチャを入れてくる。
和むは和むのだが、ともすれば緊張の糸がぷっつりと切れて、一気に形勢を決められる可能性だってある。
「ご質問の、白雪姫に嫌疑がかかった理由ですが、白雪姫は、本件事件が起きるまでに4度、王妃から命を狙われたと主張しています。にもかかわらず白雪姫自身が結婚式の招待状を出した。いくら実の母親とはいえ、自分の命を4度も狙ったはずの相手に招待状を出すでしょうか? ここにある種の意図があるとしか思えません。そして、会場にいた中では、白雪姫以外、王妃に殺意を抱きそうな者はいなかった。さて、どうですか? 状況を考えれば、白雪姫が王妃を殺害した以外に考えられないでしょう?」
――実の母親?
――4度も命を狙われた?
思わず声が出そうになるのを、酒挽は必死に飲み込んだ。
『白雪姫』の王妃は血の繋がっていない継母のはず。
それに、4度も命を狙われたとは、一体何の話だ。
『白雪姫と王子は結婚し、幸せに暮らしました』の一言で終わりなはずで、『意地悪な王妃は拷問にかけられて殺されました』なんてエピソードは必要か?
「何か反論がありますか?」
疑問のオンパレードで酒挽の頭がグルグル回っているところに、テールが畳みかけて来る。
酒挽は、知らなかった内容を突きつけられた動揺を悟られまいと、表面を必死で取り繕って質問を絞り出す。
「白雪姫が4度命を狙われた件について、時系列に沿って確認したい」




