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リングワールド  作者: seisei
序章
1/29

プロローグ

新連載です。

現在は序章まで書き溜めていますので序章の終わりまでは掲載しますが急に打ち切りになっても許してください。

しばらく毎日朝七時に更新します。


 事件とは突然始まるものだ。


 どうやら俺は今、事件の真っ只中にいるみたいだ。


 そう。俺は『転生の儀式』と言う事件に巻き込まれてしまったらしい。


 俺の目の前に浮かん(・・・)でいるのは紛れもなく俺が生まれてから二十八年の間初めて見た良い女だった。


 薄い紫がかった銀髪が多少の違和感を醸し出していると言えなくも無いが、彼女の全体的な雰囲気は正にDOMANNNAKA(ど真ん中)だった。


 さらに言うなら彼女は俺の個人的な趣味を超越して全世界男子のDOMANNNAKA(ど真ん中)だと確信した。


 可憐さ。上品さ。端正さ。清らかさ。聡明さ。凛々しさ。威厳。妖艶さ。真面目さ。気安さ。優しさ。大らかさ。それら本来同時には存在し得ないはずのあらゆる美徳が集約しその全てが備わっていると思わせる。そんな不思議な雰囲気を彼女は持っていた。


 恐らくだが全ての美徳を持っていると思わせるほどにあまりにも美しく清らかで信じられないくらいに柔和な雰囲気が彼女をそう見せているのだと思った。


 ただただ無言で見惚れている俺に向けて、美しく可憐であると同時になまめかしい彼女の唇から鈴の音のように麗しい声が放たれた。


「田中一郎さん。貴方は死にました」


 はい。存じ上げてますよ。緑色のダンプにはねられましたもん。トマトケチャップの入れ物がグチャって踏み潰された所なんか想像したらダメなんだからね!


 俺は奇跡の美少女を前にしてそんな馬鹿な乗り突っ込みを頭の中で思い浮かべていたがさすがに口では別の事を言った。


「で? 貴女様は?」


 俺はこのような特殊な現場には有るまじき極めて冷静な口調で尋ねた。


(何? この変なテンションは?)


 俺は我ながら自分が変なテンションなのを自覚していた。


 なんとも変な感覚が俺のファンキーではっちゃけた感情を丸め込んで押さえつけ妙にシュールでセピア色に落ち着かせようとしているのだ。まるで何かのフィルターがかけられているかのように。


 恐らく死んだ直後なのでそのような魔法がかけられていたのかもしれない。


「私は、美と愛の女神。セーラと申します。田中一郎さんの転生の儀式をつかさどります。よろしくお願いします」


 そう言うと、セーラ様はペコリと日本人風に頭を下げた。その仕草のなんと可愛い……いや、待て待て。この女神様の様子はどこか不自然だ。俺は感情にかかったフィルターのおかげだろうか妙な聡明感により彼女の不自然さに気づいたのだった。


 だって幾ら何でも西洋風の女神様がペコリは無いだろう。西洋人が日本人みたいにペコペコ頭を下げるか?


 俺はここで改めてセーラ様の様子をしっかりと観察する事にした。


 あまりにも美しい彼女の外見に目を奪われていたためだろう。改めて見ると彼女。どこかオドオドした感が半端ないではないか? 目なんかメッチャ泳いでいるし……


 ともかく彼女の不自然さは置いておこう。今彼女は俺に丁寧に挨拶をしてくれているのだから挨拶は返しておくべきだろう。うむ。それが礼儀というものだ。


「はい。こちらこそよろしくお願いします。ところで女神様は転生の儀式とかは今回が初めてなんですか?」


 俺はとりあえず聞いてみた。


「え? え? そ、そんな事はありませんよ」


 とセーラ様は否定した。しかし……


(あ、そこっ! キョロキョロしない。モロにばれてますよ)


 あまりにも分かりやすい女神様の動揺する態度に俺は苦笑した。


 セーラ様は天然? ドジっ子? 恐らく後の方だろうと俺は採点した。美しく可愛い女神様でドジっ子はなかなかに可愛ゆくて良いものだ。なんとも微笑ましい……


 だがしかし!


