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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
187/812

187 幼女、サインを完成させる

『うん、バランスもいいね』

 出来上がったそれぞれのサインを確認しながら、クルミは満足そうにやり遂げた顔を見せる。

 サインを後々変えることを前提に、まずはひらがなをベースにしようと決まってからは思いの外早い仕上がりだった。

 というのも、まずひらがなを完璧に書けるのが穂乃香だけで、奈菜もそこそこ書けるものの少し形が崩れるし、月奈とみどりに至っては鏡文字も頻発する。

 結果的に、難しいアレンジはせずに作ることにして、自分の名前にトランプで使われる四つのスートをそれぞれが一つ組み合わせるだけに留めたのだ。

 ひらがなで書かれた名前の語尾か背景に担当するスートが描かれるだけの単純でシンプルなサインは、月奈が書いて見せたプリッチメンバーのモノとは程遠い。

 それでも、たとえ拙くとも、自分たちで考えた自分たちだけのサインは、みどりたちをどこか誇らしい気持ちにさせてくれるモノだった。


 スペード、剣や騎士をモチーフにしたスートは、イメージに合ってるということで、奈菜が使うことに決まった。

 大きなスペードマークの右横に縦書きで名前を書き添えるのが、奈菜のサインの完成形である。

 次にクラブ、やや複雑な形状のスートは、月奈の担当となった。

 ファンをこじらせてプリッチメンバーのサインまで修得してしまった月奈にはクラブを描くことなど容易い。

 それに加えて、もともとの由来が杖であることから、魔法使いの杖を連想した月奈は、ご機嫌でクラブを描き、木の形に似たその幹の部分の左右に『る』と『な』を配置して、一番アレンジをうまく作り上げた。

 勿論、その屈託のない月奈の笑顔の前に、杖は魔法使いではなく、農民を模していたなどとクルミは言えずにいい笑顔で頷く。

 ハート、カップ特に聖杯を表すことから、僧侶の意味も持つスートはみどりが使う事となった。

 大きなハートの中央に『みどり』の3文字を描くデザインは可愛らしく。

 みどりもハートの曲線を修得するのにはてこずったが、最終的には幾度も書き重ねたことで、名前ともどもしっかりと書けるようになった。

 残るダイヤは貨幣の象徴であり商人を表すスートで「いろんな意味で、私はこれな気がする」と若干自虐的に穂乃香が言うと、クルミも、ゆかりも微妙な顔のまま口を閉ざす。

 純粋に、穂乃香がダイヤを好きなんだと受け取った三人は、他のスートを勧めることもなく、穂乃香の担当決めは早々に決着を見る。

 ダイヤをサインの中心に、ダイヤの左上に『ほ』、ダイヤの中に『の』、ダイヤの右下に『か』と散りばめたデザインは、ダイヤの各頂点で、穂乃香が上に『火』、右に『地』、左に『風』、下に『水』の魔法の根源とされる四種の力をそれぞれ籠めることで、サインしたその色紙そのものを簡単な守り護符へと変える力があった。

 早速ユラのアドバイスを練り込んだサイン作りを行い、穂乃香はどうにか形作れたことに満足する。

 と、同時に、頭の片隅では改善案の思案に入っていた。


『四人それぞれのモノをひとまとめにすると、一層、チームっぽさが出るね、さしずめ、妖精チームかな』

 ニコニコと微笑みながら、クルミはそう感想を述べた。

 だが、その言葉に、サイン完成まではテンションが高かった月奈が急に表情を曇らせる。

「そう……だった」

「どうしたの、月奈?」

 サイン制作の過程でいつの間にか名前を呼び捨てにする仲になった奈菜が、心配そうに月奈を見た。

 月奈も、奈菜の視線に応えるように、震えながら頷いて、気付いてしまった事実を口にする。

「るな、その、まだ、みんなの、穂乃香さまやみどりちゃんや奈菜のなかまになれるか、わからない」

 奈菜とみどりは月奈の思い口振りに、迂闊な言葉は返せないと黙ってしまった。

 穂乃香も「大丈夫だと思うけど……」と言葉を掛けるが、断言が出来ないのが歯がゆい。

 そんな中で、クルミが明るい声で言い放った。

『うーん、もうあおいはあかねさんに協力をお願いしてたから、月奈ちゃんのお母さんさえいいって言えばいいと思うよ』

 クルミの言葉に、月奈が画面の中の声の主をじっと見る。

 それから、口を震わせながら問うた。

「お、お母さんが、ダメだよっていったら?」

 すがるような目で言った月奈に、クルミは表情を殺して断言する。

『その場合は諦めるしかないね』

「そ、そんな……」

 今にも泣きだしそうな顔をする月奈に、クルミは『でも』逆接の言葉を口にした。

 じっとクルミがその先の言葉を聞く気があるのか月奈に求めるように強い視線を向ける。

 月奈は涙をこらえて、教えて欲しいという気持ちと共に強い目をクルミに向けた。

『でも……諦めたくないなら、一生懸命お母さんを説得すればいい』

 クルミはそれまでとは打って変わった柔らかい笑みを浮かべて、月奈に言葉を掛け続ける。

『私達のサインを覚えるの大変だったでしょ? 月奈ちゃんはプリッチが大好きなんでしょ? その思いがあれば、お母さんにいいよって言ってもらえるまで頑張れるよ』

 そんなクルミの励ましの言葉に、月奈は目に強い力を宿して「はい!」と頷いて見せた。

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