第115話 偽証の審理――検察側の調査結果
サブタイトルを少し変更しました。
審理が再開される。
「証人を呼び出す前に、検察側に昨日依頼した調査の結果について確認したい」
酒挽がそう切り出すと、正面に座ったテールが立ち上がる。
「棺の運び手ですが、その所在を確認できませんでした」
棺の運び手。白雪姫が王子にお持ち帰りされて以降、棺を運搬し続けた王子の従者のことだ。
メイドの証言によれば、棺の角に一人ずつ4名で運搬していたものを、5名でローテーションしていた。
そのうち4名は、白雪姫に不敬を働いた咎で、処刑されたことになっている。
残っているはずの一人を昨日の審理で証人として召喚したにもかかわらず、証言台には誰も現れなかった。
だから酒挽は、一応念のためとして、検察側に所在の確認を依頼した。証人としての召喚で呼びつける言葉が間違っていたり、足りなかったりしている可能性を考慮してのことだ。小人のうち、一番痩せている証人を呼び出そうとした時のように。
「では確認するが、検察側も、王子とメイドの偽証の可能性を認識したということでいいか?」
「結構です」
テールが間髪入れずに答え、即座に着席する。
「え? どういうことなのです?」
戸惑っているのは、キイナだけではない。
「あの……説明をお願いしてよろしいでしょうか?」
裁判長がテールを見ながら手を挙げている。
「説明は、弁護側からお願いします」
テールが話を振ってくる。
まぁ、話を仕掛けたのは弁護側なのだから、当然と言えば当然の振りであろう。
「童話裁判の証人になれるのは、物語が幕を閉じるまで存在していたモノに限られるというルールでした」
だから、物語の終幕直前に「死ぬまで踊り続けた王妃」は、裁判では召喚できない。
一方で、物語に登場すらしていない人物、あるいは話すことができるのなら物体であっても証人として召喚ができる。
「さて、王子の証言によれば、王妃の殺害に使われた靴は、白雪姫の棺を運んでいた4名の処刑のために用意されたものです」
これは、隣国の王女たる白雪姫の背中を叩くという不敬を働いたことに対する、国から国への謝罪行為。ともすれば宣戦布告と捉えられてもおかしくないことを許してもらうため、実行犯の首を差し出すことが目的だった。
「ところが、王妃はそのために用意された靴を使って殺害されました。
さて、ここで疑問なのが、棺の運び手4名がいつ処刑されたか、ということです」
王子は、運び手4名の処刑を、隣国の王族の前で行うことで、国として敵対関係になるつもりはない、という意思表示をしようとした、と証言している。
逆に言えば、王子は隣国の王族たる王妃に、その処刑を見届けさせる必要があるはずなのだ。
ところが王子はこう証言した。
『どれほど時間が経過したかはわからないが、会場がどよめいた。
白雪姫と一緒に騒ぎの中心に行ってみたら、隣国の王妃――白雪姫の母上が、真っ赤に熱せられた靴を履いて踊っていた』
「……王子の証言では、なぜか王妃と挨拶を交わしたり、王妃と白雪姫の邂逅は語られていません。処刑の目的が目的だけに、即座に処刑を披露する必要があったはずで、当然王妃に会ったこと、白雪姫とも言葉を交わしたことに言及されてしかるべきです。
仮に、王妃がその処刑を見た後に自分が同様の手口で殺されたとしたなら、処刑を免れた一人は、少なくとも物語の幕が閉じた後に殺されていることになるはずですから、召喚に応じて、証言台に立っていなければおかしいわけです。
そして、もし王妃が殺された後に処刑が行われていたのなら――処刑を予定されていた運び手4名についても、証言台への召喚が可能という結論にならなければおかしいわけです」
しかし、実際、証人は誰一人として現れなかった。
「よって、先日の裁判で召喚が成功しなかったことから考えれば、棺の運び手の存在自体が怪しい、と言わざるを得ません。それが弁護側の主張です」
「検察側も、弁護側と同様の疑義を認めたいと考えます」
テールは手を挙げて、同意の発言をする。
キイナは口をパクパクとするだけで、言葉を発することができずにいた。
棺の運び手の存在を否定すれば、白雪姫が意識を取り戻した瞬間の証言全てが偽証となりかねない。
つまり、王子とメイドの証言の一切が否定されてしまう。二人の証言の整合性が合致している以上、双方とも示し合わせて偽証をしていることになる。
「……しかし、わかりませんね」
テールは首を傾げる。
「弁護人とは、王子とメイドとの再証言は同意していました。わざわざこんなことを立証しなくてもよかったのではありませんか?」
テールの言うとおり、再証言は規定事項だ。ここまでやらなくても、本人に証言を求めれば、矛盾を引っ張り出させる。真実はいつも一つなのだから。
酒挽は、にっこりと笑って答えた。
「最初から検察に二人の証言が偽証だと認識させれば、立証の時に検察側も二人の証言が嘘だという前提で審理に応じざるを得ない。加えて、第一審の王子の証言も、検察側のお墨付きで否定できる……そんな簡単な理由だよ」
そう言って座った酒挽は、キイナにポツリと呟く。
「1手空振りして、一審の証言を丸ごと否認できるのなら、悪くない一手だったろう?」




