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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
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189 幼女、表情を強張らせる

「穂乃香さまって、確かにしっくりくるよね」

 月奈の『穂乃香さま』呼びを耳にした合流したばかりの茉莉が、深く頷く。

「ちょ、ちょっと、茉莉お姉ちゃん!?」

 しかし、かつて長い時を生きた記憶があるとはいえ、この世界では同い年の月奈に様付けで呼ばれるのが、穂乃香にはものすごく居心地が悪かった。

「え、でも、穂乃香ちゃん、ゆかりさんやエリーさんから、普通に穂乃香お嬢様って呼ばれてるでしょ?」

 穂乃香の困った様子に、茉莉とともに合流したばかりの千穂も首を傾げる。

 そちらに、グインと首を向けた穂乃香は、ため息を吐き出しながら言う。

「ゆかりさんやエリーさん達は、私の家が雇っている人たちなので、仕方ないと思うんです。むしろ、呼び捨ての方が問題ですって言われると、その通りだなぁって私も思うくらいですから……」

「あー、そうですね。使用人は仕方ないですけど、友達に様付けは、すこし……いや、だいぶ、落ち着きませんね」

 大人びていたり、西洋人の要素の強い外見もあって、様付けで呼ばれることがあるアリサが穂乃香に理解できると頷いた。

「ですよね、ですよね、さすが、アリサお姉ちゃん!」

 今までいなかった同意の意見を口にしたアリサに、喜色満面の穂乃香が不用意に抱き付く。

「わっとっと、穂乃香ちゃん、そんなに味方に()えていたので……すネ~~~~~っ!」

 会話の途中で、急にアリサの声のボリュームと高さが跳ねあがった。

 そこかしこから飛んでくる嫉妬の詰まった鋭い視線に怯えながら、アリサは引きつった笑顔を浮かべて穂乃香を引きはがす。

「なに、アリサお姉ちゃん?」

「身の危険を感じたので、離れるデーース!」

 似非外国人キャラのスイッチがいつのまにか入ったアリサは、そう言って必死に首を左右に振って見せた。

 特に視線だけで殺されてしまいそうな、ねっとりと殺気の籠った目を向ける千穂に怯えつつ、アリサは両手を上げる。

 そうして穂乃香と距離を取ったところで、アリサは意思表明の言葉を置き去りにして、脱兎のごとく部屋の外へと飛び出していった。

「私はマダ、三途リバーを渡る気はナッシングでーーーす!」


 アリサの逃走劇からしばらく、月奈のテストも兼ねて、スタジオ内の学園セットへと一同は場所を移していた。

「わあ、すごい、テレビといっしょだけど……がっこうがバラバラだぁ……」

 撮影アングルによって、壁を取り払えるように設計された背景セットが、並ぶ大きなスタジオの中で、月奈はポカンと口を開けたまま、しきりに周囲に視線を向けていた。

 その様子を微笑ましいものを見る月奈の母、葉月と同じような顔をしていた穂乃香が、ふと、一つの事実に気付く。

「そういえば、撮影スタジオにはみどりちゃんも、奈菜ちゃんもまだ来てないから、月奈ちゃんが一番かも」

 孤島ロケでは、全てのシーンが島内で撮影されたために、こうした撮影用のセットが組まれているスタジオを、みどりと奈菜は未経験であった。

 単純にそのことを告げようと穂乃香は微笑む。

「月奈ちゃんが三人の中では一番乗りだね」

 すると、月奈は目を見開いたまま、わずかに震える声で「るながいちばん?」と疑問符付きの言葉を漏らした。

「まあ、私はすでに来ちゃってるから……」

 言いかけの穂乃香の言葉を、今度は強く音量も増した月奈の言葉が遮る。

「さんにんのなかで、るなとみどりちゃん、奈菜のなかで、るながいちばん!」

 強調された一番の響きに、少し驚きつつも、穂乃香は「そうだよ」と同意を示した。

「るな、みどりちゃんや奈菜よりも、さきのこと、いちばんなことなんてないとおもってた」

「そんなことないよ。確かにプリッチの撮影のスタートは二人より後かもしれないけど、これからいっぱいあるよ、月奈ちゃんが一番に体験することが」

「そっか」

 穂乃香の言葉に、月奈は満面の笑みで頷く。

 すこし他の二人に比べ出遅れてるのを気にしているのだろうと、励ましの言葉がうまく作用したようだと、ほっと息をつこうとした瞬間、穂乃香の顔が強張った。

 嬉しそうに目を細めている月奈は気づかない。

 いや、おそらく撮影スタッフを含め、その異変に気付いたのは穂乃香一人だけだった。


 黒い靄が、月奈の体からわずかに漏れて霧散していく。

 それは月奈の中の闇が浄化されたあらわれであった。

 つまりは、月奈が救われたことを示す事象でありながら、穂乃香の表情は驚きに固まったまま、動かない。

 そんな穂乃香のもとに、古巣の探索に出ていた人形形態の青葉、蜜黄、黒華の三人が慌てた様子で飛んできた。

 眷属である三人の様子に、穂乃香は、わずかに生じていた一つの可能性が事実かもしれないと、心中の中の仮説に実感を得る。

『大変です、主様、ここの源泉にまた……』

 青葉の報告は穂乃香にとって、予想通りのモノだった。

 もう一つの可能性として、月奈が別の場所で『(よどみ)』に触れた可能性を考えはしたが、宙へ霧散していった闇の感触が、あの日、茉莉の家で触れたものと同じに感じた穂乃香の中での『本命の予測』はそちらではない。

(『澱』が復活した……)

 穂乃香の胸中の言葉に、すぐさまユラが反応を示した。

『有り得ぬ、何十何百と時間を掛けてたまるものが、わずか数日でなど、自然には……』

 ユラの戸惑いと強い否定の滲んだ声に、穂乃香は酷く冷静に結論を導く。

 そして、それが、穂乃香に驚愕の表情をさせた『本命の予測』だった。

(自然じゃないなら、誰かが、何かをしたってことでしょ)

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