 いやいやダメでしょう。よくよく考えてみろよ俺。転生の儀式って俺にとってとんでもなく大切な儀式じゃんよ。


 俺の大切な転生の儀式をドジっ子が取り仕切るってどうよ?


 俺は少なからず嫌な予感をぬぐえないでいた。




☆★☆



 さて、この辺で自己紹介をしなければならないだろう。俺は田中一郎。なんとも平凡な名前で済まない。鈴木だったら良かったのにねとは言わないでくれ。何しろ某野球選手が活躍するたびに散々言われたネタだから言い返す気力も湧かない。


 俺は二十八歳の某ソフト開発会社に勤めるリーマンだった。ある事が原因で多額の借金を抱えて社畜階級に堕ちて現代のアンデッド戦士として死なず生きずでやってきた。


 趣味はネトゲ、ネット小説など主にボッチでお金を使わないネクラ系が趣味だ。


 俺の容姿? 聞かないで欲しい。それだけだ。取り柄? 更に言おう。聞かないで欲しい……クスん


 恋人? 怒るよ。


 友達? 遊ぶ金が無いんだぞ……


 それじゃぁ人生に未練なんてないじゃん。とはごもっともだがそれも言わないで欲しい。何だか目から水が……


 俺はダンプではねられて死んだ。そして今、転生の儀式を受けているところだ。


 目の前には超絶可愛い女神様がいらっしゃって転生について説明してくださっているのだが、この女神セーラ様。話のまとまりが無さすぎだ。


「つまり、俺はとても可哀想で見ていられない。だから何とかしてあげたい。でもチート能力まで授けるのは無理って事ですね」


 おれは女神様のグダグダの説明をそう要約した。


「ふぇぇ。そ、その通りですぅ。へへへ……よく分かりましたね」


 セーラ様は俺がうまく話をまとめた事に驚いていたようで可愛い目を丸くしている。


「セーラ様の話し方の癖は何となく理解しましたから」


 俺がそう言うと女神様は目を輝かせて喜んだ。


「ほ、本当ですか? 素晴らしいです。私の話をそんなに分かってくださるのは。田中一郎さんが今までで一番でした。わぁ凄い」


 セーラ様は俺が自分の話をきっちりと理解した事に喜びを露わにしてはしゃいでいる。しかし自分の残念な仕様を俺があからさまに指摘しているのだとは気付きもしない。何とも呑気のんきな女神様だ。


「俺がチート能力を貰えないのは俺自身の問題なんでしょ?」


「ごめんなさい。田中一郎さんは特に偉人でも無いし、それに、良い事をいっぱいした人でも。それに私の事に信心深くも無かったし……」


 セーラ様は本当に申し訳無さそうに言った。


 そうやってあまりにも申し訳無さげにされると何だか悪い事をされているように感じて来るものだ。『何でだよ』って文句が言いたくなって来る。しかしこれは明らかに逆ギレって奴だろう。


 しかし逆ギレだろうと本当に怒っていようと目の前のドジっ子女神様はあまりにも可愛いので何でも許しちゃおう。


 何も善行をしてこなかった俺がチート能力を授から無いのは当たり前だろうし。


「仕方ないですね。じゃ、転生の儀式をお願いします」


 彼女の話を割り切って考え、俺は言った。さっさと転生をして人生をやり直そう。今回の人生よりは少しはマシになるかも。


 俺の方はそう割り切ったのに女神様が納得していないようだ。


「でも田中一郎さんは本当に気の毒なのです。借金を返済した日なのにかわいそう……」


 そう言いながらセーラ様は痛いものでも見るかのように俺を見た。


 そうだ。女神様が仰るように俺がダンプにはねられて死んだその日は俺の借金が完済された日だった。ははは。


 俺は友人の借金の保証人になりそのまま借金を引き受けさせられたのだ。俺はその時まだ学生だったがその後就職して社畜と成り果ててひたすら借金を返済する日々を送る事になったのだ。ボッチなのは主に俺の性格の問題だが金と時間が無かったのも大きいと主張したい。グスンっ。


 二十八歳の誕生月の給料日。それは俺が借金を完済しためでたい日だった。


 俺はその日、少しだけ贅沢をする事にした。百グラム九百八十円のステーキ。俺にとっては高嶺の花のステーキだ。それを百五十グラムも買った。残念なのはそのステーキが食べられなかった事だ。


