運命の日
今日三話目の投稿です。
カーラ様の教会には既に俺以外の無能者が集まっているようだった。
俺は教会の神父補助らしき少年を見つけたので近づいて行って尋ねた。
「救済を受けに来ました。どうすれば?」
神父補助の男の子はおそらく俺より三つか四つ若いはずだ。しかし俺を無能者だと見下しているのだろうか、それとも身分差からだろうか明らかに馬鹿にしたような口調で聞いてきた。
「名前は?」
「マキ村のラークです」
俺は無用のトラブルを避けるために下手に出なければならいと言う事を嫌と言うほど経験してきたので丁寧に答えた。
俺の答えに少年は汚い物でも見るような目で俺の顔を見てきた。
「マキ村の? ああ本物の無能の。お前だけは本当に何のスキルも無いんだってな。信じられねーよ。良く生きて行けるなぁ。俺なら悲観して死ぬよ。まあいい。あの列の最後尾に並べ」
吐き捨てるように少年は言って顎で俺と同じ年頃の少年少女達が並んでいる列を示した。
「はい」
俺は生意気な小僧に少なからず腹が立ったが大人しく言われた通りに踵を返そうとした。しかし少年は何かを思い出したのか俺を呼び止めた。
「あ。ちょっと待て。お前ってあの小英雄のノエル様と聖女ポリーン様と仲が良かったらしいじゃないか?」
俺は少年の言葉を聞いて、その話かと肩を竦めた。その質問は何度も聞かれたからだ。
「ノエル様やポリーン様と俺なんかが仲が良いわけ有りませんよ。お二人とも子供の頃はスキルの発現が無かったので俺にも気さくに声を掛けてくださった事が有ったってだけですよ」
俺は当たり障りの無いように説明した。そうする方が誰もが納得するからだ。俺のような無能力者が街の英雄達と知り合いだったと言うだけでやっかみ半分でいじめの理由になるからだ。
「何だ。そうだろうな。お前みたいな無能な奴と友達な訳がないな。もういい。さっさと並べ」
少年は俺に侮蔑の眼差しを向けながら言った。
(お前が呼び止めたんだろうが)
俺は無言で悪態をつきながら列の最後尾に付いた。
聖女ポリーンや小英雄ノエルと俺は昔友達だった。
あれは俺がまだ十二歳の時だった。
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【五年前……運命の日】
その日。俺は十二歳になったばかりだった。身長が伸び始めて来た頃だった。
この頃の俺はまだ女神アンパロの事を信じてスキルがいつ発現するかと楽しみに待っていた。
この時俺には二人の友達がいた。それが商家の娘ポリーンと貴族の三男坊のノエルだった。
ポリーンとノエルもまだ一つのスキルも発現していない俺と同じ無能力者だった。
☆★☆
俺はこの日、友達のポリーンに会うために村はずれの街道をラルの街に向かって歩いていた。
ポリーンは街で手広く商売をしている裕福な商家の一人娘だった。
俺の村からラルの街は恐らく六キロ近くある。歩けば大人の男でも一時間以上かかる距離だ。それでもポリーンは歩いて村までよく遊びに来た。
ポリーンはスキルなんてどうでも良いじゃないかって言いたくなるほど整った外見を持っている綺麗な女の子だった。大人の記憶を持つ俺が話しても飽きないほど頭の良い子だった。
もちろん俺は一目でポリーンが大好きになったがその気持ちが恋愛とは言えないものだろう。何しろ俺は幼女趣味は無かったから。
前世の記憶を持つ俺が年相応の精神年齢でいられるはずはもない。さらに無能力者という希少な存在である以上、必然的にボッチにならざるを得ないはずだが、そんな俺を慕ってポリーンは俺の住む村まで遊びに来てくれる。大切に思わない訳がない。
この日もポリーンは遊びに来ると約束していた。この日俺はどうした心境の変化かじっと待っているのが申し訳なくなりポリーンを迎えに行く事にしたのだ。
後になって考えてみるとこの日の俺には虫の知らせが有ったのかもしれない。
村から二十分ぐらい歩いた山中のとある所で、俺は女の子の悲鳴を聞いた。左側が崖で右側が谷の多少悪路と言っても良いような場所だった。崖で道が見えなくなっている向こう側から女性の悲鳴が聞こえた。
その悲鳴には命にかかわる非常事態が起きていると直感させる恐ろしい響きがあった。
俺はその悲鳴の主がポリーンでない事を祈りつつ近づいて行った。
慌ただしい人の争う音と共に男の怒号する声が混じった。
街道をそのまま突っ走って行くと争いの渦中に遭遇するかもしれないと思い、俺は街道の崖側の藪の中に身を隠し崖下に落ちないよう気をつけながら草を掻き分けて声のする方に向けて近づいて行った。
声が近くに聞こえる位置まで近くづくと俺は草の間から声の方を覗いた。すると数人の山賊らしい男に誰かが捕まっているのが見えた。声をあげさせないように一人の男が後ろから羽交い締めにしつつ口を押さえている。
やはりあれはポリーンのようだ。俺は心臓が口から飛び出そな緊張感と恐怖心で膝がガクガクと震えた。頭の中身は大人のはずの俺は泣きだしそうになるのを必死で堪えて回転しない頭を忙しく働かせていた。
何とかしないととは思うが頭が混乱してうまく回らない。俺は普通の十二歳児ではないがかと言って無力である事にそれほど違いがない。
慌ててここで飛び出しても十二歳の子供に何ができるわけでもない。咄嗟に大人を呼びに行くことを考えたがもしポリーンを連れ去られたら行方が分からなくなるだろう。
それに、山賊達もポリーンのような荷物を抱えたまま街道を逃げたりはしないだろう。どこかにポリーンを隠すのではと俺は思った。
こうして俺は山賊達の後を付ける事にしたのだ。