第11話 謝罪の真意
ちょっと短めです。
2019-4-15 地の文の酒挽当利の表記を酒挽に統一しました。
「おかえり」
酒挽とキイナは童話世界から帰ってきた。
キイナが扉を作りノックをし、理香がそれに反応して『人間界』の側から扉を開けてくれたのだ。
理香の部屋も理香自身も、酒挽が『童話世界』へと引っ張り込まれた時と全く違いはなかった。
「話を聞きたいところだが、時間も時間だ。詳細は後ほどな」
時計を見ると2時を回っている。時間にして30分ほど童話世界にいたことになる。
「結論だけ確認させて欲しい。キイナが『童話世界』からやって来たのは事実だったか?」
「事実だったよ」
「そうか」
理香はそれ以上疑問を口にしようとはしなかった。
「当利、玄関まで送ろう。キイナは少しここで待っていてくれ」
「わかったのです」
キイナを残し、二人で部屋をそっと出る。
そして無言のまま、足音を出さないよう、暗い廊下をゆっくりと進む。
「すまなかったな、当利。付き合わせてしまって」
玄関を出て扉を閉じると、理香が口火を切る。
「いや、いいさ。『白雪姫』のことがわかったんだから」
「……すまんな」
理香の口を突いて出てきたのは、再びの謝罪。だが、
「むしろ謝るのはこっちの方だろう?」
「……え?」
「キイナは俺を探しに来た。お前はそれに巻き込まれた。だから、謝るのは俺の方だ」
一瞬目を見開いた理香だったが、フッと息を吐くと、
「まぁ、そうか」
と言ってほほ笑む。
どちらからともなく「じゃあな」と言葉を交わす。
理香が家の中に入ったのを確認してから、酒挽は家へと向かった。
頭ははっきりと覚醒している。むしろ非日常を目の当たりにした事実に興奮状態で、朝まで眠れないのではないか、と自分自身を危惧してしまうほどだ。
ベッドにもぐりこんだ酒挽はそれでも無理に眠った。部屋を暗くして、体を弛緩させ、心音を意識しながら、呼吸を整える。
これが夢かどうか。
もう一度目を覚ましてみないと、わからないような気がしていた。
==========
玄関を閉めた理香は、扉に背を預ける。
「……そういう意味で謝ったわけでは、ないのだがな」
ぽつりと零す。
自分が忘れているとはいえ、酒挽の思い出を踏みにじったのは事実。理香は、そのことに謝罪をしたかったのだ。
しかし、酒挽はそれに気づかなかった。
説明してもよかったのかもしれない。だが、理香はそうしなかった。
――これじゃあ、ダメだ。
今のまま謝罪しても、上辺だけのものでしかない。
『白雪姫』を取り戻して、自分の思い出を取り返して、きちんと自身が犯した過ちに向き合って、初めて酒挽にきちんと謝罪ができる。
しかし、『白雪姫』と同じ物語を書き上げた自分では、思い出を取り戻せない。
――それを当利に託すしかないのが、な。
理香は俯く。
他力本願もいいところだ。
だから、フォローをする。それしか、自分にはできないのだから。
「二人の思い出、か……」
ふと、酒挽が言ってくれた言葉が頭をよぎり、噛みしめるように呟く。
月明かりが理香の顔を照らす。その、綻んだ口元を。




