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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
122/812

122 幼女、家庭訪問される

「え、えーと、秋のお遊戯会の、劇の配役の件で、せ、説明に上がりました」

 慌てて噛みながら説明を終えたあかねの発言内容に、エリーは頷きながら声の高さを元に戻す。

「まあ、そうでしたか。わざわざありがとうございます。それでは、穂乃香お嬢様の保護者をメインに努めております神崎ゆかりを呼びますので、少しお待ちください」

 スッと立ち上がると流れる様な所作で、エリーは頭を下げて、早々に部屋を後にした。

 その淀みない動きに見惚れているうちに、部屋に一人取り残されてしまったことに気が付いたあかねは、怯えた様子で自分のお給料では買えそうにない高そうな調度品に視線を向ける。

「だ、大丈夫だよね、私……」

 あかねはビクビクしながら、それでも、エリーが呼びに行ったのが顔見知りのゆかりであるため、取り乱すことはなく、用意してもらっていたお茶を口に含んだ。


「あかね先生、穂乃香お嬢様がいつもお世話になっております」

 メイド服をきれいに着こなしたゆかりが、入室するなり深く頭を下げた。

「い、いえ、あの、おきになさらず!」

 丁寧なお辞儀に慌てて立ち上がったあかねが、逆にぺこぺこと頭を下げて恐縮する。

 そんなあかねの様子に、頭を上げたゆかりは着席を促しながら、自らもソファに腰を下ろした。

「それで、配役の件とお聞きしましたが?」

「あ、え、あー、そうですね」

 ゆかりに見つめられて思わずしどろもどろになるあかねだったが、それでもエリーに比べれば、ゆかりは見知った相手ゆえに、どうにかすぐに冷静さを取り戻す。

「えーと、まずは、お詫びをさせてください」

 園長の黒い笑顔を思い出しながらあかねは頭を下げた。

 対して、ゆかりは首を傾げながら「お詫びですか?」と戸惑いを言葉にする。

「は、はい。その、本来は穂乃香さんには主役のですね、白雪姫をお願いしようと思っていたのですが……その、魔女の役にですね……」

 言いにくいせいで徐々に声が小さくなるあかねに、大丈夫だという様にゆかりは微笑みかけた。

「え……と……」

 思わず言葉を詰まらせたあかねに、ゆかりは微笑んだままで口を開く。

「あかね先生。穂乃香お嬢様は魔女のお后様役になれてとても喜んでいますから、安心してください」

「え……と……」

 驚きとともに同じ言葉を繰り返したあかねに、ゆかりとしては何が言いたいのか推測できず、首を傾げた。

「あ、と……その……」

 ゆかりの反応に、何か言わねばという思いがあかねの背を押すが、何かが上手く出てこずに顔面で苦闘を表現してしまう。

 結果、あかねの百面相を目の当たりにしたゆかりがクスクスと笑い出す。

「えっ……あの……」

 もじもじと胸の前で握った指から一本だけ立てた人指し指同士を組み合わせて口籠るあかねに、ゆかりは「ごめんなさい」と笑いながら謝罪を口にした。

「えーと、あかね先生の顔がくるくる変わるのが、穂乃香お嬢様に似ていて、つい、笑ってしまいました」

 穂乃香という名前を口にするゆかりはとても優しい目をしてあかねにそう告げる。

 不思議とその目に安心感を覚えたあかねは、いつのまにか冷静さを取り戻していた。

 すると、自分の口にすべき言葉も自ずと浮かんでくる。

 頭の中で言葉を整理したうえで、あかねは真面目な顔で切り出した。

「えーと、ですね。本来でしたら、学園としては穂乃香さんに主役を務めて貰う方が良いだろうと考えていたのですが……」

「ああ」

 あかねの言葉に、学園の配慮を読み取ったゆかりが合点がいったとばかりに軽く頷く。

「大丈夫ですよ。穂乃香お嬢様が喜ばれてますから、榊原家としては配役に何か口をはさむことはありませんし、むしろ、穂乃香お嬢様の要望を優先していただけて、感謝しております」

「そ……そうなんですか?」

「ええ、そうなんです」

 目の前で安堵のため息をつきながらソファに深く体を倒したあかねに、くすりと笑いながらゆかりは茶目っ気のある答えを返した。


「穂乃香お嬢様、よろしいですか?」

「はーーい、どうぞ」

 ノックと共に部屋の中に声をかけたゆかりに、すぐさま穂乃香の返事が返ってきた。

 直後、ガチャリと音を立てると、穂乃香がドアの前に立って微笑んでいる。

「あ、あかね先生、いらっしゃい」

 ゆかりとともに立つ人物に気が付いた穂乃香は、膝の上で手を揃えてぺこりと頭を下げた。

 穂乃香の挨拶に、ゆかりとともに穂乃香の部屋を訪れることになったあかねが「こんにちは、おじゃましてます」と丁寧に返事を返す。

 そこへ、穂乃香の部屋からまた別の人間の声が聞こえてきた。

「お、あかね、いらっしゃい!」

 穂乃香の部屋の中心部に置かれた丸いテーブルに座り、優雅に珈琲を飲みながら手を振るあおいの姿に、あかねは動きを止める。

 そんな固まった妹に対して、姉は不思議そうに首をかしげた。

「ん? あかね、どうした?」

 パチクリと瞬きを繰り返して、ピクリとも動かなくなってしまった妹にあおいは声をかける。

 そこから、あかねの再起動まではわずかな時間を必要としたが、復活すると直後、穂乃香の横をすり抜けてヅカヅカとあおいの前まで突き進んだ。

「なんで、お姉ちゃんが、ここで、穂乃香ちゃんの部屋で、コーヒー飲んでるの!?」

「え、用意してくれたから……」

 あおいの瞬きと共に返された言葉に、ふたたびあかねはフリーズする。

 それから、ボロボロと大粒の涙をこぼして叫んだ。

「お姉ちゃんのバカああああああああ!」

「はぁ!?」

 驚くあおいの前であかねは四つん這いでうずくまるとそのまま号泣し出す。

 突如、目の前で繰り広げられた珍事に、ゆかりと穂乃香は瞬きをしながら思わず顔を見合わせた。

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