130 幼女、人形らの声を聞く
嘆願してきた手のひら大の人形たちは頭が大きく対照的に体は小さい二頭身の体で、まさに人形のごとき姿をしている。
髪は長く、一見して少女だと感じられる人形たちは、それぞれ独立した動きで、穂乃香に抱き付いた。
巫女装束の様な衣装に身を包み、三人とも上衣は白で、袴の色だけが青、黄、黒と違っている。
そんな三人はとても可愛らしいのだが、どう控えめに言っても、一般的な生物カテゴリーからは逸脱していた。
普通に考えて、ユラの様な超常の存在だと言える三人だが、しかし、穂乃香には身にまとった衣装に縋りつかれた感触があり、耳には『助けて、精霊の姫様!』という声が届いている。
よくよく小さな少女らを観察すれば、その重みを示すように衣装に凹みを作っているのに、影が無かった。
更に上乗せされた不思議生物要素に、愕然としながら、穂乃香はこの場に自分以外の目が有ったことに思い至る。
穂乃香の目にはしっかりと見え、感じられ、声も聞こえる存在が、果たして、横にいる彩花とクルミには見えているのかと、恐る恐る視線を向けた。
すると、さび付いたようなぎこちない穂乃香の首の動きに、彩花が不思議そうに首を傾げる。
「どうかしましたか、穂乃香ちゃん?」
次いでクルミが、直前の穂乃香の漏らした声を思い浮かべながら尋ねた。
「急に変な声出したけど、服に虫でも入った?」
彩花とクルミ、二人の様子に、今まさに体をよじ登ってきている三人の少女たちが見えていないのだと察した穂乃香は慌てて笑顔を張り付ける。
当然、無理につくろったせいで苦笑なのだが、続く言葉がその笑みに説得力を与えた。
「あの、ちょっとお手洗いに行きたくなったので」
穂乃香の言葉に、即座に彩花が反応して尋ねてくる。
「えーと、その大丈夫ですか、お手伝いしますか?」
どうにも怪しい光を目に宿しながら尋ねてくる彩花に、穂乃香は一瞬後退ってから、ただ誤魔化すための言い訳なのもあって「大丈夫です!」と投げ捨てると、三体の人形大の少女たちを抱えて駆け出した。
「あ、ほら、彩花が怪しい目をするから、穂乃香ちゃん逃げちゃったじゃない」
呆れた様子でクルミに言われ、彩花は「むぅ」と唸る。
そんな唸る彩花を尻目に、クルミは自分のスマホを撮影待機場所に置いてあるカバンから取り出すと、穂乃香がトイレに向かったことをゆかりに伝えるのだった。
バタン!
トイレの個室へと入り込んだ穂乃香は、抱え込んでいた三人の珍客を閉じたままの蓋の上に降ろした。
「さて、貴女達は誰か教えて貰っていいかな?」
できる限り笑顔が引きつるのを抑えつつ、穂乃香は優しい口調で問い掛ける。
穂乃香に向かって頷くと、青の袴の少女が三人を代表して答えた。
『もちろんです、精霊の姫様!』
「ま、まって、精霊の姫なのは役名なんだけど……」
穂乃香は『精霊の姫』と呼ばれるのに抵抗があるため、まずそこから正そうとしたのだが、返ってきたのは否定の態度である。
『あの大きな力を持った精霊を従えてるのですから、貴人に違いないのです。そして女性なれば、姫なのです!』
完全な断言に、穂乃香は思わず返す言葉を無くした。
一方で、脳の冷静な領域が、この珍客の言う『力を持った精霊』がユラの事であるのだろうと結論する。
「じゃあ、ユラを見たから、私を精霊の姫だと?」
『そう呼ばれたのも聞きましたでし!』
青に代わって、黄色がぴょこぴょこ跳ねながら主張した。
「あー、そう……ね」
現場では『穂乃香ちゃん』と呼ばれるよりも、役名の『精霊の姫』で呼ばれていたので、そこを言われると穂乃香に否定の言葉もない。
『しょれで、しょれで、精霊の姫しゃまにお願いがあるのれす』
黄に続いて黒が幼い口振りで、目を潤ませながら穂乃香に懇願した。
対して穂乃香も、そのつもりだったので、呼び名問題は放置して、三人を安心させようと深く頷いて見せる。
「話してくれますか?」
『あい!』
嬉しそうに頷いた黒が、即座に青に視線を向けた。
それだけで、三人の関係性が理解できたような気がして、微苦笑を浮かべながら穂乃香は青の発言を待つ。
『まず、我々はこの地に古くから住んでおります』
『明治でしたでし!』
『元禄れす~』
青を筆頭に、黄、黒と主張するのは、この国の年代につけられた名前を上げるが、さすがの穂乃香も明治に聞き覚えはあっても、元禄にはなかった。
とはいえ、今そこは重要ではないと、後に調べることにして、話を進めることを選択する。
「この土地の精霊ってことね?」
穂乃香の言葉に、青がわかりやすく慌てだした。
『せ、精霊など滅相もありません! 我々はそれほど格の高い存在ではありません!』
「そうなの?」
『もちろんです』
青がそう言い切ったので、穂乃香はふと気になっていたことを尋ねる。
「ところで、貴女達に名前は無いの?」
『えっありませんが……』
『ないでし!』
『ないのれす~』
三人の答えに、穂乃香はふむと頷いて「じゃあ」と青を指さした。
「青葉、蜜黄、黒華でどう?」




