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ヘタレ女の料理帖番外編  作者: 津崎鈴子
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電気屋エイジ、決意する。

恋ってするものじゃなくて落ちるものだって誰かが言った。


変わらない日常、変わらない人々、変わらない行動範囲、変わらない僕の性格。


そんな僕は、かわいい女の子と出会う切っ掛けとか無いもんだと思っていた。


最近は、世話焼きおばさんっていう人種が絶滅危惧種ってのになっていて、あそこのお嬢さんとお似合いじゃないかしらっていう昔の風景が廃れつつあるのだそうだ。


婚活ったって、お見合いパーティとかに出かけても、モテるのは美男美女。

タカシにぼやいたら、大概そういうのは客寄せ用のサクラか余程性格に難ありな奴ばっかだよって笑ってる。


女に苦労したことないタカシみたいなイケメンには言われたくないよ!!って言いたくなったけど、タカシは、ずいぶん前から彼女は居ない。


 女の子に気を使うより、友達とバカやってる方が楽しいって。


そんなセリフが言えるまで、女の子とのお付き合いを堪能してみたいよ。


 そんな時、僕の前に現れた天使、それがアヤちゃんだった。


 エミさんの親戚で同居している、ユキちゃんっていうちょっと謎めいた女の子。


 可愛いんだけどなんかどんよりとした闇を抱えている感じがしていたけど、その幼馴染のアヤちゃんが気になって仕方ない。


居酒屋でよく見かけるようになって、声をかけてみる。

みんなとなんとなくワイワイ飲んで、なんとなく話をしてみるけど、どんな話をしたら笑ってくれるのか、探り探り嫌われないようにちょっとづつ距離を縮めていく。


「こんにちわ!一緒に飲まない?」


いつもこんなありきたりのセリフで呑みの席に混ぜてもらっている。



女の子の喜ぶ話題を探しているうちに、いつも誰かが話を振って、みんなで笑って会話がうつろっていく。


 スキルが低いよなぁって飲み会は楽しいのに家に帰ってからああすればよかった、こういう話はどうだろうって思うんだよ。


 クイズ番組でお茶の間ではバンバン正解するけど、いざ素人枠で出場したら全然だめだったって人のパターンを聞いて、同じだなってため息が出るよ。



 そんなある日。


何回目なんだろう、飲み会でアヤちゃんに話しかけられた。


「エイジさんって修理も出来るの?」


「見てみないと何とも言えないけど……」



修理?アヤちゃんの為ならなんだって直すよ!!!


 話を聞くと、大昔に流行ったっていう犬の形のロボットが動かなくなったのだそうだ。


たしか、製造メーカーも修理の受付を終了したってニュースで見た気がする。


さすがに、うちの扱ってるメーカーじゃないし、そういうのの修理はやったことないからわからない。


ちょっと難しい。そう正直に話すとアヤちゃん明らかに落胆する。


なんでも、亡くなったおじいちゃんが可愛がっていて、おじいちゃんの死と共に動かなくなったそうだ。なんかどっかの古時計の歌みたい。


ただ、その犬のロボットは、動物アレルギーのアヤちゃんの為に買ったものらしくアヤちゃんはもう一度動いたところを見たいんだって。


 あんまりの落ち込みぶりに、何とかしたいなって強く思った。

アヤちゃんにそんな顔は似合わないよ。


「一度、見せてくれる?現物を見て何とか出来そうだったら頑張ってみるから」


その言葉に、アヤちゃん、嬉しそうに笑ってくれた。


自分の技術が、アヤちゃんの役に立つかもしれないって嬉しくなった。



 何日かして、アヤちゃんが大事そうにロボット犬を連れてきた。


表面はきれいに磨かれているけど、細かい隙間に年月のせいか埃が溜まっている。


早速作業に取り掛かった。アヤちゃんも何か手伝いたいって言ってくれたけど、逆に気持ちが集中できないからともったいないけどお断りしたら、ユキちゃんに会いに行くから、とその場を後にする。



