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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
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185 幼女、謝罪を見る

「もう放送で確認されているかもしれませんが、穂乃香お嬢様だけでなく、みどりさん、奈菜さんも、お名前だけ、平仮名で記載してます。お聞きになっているとは思いますが、加奈子さんや由紀恵さんと話し合って決めました」

 ゆかりの補足説明に、自分の母親の名前が出たこともあってか、みどりも奈菜も笑顔で納得した。

 一方で、月奈の表情が曇る。

 同じクラスメイトの四人であっても、自分だけがプリッチに出演していないという事実が、残酷な壁として、月奈の目の前に立ち塞がったのだ。

 目を伏せた月奈の目が、落胆からわずかな嫉妬の火を帯び始める。

 だが、その顔が上がり視線を向けるより先に、ゆかりが口を開いた。

「ところで、月奈さん」

「え……は、い?」

 ゆかりの不意打ち気味の声掛けに、月奈は驚いた顔もまま顔を上げる。

「月奈さんが希望なさるなら、プリッチのオーディションを受けてみませんか?」

「え?」

 パチクリと瞬いた月奈の目には、嫉妬の影もなくただ驚きだけが満ちていた。

「監督のお一人である藤倉あおいさんのお話では、話の都合で、妖精を一人増やしたいそうですよ」

 ゆかりの言葉の意味が理解できない月奈に、嬉しそうにみどりが抱き付く。

「じゃあ、月奈ちゃんも、ほのかちゃんといっしょにぷりっちにでれるかもしれないんだね」

「え……あ……え……」

 穂乃香、みどり、ゆかり、奈菜と次々視線を向ける先を変えながら、徐々に言葉の意味を理解し始めた月奈は、明らかな動揺を見せ始めた。

「あおいさんは、できれば穂乃香お嬢様と仲のいい子がありがたいと言ってましたから、紹介させていただいてもいいですか?」

 笑みを浮かべながら、意思を確認しようとするゆかりに、月奈は即答しかけて動きを止める。

 その行動から心理を読み取ったゆかりは、笑みを絶やさぬまま、柔らかい口調で言葉を足した。

「月奈さんのお母様への説明は私が代わりにしますので、やってみたいかどうかだけ、教えて貰えますか?」

 ゆかりにそう問われてしまえば、月奈の答えなど決まったも同然である。

 先ほどまでの戸惑いの言葉などすべて捨て去って、月奈は真剣な顔で主張して見せた。

「るな、るなも、みんなとやりたいです、やってみたいです!」

 月奈の熱意の籠った真剣な訴えに、深く頷いたゆかりは「わかりました」と告げる。

 そこへ、みどりが「一緒にできるといいね」と無邪気に微笑みかけ、奈菜が「頑張ってね」と素っ気なくとも気持ちの籠った応援を口にした。

 そして、頭の中に幼稚舎の発表会で上演する劇の練習をする月奈を思い浮かべつつ、穂乃香が微笑む。

「月奈ちゃんは、セリフ覚えるのも上手だし、動きもすぐできちゃうから、大丈夫だと思うよ」

 最後にクルミが「撮影の参加楽しみにしてるよ」と結んだ。

 すると、皆に励まされた月奈が、堰を切ったように大粒の涙をこぼし大声を出して泣き始めてしまう。

 そんな月奈に、穂乃香が、みどりが、奈菜が優しく手を伸ばし、クルミが画面越しに慰めの言葉を掛けた。


 しばらく大泣きしていた月奈は、泣き止んだところで、奈菜を見つめた。

「な、なに?」

 視線を向けられたことに警戒の色を示した奈菜に、月奈は深く頭を下げる。

「奈菜ちゃん、ごめんなさい!」

「え?」

 訳が分からずに、自分を凝視する奈菜に、月奈はその訳を告げる言葉を放った。

「るな、奈菜ちゃんにばっかりいやなこといってた……その、うらやましくて……」

 月奈はぼそぼそと声を先細らせながら言い終えると、シュンと肩と視線を落とす。

 その様子に、奈菜は「別にいいよ」と言い放った。

「正直、私は月奈ちゃん程プリッチが好きじゃないと思う……なのに、出ちゃったから……」

 姉妹のいる奈菜は、穂乃香に出会うまでは姉たちの視線を気にして過ごしていただけに、感情の乗った視線には敏感である。

 理不尽なとばっちりを回避するのも、奈菜には重要なことで、視線から相手の気持ちを推察するのにも長けていた。

 そのため、奈菜は月奈が自分にだけ強めに当たっているのに感付いていたし、その裏の感情も何となく理解できている。

 だからこそ、奈菜は月奈の行動に少し驚いていた。

 姉を見ても嫉妬の感情なんてあまり表に出さないものだし、ましてや自分がそれを出せばわがままだと叱られるか、あるいは自分への攻撃の大義名分を与えてしまう。

 友達同士ですら良くない感情をきっかけに喧嘩が起こったりするのに、まだ仲がいいとまでは言えない間柄で、それを素直に吐露できる月奈を奈菜が見直すには十分な行動だった。

 そして、思い起こしてみれば似たような立ち位置である『みどり』を対象にしなかったことも、自分と同じように穂乃香が好きなことも、いつの間にか奈菜には好印象を抱かせる要素に見えて来る。

 こうなってしまえば、奈菜としては月奈に対しての不満など、無いに等しいほど些細になった。

「だから、嫌だなって思われるのは仕方ないと思う」

「……奈菜ちゃん」

「けど、あおいさんのオーディションに受かったらもう同じなんだから、やめてよね」

 きっぱりと言い切った奈菜に、月奈が少し不安そうな顔で尋ねる。

「だ、ダメだったら?」

 奈菜は月奈の問いに、フンと鼻を鳴らして見せた。

「初めからそんなこと考えてるなら、月奈は駄目なの決まりだね」

 ビシッと指さして言い放つ奈菜に対して、月奈は驚いた顔を見せてから、それを笑みに変える。

「そうか、そうだね。るなはごうかくするから、もしもなんて、かんがえなくてもいいよね」

「いいえ、ちゃんと考えておいた方がいいと思うわよ」

「ぜーーったい、かんがえない!」

 言い合った月奈と奈菜はそうして顔がくっつきそうなほどお互いに近づいたところで、同時に笑い出した。

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