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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
188/812

188 幼女、歓迎する

「どう、だった?」

 サイン会議翌日の朝、奈菜が月奈に単刀直入に切り出したのは、もちろんプリッチ出演の件である。

 子供であるがゆえに体が欲する睡眠欲には勝てなかった奈菜だが、それでも彼女にとってはかなり遅くまで眠りに落ちることができなかった。

 やや眠そうな奈菜に、月奈は「頑張りなさいっていわれたよ」とはにかんだ様な笑みを浮かべる。

「やった、やったじゃない、月奈!」

「う、うん。ありがとう、奈菜」

 えへへと笑い顔を交わし合う二人を見て、穂乃香はほっと一息ついた。

 その横で、みどりが「よかったね、ほのかちゃん」と微笑む。

「うん、みんなで一緒にできるのは嬉しいよね」

 偽りのない気持ちをみどりに返すと、ものすごく疲れた顔のあかねが割り込んできた。

「プリッチもいいけど、幼稚舎の劇も頑張ってね?」

 ものすごく深く刻まれた目の下のクマとよれよれとした足取りに、穂乃香達は表情を引きつらせながら、あかねに対して「はい」と頷く。

 それ以外の反応は、何か危険なものを呼び起こしてしまいそうだったのもあるが、頷きで返したのは、単純に、四人が四人ともプリッチの番組も幼稚舎の劇も区別なく頑張る気持ちだったからに他ならなかった。


「こちらは吉川月奈さん、まだいつからお願いするかは決まってませんが、今日は見学としてこちらに来てくれています」

 直接顔を合わせたばかりのあおいによって、スタッフ一同に月奈が紹介される。

 当然、そのスタッフの中には、出演者であるプリッチメンバーもいるので、月奈はすでに緊張の極致に到達してしまっていた。

 そんなカチコチに固まってしまった娘に代わって、母親である葉月が頭を下げる。

「皆さん、今日は見学させていただくことになりました吉川月奈の母、葉月と申します」

 葉月は着物をこなれた雰囲気で着こなし、髪も綺麗に結い上げたまさしく和装美人だった。

 洋装、それも軽装のスタッフの中にあって、すごく目立つ。

 それでもそれを気にした素振りも見せずに、緊張で固まったままの愛娘の肩を抱いて引き寄せると、たおやかに微笑んだ。

「娘はこの通り緊張で固まってしまう程、場慣れしておりません。けれど、親の欲目もあるとは思いますが、プリティーウィッチという作品に対する情熱は、人一倍だと思っております。ご迷惑をおかけすることも多いと思いますが、娘にチャンスを戴けましたら幸いです」

 葉月はそう結ぶと、月奈の肩に回した腕に力を込めてお辞儀を促す。

 そこでようやく我に返った月奈が、改めて体をまっすぐに伸ばしてから、九十度の角度で頭を下げた。

「よ、よしかわるなです! ほ、ほのかさ……ちゃんとおなじ、ようちしゃのせいとです。い、いたりゃにゃいこともありゅとはおもいましゅが、よろしくおねがいしましゅ!」

 後半に向かうにしたがって、うまく舌が回らない。

 せっかく練習した言葉がちゃんと喋れなかったことに、月奈の中で悔しさがこみ上げてきた。

 ツンと鼻にくる独特の痛みに遅れて、月奈の視界がゆらりと揺れる。

「ちょっと失敗したくらいですぐに泣くの? 月奈?」

 たった一言、けれど鋭く刺さる一言に、月奈の涙は引っ込んでしまった。

 そうして、驚きつつも顔を上げると、月奈の視界の先には言葉の主が笑っている。

「私達の流儀を教えてあげるわ」

 昨日と変わらぬセーラー服に白衣を羽織ったクルミが胸の前で両腕を組んだ姿勢で胸を張った。

「『すみませんでした、もう一度お願いします!』よ」

 不敵な笑みを浮かべるクルミに、月奈は「はい!」とカラ元気に近い、けれども強い言葉で答える。

 そうして、月奈は再び頭を下げた。

「すみませんでした! もういちどおねがいします!!」

 クルミの言葉を復唱してから、月奈は顔を上げる。

 そこには緊張を払い去った月奈の強くやる気に満ちた表所が浮かんでいた。

「よしかわるなです! ほのかちゃんとおなじようちしゃのせいとです! いたらないこともあるとはおもいますが、よろしくおねがいします!」

 先程は噛んでしまって泣きそうになったセリフを、しっかりと言い切った月奈を静寂が迎える。

 セリフとともに頭を下げた月奈には、周りの様子がわからなかった。

 そんな泣き出しそうなほど重く長く感じる静寂が、たった一つの拍手で切り裂かれる。

 顔を上げた月奈が見たのは、にこやかに微笑み拍手をするクルミだった。

 そこへもう一つ拍手が加わる。

 視線を向ければ、この場で唯一の同級生にして、一番尊敬する少女、穂乃香が嬉しそうに拍手をくれていた。

 更に加わる拍手は、大好きな母葉月のものである。

 そして、葉月の参加を待ったように、一斉にスタッフ全員が月奈を拍手で迎えた。

「大丈夫、ちゃんと駄目でもやり直せるんだもん。本番だって出来るよ、ね、あおい?」

 クルミは白い歯を見せて笑うと、監督であるあおいに同意を求める。

 無論、同意見のあおいはそれに頷いた上で、月奈に微笑みかけた。

「月奈ちゃんがやって見たいと思ってくれたなら、一緒にプリッチを作りましょう」

「はい!」

 月奈の答えはそれ以外になかったとばかりに、間を置くことなく放たれる。

 そして、そんな月奈に穂乃香が手を差し出した。

「一緒に頑張ろうね、月奈ちゃん」

「はい、穂乃香さま!」

 穂乃香の手をヒシっと掴む月奈に、穂乃香は表情を引きつらせる。

「その、さま付け止めない?」

「やめません」

 月奈に満面の笑顔で返されて、がっくりとうなだれる穂乃香の姿に、スタッフからどっと笑いの声が巻き起こった。

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