 なぜかって? はははは。俺は買い物の帰り道、ダンプにはねられて死んだからだ。セーラ様が言っているのはその事だ。いかんいかん。目から水が……ってことで俺は慌てて話題を変えることにした。


「転生先はどんな所なんでしょう?」


 いきなりの話題変換だったからか。ドジっ子セーラ様はびっくりしたようだ。


「え? あっ」


 女神様はそこで固まってしまった。何かあったのだろうか。


「ご、ごめんなさい。まだ決まってません……」


 女神様の様子だと、どうやら転生先を決めるのを忘れていたようだ。


「えへへへ。多少なら融通が利きますよ」


 女神様は誤魔化すように笑いながら言った。


 おおおお。俺はその言葉に無言で食いついていた。転生先の世界を選べるなんて。これはなんとも素晴らしいじゃないか。


 それならば聞かねばなるまい。


「ファンタジー世界って有るんでじょうか?」


「ファンタジーですか?」


 キョトンとするセーラ様。(この女神、ファンタジー世界も知らないの?)って俺はガッカリしたが一応畳み掛けて聞いてみた。


「ええ。魔法とかスキルとかがある世界です」


 その言葉の意味を女神様は考えるように首を傾げていたが直ぐに何かに気付いたような顔になった。


「その二つがある世界が……あ、あるようですよ。そこはリングワールドと言う世界みたいです」


 女神様の言葉に俺はさらに飛びついたことは言うまでもない。夢のファンタジー世界だぞ。


「どんな世界なんですか?」


「その世界には魔術があります。スキルもたくさんありますよ。それと……いろんな種族が生きていますね。あっ! ここの惑星は球体じゃないみたいですね。輪っか? そう指輪のような輪の形をしています。だからリングワールドと言うのでしょうか?」


(おおおおおお〜。惑星が指輪の形だって! リングワールドすげぇぜ)


「リングワールド。格好良い名前ですね。ドラゴンなんかもいるんですか?」


 そこは絶対外せない。俺は聞かずにはいられなかった。ドラゴンだ。おおおお。俺はテンションが上がって行くのを抑えられないでいた。感情のフィルターも俺のファンタジーへの憧れを押しとどめられ無いようだ。


「ドラゴンですか? ふぇぇ。えっとぉ。ドラゴン。ドラゴンと……へへへ。ああ。ドラゴンいます。いろんな色のドラゴンがいますよ。リングワールドはとっても広いみたい。だからたくさんの種族がいっぱいです」


(おおおおおお)


 俺は思わずガッツポーズを取った。


 一生を借金の返済のためだけに生きてきた俺にはそんな夢のある世界が実在するとは信じられなかった。もともとお金のない俺はネット小説を読むのが趣味で転生ものは俺のお気に入りの一つだ。


 俺の目の前に転生とファンタジー世界の二つが見事に揃ったじゃないか。


「そこに転生するのは可能ですか?」


 もちろんそう尋ねずにはいられないだろう。


「ふぇ。急には無理ですぅ。ごめんなさい……あっ! でも、だ大丈夫みたいです。そっちの世界の女神に知り合いがいました。頼んで転生をさせてもらいましょう」


 セーラ様が言った。俺はしばし考えた。担当がもっと変な奴だったら?


 いやいや。それは無いだろう。相手は神様だぞ。変な神様がそうそういてはたまらない。


 俺がそんな事を考えているとセーラ様が優しく告げてくれた。


「でも私。田中一郎さんの事はとても気にかかるのです。だからきっとその女神に良い転生をさせて貰えるように、たくさんお願いしますね。それに田中一郎さんは……私にとっては初めての……いえ、本当に特別な方なので必ず幸せにしてさしあげたいのです。だからずっとずっと見守っていますからね」


 何とセーラ様はそんな有難い事を仰ってくれた。恐らく俺はこの女神様の一番目の転生者なのだろう。


 それが女神様が仰っている特別な方と言う意味に違いない。その言葉で俺は決心がついた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 セーラ様に呼ばれて出てきた女神様もとても美しい女神様だった。しかし雰囲気が全然違う。


