119 幼女、擽られる
精霊の姫フローラとの友達宣言から、楽しい雰囲気のままで突入するエンディングは、アネモネが新衣装になったこともあって、五人のダンスもフォーメーションを調整して撮影し直されていた。
オンエアー用に編集されたダンスは、ステージの際に特に観客の注目が集まるポイントになりやすくなるため、千穂をはじめとするウィッチメンバーの目は真剣で、物語が終わったことで緊張の解けたみどりや奈菜とは対照的である。
そんな中で、アネモネたちが手を振りながら『また見てね!』とウィンクを飛ばして、スペシャル回放送分の上映が幕を閉じた。
すると、誰からともなく始まった拍手は、瞬く間に全員へと伝播する。
お互いにじゃれ合いながら拍手を送り合う穂乃香や千穂たち、純粋な観客として拍手を送るメイドさんをはじめとする人々、皆が楽しそうに惜しみない拍手を送り合った。
「いやぁ、それにしても穂乃香ちゃんの『精霊の姫フローラ』良かったよ。可愛いだけじゃなくて、カッコいいし、私もアネモネちゃんのお友達になりたい気持ちがよくわかるよ」
うんうんと頷くながら語る千穂に、呆れ顔で茉莉がツッコミを入れる。
「いや、千穂、あんたあれほとんど素だったでしょ?」
「え、いや……てへへへへ」
茉莉の指摘に、頬を赤らめてから千穂は後頭部を掻いて見せた。
「でも、素がちゃんと演技として成立してるなら、問題ないというか、さすがというか……」
千穂に対して呆れた様子のアリサだが、わずかに表情に曇りが滲んでいる。
素のままで演技を成立させてしまうというのは、キャラクターを生み出すのにたくさんの試行錯誤が必要なアリサからすれば、まさに真逆の存在であり、わずかな嫉妬めいた憧れが胸の内に沸いていた。
そんなアリサの心境を見越してか、クルミが能天気な声で会話の方向を変える。
「じゃあじゃあ、私は、精霊なみどりちゃんと友達になります~~」
思わずクルミの方へと振り返ると、首に腕を回されてくすぐったそうに笑い声をあげるみどりとクルミの姿があった。
「もう、クルミちゃんくすぐったいよぉ~」
「だって、みどりちゃん可愛いから、抱きしめたくなっちゃうんだもぉん」
キャッキャとじゃれ合う二人を見て、最初に動いたのは千穂である。
誰よりも早くその腕の中に穂乃香を捕まえて抱きしめた。
その上で頬と頬をぺたりとくっつけて、千穂は満足そうに、にへらと顔を崩す。
「え? 千穂お姉ちゃん? え、なに?」
戸惑う穂乃香などお構いなしに、千穂は横目でみどりとクルミを見やってから、おもむろに深く頷いた。
「これは、仲良くなる儀式なの!」
「へ!?」
驚きで悲鳴のような声を上げた穂乃香のワンピースの中に、千穂の腕が潜り込む。
「にゃに、をっ!」
動揺のあまり裏返った穂乃香の声が、直後、笑い声へと変わった。
「あっあはははははは、ちょ、ちょっとおおおお、あははははは」
ワンピースの中で穂乃香の脇腹に接触した千穂の指が、巧みに動きくすぐりまわる。
当然、なすすべもなくくすぐられる穂乃香はあっという間に、笑いつかれて床に転がった。
そうして息を乱しながら、侵略者である千穂に穂乃香は問う。
「はぁ、はぁ……なんでぇ?」
「え、えーと、みどりちゃんとクルミちゃんが羨ましかったから?」
顎に指をあてて明後日を見ながら、首をかしげる千穂に、穂乃香の中で何かのスイッチが入った。
後々に冷静になれば、そのスイッチを破壊したくなるだろう穂乃香だが、この時は沸き上がる感情に逆らう術を持たず、即時行動へと移る。
見事な腹筋の利用で体を起こした穂乃香は、容赦なく千穂へと攻め込んだ。
千穂は半袖のTシャツにゴムのフレアスカートというラフな格好が災いして、簡単におへそごとお腹が露出されてしまう。
そこへ、復讐の鬼と化した穂乃香が襲い掛かりくすぐりを開始した。
本来の身長差や力の差を考えれば、穂乃香を引きはがせない千穂ではないが、想定外なことに魔の手は穂乃香のモノだけではない。
素早く頭の上で重ね合わせられた手首は茉莉に押さえつけられ、脚の上にはアリサが笑顔で座り込んでいた。
哀れ囚われの身となった千穂に、茉莉の容赦のない声が届く。
「はい、穂乃香ちゃん、存分に復讐しちゃって~」
「えーーちょっとー」
困りながらもどこか嬉しそうな千穂の声に、アリサは呆れた。
「いや、何で楽しそうなんですか、千穂さん……」
「いや、だって、なんか、どきどきするしぃ……ふふあは、あははははは」
千穂の言葉を遮るように脇腹を中心に穂乃香の指が這いまわる。
容赦ない攻撃に、敏感に反応をしては笑いと悲鳴の混じった声を上げる千穂だが、どこか嬉しそうなせいで責め手の穂乃香も止め時を見つけられなかった。
そんな四人を遠目に見ながら、奈菜を膝の上に乗せた彩花が問う。
「奈菜ちゃん、混ざりたい?」
その問いかけに、奈菜は真剣な表情で考えてから「うーん、見てるだけでいいです」と返した。
彩花もまたその意見に頷きつつ「私も」と同意を示す。
一方、みどりとクルミは、一緒に笑い合いながら、お互いのくすぐり合戦へと展開し始めた四人の戦いを笑いながら観戦していた。




