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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
115/812

115 幼女、嫉妬される

『どうしたの、凛華おねぇちゃん?』

 現場でスタッフ一同を驚愕させた精霊の姫が、黒さをわずかに滲ませる無邪気な笑みを浮かべて、アネモネに迫った。

 だが、アネモネは必死に左右に頭を振って、絡みつく様な精霊の姫の声を振りほどこうともがく。

『ちが……う……』

 皆がいるからいつまでもこのままでと甘く囁いた自らの言葉を、無理に振り払おうとするアネモネの姿に、精霊の姫は形の良い細めの眉を寄せて不機嫌さをにじませながらも、唇は笑みの半月を描いた。

『みんな……わたしのいうみんなは……ちがう……』

 うわごとのように漏らす言葉し抵抗を続けるアネモネの姿に、精霊の姫は面白いとでも言いたげな好戦的な表情を見せてから、一瞬で元の誘うような顔に形を改める。

 わずかな瞬間に心情の変化をのせて見せる穂乃香の演技が、あおいの編集によって最大限に引き出されていた。

『あら、違わないわ、凛華お姉ちゃん』

 甘く柔らかいのに、毒が混じっている危険の匂いを纏った精霊の姫のささやきに、呼応するようにアネモネが表情を強張らせる。

『みて……』

 けれど、そんな抵抗など無いも同然と言わんばかりに、精霊の姫が下した酷く冷たい声の命令に、アネモネは自分の意志とは関係なくその指さす先を見てしまった。

 そうして、精霊の姫の指さす先に、アネモネを除くプリッチメンバーが並び立つのが映し出されると、自分の出番を意識した千穂を除くプリッチメンバーたちは表情を引き締め始める。

 現場でのチェックはしっかりとしていても、オンエアされるシーンは、編集加工を経ているため、違った気づきがあるのが常であるため、自分の演技をチェックする目に真剣さが増すのも当然であった。


 そんなどちらかというとほんわかしたイメージのあるプリッチメンバーの真剣な眼差しと空気に、みどりは驚きに満ちた表情を浮かべた後、尊敬を目の光に込めた。

 奈菜もまた年上の少女たちの真剣さに、顔を引き締める。

 直後、精霊の姫がそれぞれの名を呼んで、幻想のプリッチたちを呼び込み始めた。

『沙百合』

 どこか虚ろな表情と、普段の日舞や和の作法を基礎とした流れる動きとは違うどこかぎこちない動きで沙百合が歩み出る。

 違和感を覚えさせるに十分な動きだったが、時々揺れる体が、より一層違うのだというのをアピールしてきて、見ている側に不安を抱かせるに十分な仕上がりだった。

 もっとも、このタイミングでは穂乃香のセリフの意図を測りかねていたので、沙百合を演じる彩花としては、まだ上があったと思っている。

 それほどに向上心旺盛なのが、プリッチで一番冷静と言われる彩花の内に秘めた熱さだった。

『桜花』

 自信満々な振る舞いが基本となる桜花の動きはどこか自信無さげで、迷いを抱いているのを容易に感じさせてくる。

 それは、彩花に続いて前に歩み出た時に、穂乃香の意図を読み切れていなかったことで生まれた偶然の産物だった。

 シーンとしては完璧であっても、自分の演技プランに沿ったモノでないゆえに、茉莉は強めに唇を噛みしめる。

 穂乃香とわずか数日で、演出意図まで理解し合えることの方が可能性としては低いのに、それでも自分が至らないと判断してしまうのが茉莉であり、彼女自身の嫉妬に沈み込まずに前に歩み出すための原動力であった。

『菊乃』

 次いで精霊の姫に名を呼ばれる菊乃は、直前の桜花とはまるで正反対の堂々とした歩みで前に出る。

 当然、普段はおどおどしたキャラである菊乃にはありえない自信に満ちた所作は、桜花との対比もあってより顕著に違うと理解させるものだった。

 この時には四人が穂乃香の演出意図を理解していたため、クルミとしてもシーンにばっちりとはまる演技をしたのだという自負はある。

 だが、その一方で、穂乃香という天才少女に引き出されたものだとという事実もクルミの中では大きかった。

 茉莉を揶揄したのも、芸歴ではプリッチで一番長いクルミ自身が強い憧れと嫉妬を穂乃香に抱いたからであり、その感情をため込むことがもたらす黒いしこりの重さを知っているからである。

 だからこそ、クルミはその黒いものを誰にも見せたりはせず、明かしたりもせず、ただただ心の奥底に封じ込めて、平然とした顔で自分の演技を見つめていた。

『ローザ』

 最後に呼ばれ、普段は陽気さの感じられる華やかな歩き方をするローザが、しずしずと歩み出る。

 容姿のせいもあって豪放磊落に見られがちなアリサだが、本質で言うならこちらのお淑やかな振る舞いの方が性に合っていた。

 それでも、瞬時に状況を判断して自分の性格から変えることのできるアリサからしてみれば、穂乃香や千穂の無茶なアドリブに合わせることはそれほど難しくはない。

 アリサの場合、その人物になり切っているので、素で出てくるリアクションが、そのままキャラクターのリアクションに重なる為、違和感がないのだ。

 それゆえに自分の演技を見たクルミが、自らとの違いにその口元にほんのわずかに滲ませた自嘲を、アリサは目にしていながら触れはしない。

 一番の理由は、アリサの演じるローザはそんな細かいところに気付くキャラではないからだ。

 しかし、アリサの心中はそれだけではない。

 なりきり型という意味では非常に近しいクルミの演技を、素のアリサは常に意識していた。

 近しい演技タイプだからこそ、クルミの技術の高さも、努力も理解できるのである。

 そして、それゆえにクルミの自嘲は、アリサにズルをしているような罪悪感を抱かせた。

 お互いに相手に対して微妙な心情を抱きあいながら、アリサとクルミは視線を交わし合う。

 そうして、少々奇妙な笑みの交換を二人が終えたところで、スクリーン一杯に、大人顔負けの色香をまき散らす穂乃香の顔が大写しとなった。

『どう、凛華お姉ちゃん? 皆いるでしょう? だから、安心して、一緒にいましょう?』

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