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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
148/812

148 幼女、眠気に襲われる

「結論から言えば、起きる可能性はある、だの」

 ユラは茉莉に向かってはっきりと断言した。

 当然茉莉の表情は不安もあって暗いものになる。

 そんな茉莉に、穂乃香は明るい声で宣言してみせた。

「茉莉お姉ちゃん、起こりえるけど、起こらないようにすればいいだけだから、心配しないで」

「へ……できるの?」

 思わず驚きで目を丸くする茉莉に、穂乃香は微笑む。

「もちろん、だって、私魔法使いだよ?」

 悪戯っぽく告げられた言葉なのに、とても説得力のある穂乃香の断言は、茉莉の笑い声を誘い出すのには十分な威力を秘めていた。

「そっか、ふふふ、それなら、ふふ、完璧だね」

「あ、茉莉お姉ちゃん、笑うことないでしょ!」

 不満そうにぷくっと頬を膨らませた穂乃香だったが、直後フラフラと揺れ出す。

「え!? ちょっと、穂乃香ちゃん」

 笑っていた茉莉は慌てて立ち上がり、穂乃香を抱き留めたユラの方へとテーブルを回り込んだ。

「大丈夫、穂乃香ちゃん!」

 思わず挙げた声が茉莉の焦り具合を如実に物語っていた。

「茉莉おねぇちゃぁん」

 どこか舌っ足らずな声に、茉莉は顔を青くしながらユラに見解を求める。

「おねむだの」

「は?」

 茉莉は大きく口を開いた状態で、真顔で放たれたユラの言葉の説明を求めて顔を寄せた。

「もう、深い時間ゆえ、主殿は眠くてふらついたのだの」

「……そ、そっか……」

 直前まで対等以上の知識を持って話していた穂乃香の陥落っぷりに、実に今更ながら、茉莉はその年齢を思い出して溜息をついた。

 と、そこで、大事なことに気が付く。

「って、待って、えと、帰りは? うちにはこっそり抜け出して来たんじゃなかった? ゆかりさんに連絡すればいいの?」

 プチパニックを引き起こした茉莉は、おもむろに立ち上がると、自らで整理整頓した室内を引っ掻き回し始めた。

 ガタバタと急にし出した物音に、穂乃香が眠い眼をこすりながら茉莉に制止を掛ける。

「待って、茉莉お姉ちゃん、大丈夫だから!」

「え!? でも、だって、緊急連絡が、夜中に抜け出して、私のせいなんだよ?」

 混乱具合がはっきりと感じ取れる茉莉の狼狽ぶりに、ふらふらとしながらもユラと青葉に支えられて立ち上がった穂乃香はステッキを構えた。

「運命の花アネモネ、私に力を貸して……香れ目覚めの香水!」

 穂乃香の声に反応して魔法のステッキが輝くと、いくつものピンクの淡い光の粒が部屋中に広がっていく。

 やがて、光の粒が弾けると、部屋中にミントのような爽やかな香りが満ち溢れた。

「ふぅ……これで、飛んで帰れるから安心して」

 コテンと小首をかしげて穂乃香は微笑む。

 放ったアネモネの魔法は、目覚めを促すミントの香りの魔法であり、その効果により穂乃香は十分な覚醒を得たのだ。

 そして、その効果は混乱状態にあった茉莉を我に返させる。

 そんな茉莉の口をついて出たのは、冷静になった彼女が最初に抱いた思いだった。

「アネモネに変身しなくても、アネモネの魔法使えるんだ……」


「あれか、あれね、使えないとは言ってない……ってやつね」

 わざわざ途中でキリリとした表情を造りつつ、茉莉は自身の納得の為に、先ほどの言葉に対する自分なりの答えを口走った。

 そして、その目前には来た時と同じくサイネリアの魔女服姿に衣装を改めた穂乃香が立っている。

「だから、その、魔法に合わせて衣装を変えると、魔法の効果が……」

 どこか言い訳めいて聞こえる穂乃香の言葉に、茉莉はにっこりと微笑みかけた。

「うん、いいと思うよ、直感は大事だし、何より、見てて可愛いしね。千穂に自慢しちゃいたいくらいだよ」

「え、そんな、こと……」

 思わずもじもじと恥じらう穂乃香は、更に可愛らしい。

「くぅっ私も穂乃香ちゃんくらい可愛かったら、人気ランキング最下位は回避できたのに!」

 半分冗談な茉莉の発言に、穂乃香の表情が照れから困り顔に変わった。

 茉莉もその変化にはすぐに気が付いたので、慌てて冗談の含有率を上げる。

「あ~~~、穂乃香ちゃん、そんな憐みの視線はやめて! やるなら、榊原家の財力で、サイネリアグッズ買ってちょうだい!」

 が、冗談のつもりの一言に穂乃香が真剣に吟味し始めたので、茉莉はさらに慌て出した。

「わああ、冗談、冗談なの! やめて、そんなの、ね、思い直して、前言撤回します!」

 必死な茉莉のお願いに、穂乃香はプッと噴き出す。

 そうして声を出して笑いだした穂乃香を見て、茉莉はからかわれたのだと察して長い息を吐いた。

「もう、穂乃香ちゃん、ヒトが悪いよ……」

「ごめんなさい、茉莉お姉ちゃん」

 苦笑しながら謝る穂乃香に、茉莉は仕方ないなと苦笑を返す。

 だが、続く言葉に、茉莉は思わず赤面をさせられてしまった。

「茉莉お姉ちゃんはどんなに苦しくても、頭の中でズルイことを思いついても、絶対に実行しないカッコいい先輩だから、本気で言ってないってすぐわかりますよ」

 柔らかな笑みとともに送られた言葉に、茉莉は胸がジンと熱くなるのを感じて、どうにか意地で涙を浮かべるのは堪えてみせる。

 それから、またも長い息を吐きだしてから、穂乃香に言い放った。

「確かに、私より穂乃香ちゃんの方がズルイよね」

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