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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
145/812

145 幼女、感謝される

「へ?」

 間の抜けた声を漏らしたのは、穂乃香だった。

 何しろ、今言われたばかりの茉莉の言葉が理解できない。

 そんな穂乃香に対して、両手を合わせた茉莉が頭を下げながら「誤解させてごめんなさい」と丁寧に頭を下げた。

 しかし、呆然とする穂乃香は謝罪の意図も飲み込めず、目を点にしたまま固まったまま動かない。

「いや、だって、魔女だなんて……魔法が使える人がいるなんて、思わないじゃない、普通……だから、こうてっきり……ね?」

 可愛らしく言いながら首をかしげ様子を窺う茉莉の前で、未だ穂乃香は再起動する気配を見せず固まったままだった。

「あーー、んーーー」

 意図的ではなかったにせよ、自分の勘違いも原因なので、茉莉は心底気まずい気持ちになって、意味をなさない声を漏らす。

 が、ようやく何事か決めた茉莉は、短く頷くと、呆けたままの穂乃香の手を掴んだ。


 部屋に甘い柔らかな香りが漂い出したところで、穂乃香はようやく我に返った。

「え? あれ、ここ?」

 穂乃香がキョロキョロと見渡す部屋は、初めて見る部屋だったが、几帳面にまとめられた小物や整理整頓された机回りや本棚、キッチリ締められたクローゼットと、部屋の主の几帳面さがよく出ている。

 一通り部屋を見渡したところで、ローズ姿のままベッドに腰かけていることに気付いた穂乃香が、立ち上がろうと体勢を変えたところで、唯一の入り口であるドアが開いた。

「あ、穂乃香ちゃん、大丈夫?」

 湯気の立つ二つのカップをお盆にのせた茉莉が、柔らかな表情を浮かべながら、入室してくる。

「茉莉お姉ちゃん……」

 思わず名を呼んだものの、続く言葉が浮かばず、穂乃香は黙り込んでしまった。

 戸惑う穂乃香にはあえて触れずに、部屋の中央に敷かれた正方形のカーペットの上、直接座るとちょうどいい高さの丸テーブルに茉莉は、持ってきたお盆を下ろす。

 穂乃香の目にも、甘い匂いを漂わせるカップの中のココアが目に入った。

「穂乃香ちゃん、ココアを入れたから、こっち座って~」

 ポンポンと丸テーブルにセットされたクッションを叩いて、茉莉は着席を促す。

 穂乃香は招きに従うように立ち上がると、ふわりとスカートを膨らませて、クッションの上に腰を下ろした。

「穂乃香ちゃん」

 穂乃香が座ったタイミングで、茉莉がやや真剣な口ぶりで声をかけてくる。

 決して気を緩めていたわけではない穂乃香も、茉莉の口ぶりに思わず背を伸ばした。

「な、なに、茉莉お姉ちゃん?」

 名前を呼ばれた茉莉は、だが口を開かずに、じっと穂乃香を見返す。

 茉莉に見詰められて、更に背筋を伸ばす穂乃香だが、無言の時間が続くほどに、ふつふつと汗の球が顔に浮き始めた。

 そうして、何とも言えない妙な時間が過ぎ去ったところで、茉莉が口を開く。

「穂乃香ちゃん、お人形さんみたいだったよ」

「は……い?」

 またしても、自分の言葉に目を点にした穂乃香を見て、茉莉はくすくすと笑いだした。

「え、ちょっと、茉莉お姉ちゃん!」

「ごめんごめん、穂乃香ちゃんが可愛いから、悪戯したくなっちゃうんだよ」

 穂乃香に手を合わせて謝罪する茉莉だが、笑い声が混じるのは止められない。

 その態度にプクッと頬を膨らませた穂乃香だったが、すぐに茉莉の笑い声に引っ張られて、吹き出すと、そのまま二人は一頻り笑い合った。


「どう、おいしい?」

「……はい、あったまります」

「ちゃんとよく練ったからね、気に入ってもらえたなら嬉しいなぁ」

 ココアの感想を聞いて表情を綻ばせる茉莉に、穂乃香も少し照れたように笑う。

「ねぇ、穂乃香ちゃん」

「……はい」

 先ほどと同じように、真面目な顔を作った茉莉に、穂乃香は警戒しつつ返事を返した。

 その少し緊張した気配をみせる穂乃香に、茉莉は吹き出しそうになるのを堪えて、真剣な表情のままで頭を下げる。

「私を助けに来てくれたんだよね。本当にありがとう」

 茉莉の真摯なお礼の言葉と態度に、穂乃香は目を丸くした。

「幽かにだけどね、私、自分で自分の命を断とうとしていたのを覚えてるんだ」

 言いながら茉莉が、救出した時に浴槽に沈んだカッターナイフを取り出して、テーブルに乗せる。

「あの事故が怖かったんだけど、千穂に慰めて貰って、穂乃香ちゃんに気を遣って貰って、でも、怖さが消えなくて……」

 顔を伏せながら静かな口調で語る茉莉だが、わずかに震える声が、内心の不安定を物語っていた。

 思わず名前を呼び掛けた穂乃香だったが、声を震わしながらも言葉を止めない茉莉を見て思いとどまる。

 その間にも、茉莉の語りは続いた。

「スタジオで撮影が始まって、皆がセットに入っていって、最後に千穂が……その時にね、私の周りには誰もいなくなっちゃって、とても怖いって思って、すごく冷たくて嫌なものに囲まれた気がしたの」

 茉莉はそこまで言い切ると、顔を上げて穂乃香へ視線を向ける。

「そこから記憶が曖昧で……でもね、穂乃香ちゃんに助けて貰った時に、あの怖いのも冷たいのも全部なくなっててね……だから、ああ、穂乃香ちゃんに助けて貰ったんだなぁって……わかったの……だからね、本当にありがとう」

 ギュッと穂乃香の右手を両手で包み込むように握った茉莉は、そう言ってわずかに瞳を涙で揺らしながら心から微笑んだ。

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