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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
123/812

123 幼女、出演オファーされる

「取り乱してごめんなさい」

 完璧な美しさをもって披露された額を床に押し付ける勢いのあかねの土下座に、部屋の主である穂乃香を含め全員が居たたまれない気持ちで、土下座の主に生暖かい視線を送っていた。

「え、えーと、あかね先生、その、気にしないでください。多分、あおいさんが悪いです」

 穂乃香は困り顔で、あかねに声をかけると、すぐにガバリと体を起こす。

「ですよね、だよね、お姉ちゃんが悪いよね!」

 穂乃香の肩にガシッと両手をおいて、グワングワンとその小さな体を揺すりながら必死に訴えるあかねだったが、すぐにゆかりがストップをかけた。

「揺するのは駄目です、あかね先生」

「あ、ごめんなさい」

 あかねは穂乃香の肩から手を離すなり、ゆかりに素直に謝る。

「いえ、穂乃香お嬢様に危害が及ばなければそれで」

 穂乃香から危険が去ればそれでいいとゆかりは一歩後ろに下がった。

 代わりに、ひらひらと手を振りながら、あおいが油を注ぐ。

「本当に、あかねはパニックになりやすいから、気をつけなさいよ」

 反射的にあかねはあおいに飛びかかりそうな勢いで、怒った。

「お姉ちゃんが、何にも教えてくれないからでしょ!」

 あかねの指摘に、あおいはパチクリと目を瞬かせてから、穂乃香に尋ねる。

「え、私悪いの?」

「……たぶん……」

「なんで?」

「説明不足じゃないかと……」

「ああ、そういう」

 ポンと左の掌に右手の拳を打ち付けて、納得したとばかりに頷いたあおいは視線をあかねに戻した。

「まあ、端的に言うと、夏休みの間に穂乃香ちゃんに、私の監督する回のプリッチに出演してもらったのだよ、妹よ」

 ガシガシとあかねの肩を強めに叩きながら、事実を告げるあおいは満開の笑顔である。

 対して目を点にしてあおいの豪快な肩叩きを受け入れていたあかねは、ギギギギと音が鳴りそうなほど鈍い動きで視線を穂乃香に向けた。

 急にあかねと視線が合ったことで、思わず穂乃香が動揺する。

「あ、あかね先生、ど、どうかしましたか?」

「穂乃香ちゃん、報告してくれましたか、それ?」

「え……いえ……ひつようでしたか?」

 笑顔なのにどす黒い何かを背中に纏ったあかねの問いかけに、穂乃香は思わず腰が引けてしまった。

 それほどに得体のしれない迫力と切羽詰まった気配があかねの中に濃縮されている。

 追い詰められた人に迫られるという危機的状況で、穂乃香が頼るのは当然ながらゆかりだった。

 若干怯えの混じった視線をゆかりに向けると、颯爽と歩み寄ってあかねと穂乃香の視線を遮るように立ちはだかる。

「報告については、当家から園長先生にお伝えしてありますが、あかね先生にはうまく伝達されていなかったようで、不手際をご容赦ください」

 綺麗な所作で頭を下げられたあかねは、すぐさま我に返った。

 いじられキャラ、不遇キャラとして長く生きてきたあかねは、真摯に謝罪されると逆に驚いて意識にリセットが掛かる。

 そうして暴走しかけて穂乃香を追い詰めていた自分に気付き、再び落ち込んだ。

「すみませんでした、わたし、せんせいなのに……」

 穂乃香とゆかりの前で再び土下座スタイルを決めたあかねはそう言ってまた涙をこぼし始める。

 慌てて慰めながら、穂乃香とゆかりは大丈夫だと訴え続けた。


 ゆかりも交えた四人は、穂乃香の部屋の丸いテーブルを囲んでいた。

 ようやく落ち着いたあかねが、横に座るあおいに尋ねる。

「で、何で、お姉ちゃんは、穂乃香ちゃんのところにいるの?」

 その問いに、あおいは「簡単に言うと出演交渉かな」と平然と答えた。

 しかし、ゆかりの説明不足ですよという視線による無言の指摘に、あおいは後頭部を掻く。

「夏休みに撮影して、今度のスペシャル回で、穂乃香ちゃんには出演してもらうんだけど、他の監督も試写を見て、穂乃香ちゃんに出演してもらいたいって言い始めてさ」

 あおいの説明にニュアンスを理解して頷くあかねに、ゆかりが助け舟を出す。

「試写というのは、放送前に放送予定の動画を確認することで、他の監督というのは、プリッチは一年毎週放送の番組で特撮実写作品なので、主にメイン二人、サブで一人の監督が交代で、メガホンを取るんですが、そのあおいさん以外の監督の事ですよ」

 ゆかりの説明にあかねは「ほう」と感嘆の声を漏らした。

 一方あおいも驚いた表情で「くわしいですね」と思わず敬語になる。

「もちろん、調べておりますから」

 にこりと微笑むゆかりに、あおいとあかねの姉妹は無言で何度も頷くほど感心して見せた。

 それから、あおいは説明を再開する。

「それで、まあ、菊一郎さんに許可も貰ったんで、穂乃香ちゃんにお願いできないか相談に来たんだよ」

 あおいの説明に聞き慣れない名前を耳にしたあかねが首を傾げるより早くゆかりが説明をはさんだ。

「菊一郎様は、榊原家の大旦那様で、穂乃香お嬢様の祖父にあたられる方です」

 言われてあかねは、頭の中に収めてある穂乃香の情報にあった保護者にして、超有名人である人物の写真映像を思い浮かべる。

 話に上った名前が、雲の上と言っても過言ではない大物だったことに、キリリとあかねの胃が痛んだ。

「お爺様はおか……優しい方だから、そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫ですよ」

 若干言葉のチョイスに引っ掛かりがあった穂乃香だったが、それでもあかねを安心させようとフォローをしてみせる。

 一方で(それは穂乃香様がいる時だけです)と無茶な指示を陰で出しまくるジジバカ発症中の老人を思い浮かべながら、ゆかりは微苦笑を浮かべた。

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