 早速作業場にロボット犬を持って行って観察してみた。


パッと見たところの埃をエアダスターで払っていく。

これだけで直るわけもなく、慎重に分解していく。



 すると、ギアが微妙にずれているのがわかった。

どの角度が正しいんだろう。試行錯誤でちょっとづつ微調整していく。


でも、まだ動かない。


インターネットの動画や、このロボット犬の記事を読み漁り、空いた時間は修理に費やした。


半ば、当初の目的であるところのアヤちゃんの為っていうのが薄れて、単純にこいつを修理したいっていう欲求が大きくなっていく。


 僕のそんな姿を見ていた父さんが、このロボット犬を作ったっていうエンジニアの人がやってる修理工房に連絡を取ってくれたけど、そこも同じようにロボット犬の修理待ちが300件だって聞かされて、症状を相談したら、破損していた部品を分けてくれるってことになった。


 取り寄せた部品を付けたら、スムーズに動くようになった。


 なんだろう、この愛嬌のある動きは!!!動くようになったロボット犬はダンスを踊る。

こいつ、生きてるみたいだ。


 その様子に、ずっと修理の様子を見ていた父さんと母さんも喜んでくれた。


 次の休みの時に、アヤちゃんにロボット犬を引き渡す。


ずいぶん長く預かっていたからさみしい思いをさせてしまったかもしれないな、と思ったが、機械相手だけどなんか情がわいてしまって別れが辛くなってしまった。


 アヤちゃん、すごく喜んでくれて何度も何度もお礼を言ってくれた。何とも言えない達成感だった。



☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・




 それから少したって、仕事終わりで駆け付けた飲みの席で、マサキとユキちゃんが付き合うことになったって報告してくれた。


やっぱりなぁ。マサキてイケメンだし面倒見がいいしでユキちゃん惚れるのも無理ないわ、としみじみしていた。


 ただ、タカシにイケメンは云々っていうぼやきをしたら、ゲンコツを食らってしまった。


マサキがどれだけ真剣にユキちゃんのことを思っていたかとか、ユキちゃんの為にいろいろと陰で動いていたことや、ユキちゃんの身に起こった酷い状況をかいつまんで説明してくれた。


 あのマサキが、必死になってユキちゃんを護ったっていう事に感動すら覚える。

イケメンでもそこまでしないと彼女が出来ないんだって衝撃も覚えた。


 タカシに、こんこんと説教される。


好きな女を守ってやろうという気概もなく、ただ単にイケメンじゃないとかモテない理由を自分にタグつけて安心して何も行動しない奴に惚れる女は居ないって。


 タカシとかマサキは、ルックスだけ見てアクセサリーのように自分たちを扱おうとする頭の軽い女達に迷惑していたんだそうで、こっちからしたらそういうのもなく過ごせるお前が羨ましかったわ、と言われた。


 

 そんな時、ふとアヤちゃんに目が行く。ユキちゃんにおめでとうって言ってるのになぜか浮かない顔をしている。どうしたんだろう?


すると、タカシは、ユキちゃんを最初に見たときどう思った?って聞いてきた。


可愛いけどどんよりしてるなぁって思ったって答えると、マサキ、そのどんよりした顔のユキちゃんが心配でずっと目が離せなくて声をかけたのがきっかけで今現在の状況があるって教えてくれた。


「気になる女の子にはこっちから声を掛けろ、心配してくれるって思ったら女の子は気になってくるもんだ」


と、背中を押された。


マサキがユキちゃんと上手くいって幸せだっていうこの空気に便乗させてもらおう!!


一歩踏み出さないと何も始まらない。


そして、ユキちゃんと話し込んでいたアヤちゃんに話しかけた。



「こ、こんにちわ!!来てたの?!一緒に飲まない?」



「いいよ、こっち来る?」


 僕は変わるんだ!!今日から変わるんだ!!!


「いや、あの、ふたりきりで……カウンターで……」


真っ赤になって、最後の方なんて尻すぼみに小さくなった声を拾ってくれたアヤちゃん。


今までのドンヨリした表情から一転破顔した。


 カウンターまでは大した歩数じゃないけど、今までの僕にしては大きな一歩だった。


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