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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
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174 幼女、支え合う

 思えば、大魔法使いとして、世界屈指の存在になったかつての穂乃香は、最終決定者であるのが常だったのである。

 皆の意見を集約し、答えを導くという過程に慣れ過ぎてしまった穂乃香には、自らが行う情報収集も、他人の意見表明も、情報提供として同種のモノとして考えてしまっていた。

 結果、穂乃香の中には、他者は情報源に過ぎないという誤った刷り込みが起きる。

 しかも、なまじ立場や状況という背景によって、これまでは問題なく成立してしまったために、ある種傲慢ともいえる穂乃香の思考に、石を投げ込む存在はなかった。

 茉莉に指摘された通り、その眷属という関係性上、ユラは追認の傾向が強い。

 ゆかりたちも『こうしたい』という思いを口にすれば、話し合う余地なく、すぐに穂乃香の思いや希望に対する最適解が示されるのが常だった。

 そこに相談というものが欠如していることを、穂乃香は今更ながらに思い至らされる。

「ありがとう、茉莉お姉ちゃん……私は、そうか……誰かに『意見』は求めても……どうするかの『相談』はしてなかったんだ……」

 しみじみと、穂乃香はそれを痛感し、同時に失敗の遠因がそこにあるのだと自覚した。

 対して、茉莉は少し気まずそうに言葉を返す。

「私も……抱え込むばっかりで……って、穂乃香ちゃんとはレベルが違うんだけど! で、でも、私もそうだったというか……その……身に覚えがあったっていうか……」

 だから、穂乃香の足りないものに気付けたのだと言い加えた。

「うん。気付けて良かった。改めてこれからもよろしくお願いします」

 魔法に集中するため、わずかに頭を前後させるだけの穂乃香に、茉莉は照れ笑いを見せる。

「……私の方がおおむね助けて貰ってるけどね……」

 そう素直に言葉にしてから、茉莉は今一度周囲への警戒を再開した。


『おそらく、空気を板のように固定しているのではないかと……』

 イヤホン越しに届く特殊班上がりのメンバーの解析予測に、屋上で生徒たちを下がらせたゆかりは苦笑するしかなかった。

 そうして、確認の為にマイクに向かって問う。

「物理法則は?」

『完全無視……ですね』

 想像通りの答えに、ゆかりは小さく溜息をつきながら、茉莉に隠れつつ魔法の杖を握り締めて意識を集中させているであろう穂乃香に視線を向けた。

 それから、軽く目を閉じて、状況を整理する。

「消防のレスキューを待つ予定でしたが、緊急事態ということで、我々で救出します」

『……レスキューに、穂乃香お嬢様のサポートを察せられないようにするためね?』

 ゆかりの指示に、今度は副長であるエリーが、護衛隊全員に隊長の意図を伝える為に、あえて言葉にして確認して見せた。

「エリー、その前提で、対応の指示を」

『了解』

 あえて明言せずとも、ゆかりが否定せず、次の指示に移ったことで、それは肯定され、護衛隊の面々に穂乃香お嬢様の秘密を秘匿するという目的が共有される。

 同時にそれは、穂乃香の秘密を守るために、全員が持てる能力を全力発揮せよという指示も含んでいた。


 ゆかりの命令の元に動く穂乃香護衛隊の活躍は迅速にして華麗であった。

 床に陣取ったチームは、祥子の救出後、危険度の高い鉄柵をなぎ倒し、落下する可能性を考慮して、受け止め用のクッションマットを展開させる。

 クッションマット本体の下に、庭木と同じ高さになるようにウレタンマットやらエアマットやらを挟み込み、高さの調整まで終えたところで、すぐさま屋上のゆかりたちへと報告が飛んだ。

 それを合図に、屋上の救出チームが行動を開始する。

 鉄柵をなぎ倒すのにも投入したパワードスーツを装着した二人のメイドが、鉄製のワイヤーを鉄柱に掛けてわずかな傾きを水平に補正した状態で固定した。

 直後、ゆかりを含む三人のメイドが何のためらいもなく鉄柱の上に飛び降り、各々が各々の救うべき少女へと手を伸ばす。

 本来であれば、鉄柱の状況を確認し、強度を改めて、その上で方針を決めるのが筋であるが、穂乃香を、そしてその能力を信頼するゆかりは、情報漏洩の危険性の方を重視した。

 メイドたちが、横抱きで少女らを抱き上げるなり、軽やかな跳躍でもって、三者が屋上へと飛び、六人が無事の帰還を果たす。

 そのまるで演劇のワンシーンのような華麗な救出劇に、校舎が揺れるほどの拍手喝さいが巻き起こった。

 だが、ゆかりたちはどこまでも冷静である。

 救出した少女たちを担架に乗せると、そのまま搬送させた。

 一方、ワイヤーで金網を支えていたパワードスーツのメイドたちは、ワイヤーを巻き上げ、金網をするすると屋上へ引き上げる。

 そうして、メイドたちが屋上に金網を回収したところで、再び校舎が揺れる程の歓声が上がった。


「穂乃香ちゃん、終わったよ」

 茉莉の囁くような静かな声に、ずっと魔法を維持していた穂乃香が頷いて集中を解く。

 穂乃香の中心に渦巻いていた強大な魔力が霧散していくと、力が抜けた幼い体がぐらりと揺れた。

「わっと!」

 それを、脚を軸にクルリと体を回転させた茉莉が抱きしめて支える。

「……ごめ……じゃなかった、ありがとう茉莉お姉ちゃん」

「うん。穂乃香ちゃんが倒れる前に支えられてよかったよ」

 穂乃香を抱き起しながら、茉莉はやり遂げた自分を誇りながら微笑んだ。

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