118 幼女、新衣装を見る
あおいの持ち込んだのは納品用のデータなので、アイキャッチの後に本放送の様にCMを挟むことはない。
すぐに再開を告げるアイキャッチをはさんで、画面が白一色に切り替わった。
直後、浮き上がるようにして白い画面の中心に、これまでの魔女衣装に比べ、豪華さの増した衣装を身に纏ったアネモネが姿を現す。
イメージカラーであるピンクをアクセントにしつつも、全体の色合いはウェディングドレスを思わせるような純白を基調としていた。
ふわりと広がったスカートには、飾りとして数本のプリーツが入り、そのプリーツの内側の生地だけがピンクになっていて、アネモネが動くのに合わせてちらりちらりと姿をみせる。
さらにスカートは、数段のパニエで大きく膨らむように飾られていて、ピンク、薄い桃色、白と外側に向かって色が薄くなるようなグラデーションで構成されていた。
ブーツは妖精の羽の衣装が施されたヒールの低いパンプスへと姿を変え、脚はパニエから露出したほんのわずかな生足を残して、その下を白のニーソックスで覆いつくしている。
魔女のとんがり帽子も白に変わり、ぐるりと帽子を一周するようにピンクのリボンが巻かれ、結び目は蝶をかたどるような真ん中にピンクの石のハマった飾りがあしらわれていた。
肩を大きく包み込むフワフワのパフスリーブには、アクセントとしてピンクのラインが入り、胸元のベスト部分の飾りは、白を基調に金と銀の光る糸で、妖精の羽を図案化したような飾りが刺繍されている。
『よく、試練を乗り越えたの、新たな妖精の魔女よ』
精霊の姫が満足そうに頷きながら、戸惑うアネモネに語り掛けた。
『妖精の魔女?』
急に耳に届いた言葉を、アネモネは首を傾げながら反復する。
『左様……これまでは花々の力を借りていただけだったお主は、この妖精の森に認められたことで、より強い花の妖精の力を扱えるようになったのよ』
『妖精の力』
戸惑いと驚きの混じった声を上げながら、アネモネは自分の掌を見つめた。
『その姿も、妖精の力の表れ、妖精態……お主たち風に言うならフェアリーフォームと言ったところかの』
妖精の姫が急に英語な名称を口にするのはどうかともめたのを思い出しながら、穂乃香を始めとした演者一同は苦笑を浮かべる。
一方で、アネモネのフェアリーフォームを、撮影中、内緒にされていたみどりと奈々は目をキラキラに輝かせて、画面に釘づけになっていた。
輝く豪華な白いドレスは、お嫁さんでもお姫様でも、女の子の憧れを十分に内包している上に、CGによる加工も加わった輝かんばかりの妖精スタイルのアネモネは、それだけの魅力を十分に纏っている。
『さあ、いけ、もうここに用はあるまい?』
どこか寂しげな表情で精霊の姫が、アネモネに背を向けた。
その背が徐々にアネモネを置いて遠ざかり始める。
が、不意にその動きが止まった。
『なんじゃ?』
動きを止めた精霊の姫が怪訝そうな顔で振り返り、自らを引き留めたアネモネの手を見つめる。
『まだ、なにかあるのかの?』
ゆっくりと視線をアネモネの顔へと移した精霊の姫の表情は明らかに怒りを纏っていた。
だが、アネモネはそれに怯むことなく、想いのままに自らの言葉を放つ。
『はい、私と友達になってください!』
『…………何を言っておる』
精霊の姫が一瞬点にした目を瞬かせて、眉を寄せて問いかけた。
『友達の、お誘い?』
首を傾げるアネモネに、精霊の姫は『なぜ、そなたが首をかしげるのだ』と呆れてみせる。
だが、アネモネは精霊の姫の反応などお構いなしに、持論を展開し始めた。
『だって、ずっと一緒にいたいとか、ここにいればいいって言ってくれたじゃないですか!』
『う……うむ』
試練の流れとはいえ、アネモネの指摘は事実なので、精霊の姫は素直に頷く。
途端にアネモネの表情は輝かんばかりに輝きを見せた。
『つまり、それは、私とお友達になっても良いってことではないかと思うんですよ!』
『なに!? なぜそうなる?』
アネモネの断言に、精霊の姫は驚いたとばかりに目を丸くする。
『というわけで、今日から、今から、お友達になりましょう!』
『いや、だから、人と精霊は……』
『そんなこと関係ないです! だって、こうしてちゃんと意思疎通ができるんですよ? 他に友達になるのに必要なものなんてないと思いませんか?』
アネモネのセリフに、精霊の姫は瞬きを数度繰り返した後で、大きなため息をついた。
それから、穏やかな表情で『違いない』と笑う。
『じゃあ、私達はもうお友達でいいですか、いいですよね?』
ぎゅっと両手で握っていた精霊の姫の手を握り直すと、アネモネは輝かんばかりの笑顔で微笑みかけた。
『強引な奴じゃのう』
『えへへ』
『褒めてないぞ』
『ええっ!?』
『そんなに驚くことではないと思うんじゃが……』
精霊の姫は苦笑まじりにそう告げてから、一拍置いて『フローラじゃ』と言い足す。
『フローラ?』
『友になるのであろう? 名前を教えるくらいは当然と思うてな!』
強めに言い放って視線を逸らす精霊の姫フローラに、アネモネは『はい!』と大きく頷いた。
それから、満面の笑みで『私は凛華! 春咲凛華です!』と名乗る。
対して、フローラはヤレヤレと言わんばかりの表情で『知っておるわ』とそっけなく返すが、その口元に浮かぶ笑顔は隠せはしなかった。