 髪の毛が真っ赤なのも違うところだし、肌も少し褐色で目鼻立ちもはっきりとしている。全体的に野生的な力強さを感じさせる女性だった。彼女の雰囲気を見て俺は一瞬、大丈夫だろうかと不安になった。


 セーラ様の隣に現れたその女神様はしばらく突然呼ばれたことに不思議そうにしていたがセーラ様の説明に聞き入って理解したのか俺の方をチラ見したりして頷いていた。


 二人で話す女神様達を見ていると女神様と言っても女子のキャピキャピ感は地上と一緒なんだなぁと俺は妙な事に感心して二人の様子を見ていた。


 そしてどうやらセーラ様からの引き継ぎが終わったのだろう。


 セーラ様は俺に美しく笑いかけて手を振ってくれた。俺はセーラ様に何度もお辞儀をして感謝の気持ちを伝えた。


「田中一郎さん。貴方の事をこのによくお願いしました。だから大船に乗って安心してくださいね。では」


 彼女はテヘペロって感じで消えて行った。何ともアッと言う間の出来事だった。なぜか少し寂しいなと俺が思っていると。


「よう。私は戦の女神でアンパロってんだ。よろしくな」


 気さくさを通り越して迫力ある自己紹介が飛び込んできた。俺は少し引き気味になった。


(ちょっと怖い。迫力ありすぎだよ〜)


 もし感情を薄めるフィルターが掛かって無かったらちびっていたかも。


「は、はい。僕は田中一郎です。よろしくお願いします」


 俺は怖々と挨拶を返した。


「なんだ。そのしけた名前は。私が良い名前を授けてやろう。そうだな。ラークってのはどうだ? お前の世界の言葉では「楽」って言葉と同じ音だ。縁起が良いだろう。わははははは」


 アンパロと名乗った戦の女神は一人で納得し、決めつけるように言った。


「いやいや。そんなに簡単に名前を決めないでください」


 俺は慌ててアンパロに言った。しかしアンパロは俺の話などろくに聞こうともしない。


「で。ラークはリングワールドに転生したいんだって?」


(((もう、ラークって呼んでるし!)))


「はい。お願いします。でも名前……」


 アンパロは俺の名前に関する言葉など少しも聞かずに俺の言葉に重ねるように言った。


「お前、前世では借金地獄でかわいそうな人生だったんだって?」


「はい。恥ずかしながら、友達の借金を押し付けられて……」


 俺が吊り込まれて答えると。


「ははは。間抜けな奴だな。お前笑えるよ」


 アンパロは情け容赦なく笑い出した。


 何とも人の話を全く聞かない女神様もあったものだ。しかも思った事をズバズバ言う性格のようだ。俺は涙目になって頷くしかない。


「お前。セーラの最初の男らしいな」


「そこ。それは誤解を生む言葉ですよ。俺が最初の転生者だっただけでしょ」


 俺は思わずそう突っ込みの言葉を入れたがやはりこのアンパロって女神。全く人の言葉を聞く耳が無いみたいだ。


「セーラも物好きな奴だな。お前みたいな冴えない間抜けの面倒を見ようなんてな。まぁ、しかし頼まれりゃ仕方ない。まぁ良いように転生させてやるから安心しな。じゃあな」


 アンパロはこの瞬間俺の顔を見てニヤリと笑った。


 その笑いははっきりダメでしょって分かる奴だ。


 咄嗟に俺は叫んだ。


「ちょっと待った!!!」


 しかしアンパロは最後まで人の話を一切聞かなかった。こんなパターンの転生物語なんて有り得ないパターンだよ〜


 アンパロは何の情報も、転生先で俺がどんな能力を授けられるのかも一切の説明もしなかった。


 アンパロは最後の「じゃあな」の言葉の「な」の音が半分途切れたような感じで目の前から消えたのだ。どれだけ人を無視するんだと俺は突っ込みたい。


 俺はこの時、あのドジっ子だが優しいセーラ様にそのまま転生してもらうんだったと心の底から後悔したのだが後の祭りだった。


 次の瞬間、俺は奈落に落ちるような感覚で転生したのだ。


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