「じゃない方」 じゃなくなった日。(アヤ)
近所では仲良しトリオで通っていた私とユキとテル。
関係がすっかり変わってしまったのはやっぱり大人になったからなんだろうなぁ。
小学校から高校まで、地元が大多数通う公立に仲良く入学した私たち。
他の学校からも流入してきて新しい顔ぶれも増えて新鮮な学生生活を送っていた。
地元の中学でもユキは男子から人気があったけど、誰にでも優しい性格だからみんなが抜け駆けできない状況で手つかずの高嶺の花状態。
いつも選ばれない方の私。主人公の傍の添え物のような扱いとか日常茶飯事。
高校に入って、ユキに彼氏がいるかって、知らない男子から聞かれることが格段に増えた。
まぁ、別の中学から上がって来た奴らからしたら、ユキは気になる存在なんだろうとは思う。
だから、忙しくて彼氏に構ってる暇無さそう、とか教えてやる。
そんなある日、私がちょっといいなって思っていた部活の先輩が、ユキのことを聞いてきた。
なんだろう、すごい衝撃だった。ああ、やっぱり、とも思うけどすごく凹む。
もう、どうでもよくなって、先輩にはユキは彼氏いないって伝えた。
そしたら、何日かして先輩がユキに告るって噂が流れてきた。
それを知ったテルが、慌ててユキに告った。
なんか、ユキを取られるのが嫌だったからっていう、お子様思考でユキはテルの彼女になった。
多くの男子がなんであいつなんだって嘆いていたけど、ユキは面倒見がいいから、ああいう頼りないのが世話の焼き甲斐があっていいのかもって聞かれるたびに言ってやったもんだ。
学校を卒業して、職場で出来た彼氏は浮気を繰り返す。
いい加減腹が立ったので別れ話をしたら、私はセカンドだったって抜かしたのでぶん殴ってそれっきり。
それ以来、彼氏は居ない。
ルックスのいい男は私を不安にさせるから、もういいやって思ったり。
仕事も面白かったし、自分磨きに習い事をしたりしていた。
ユキは順調に、たまにはテルのとんでもない言動で別れる寸前まで行くけど、テルがごめんとひと言謝れば、今回だけだよって結局許して仲良くやっていた。
でも、10年も経つと、この歪な関係にも終わりがやってきた。
テルが裏切ったんだ。しかも、ユキの会社の後輩の女に子供まで作って。
…………まぁ、あとでその女がとんでもない女で、出来たっていう子どももテルのじゃなかったって話だったけど。
しかし、今考えてもあの女、何がやりたかったんだろう。
ま、その結果ユキはテルっていうダメンズと手を切れたし、マサキさんっていうユキを一途に思ってくれる彼氏にも出会えたしでハッピーエンド、なんだけど。
ただ、やっぱり私は、変化なし……って思ってた。
ユキにかかわる一件で、よく商店街のメンバーと飲み会に行くことになって。
すごく気のいい奴らで飲んでて楽しくて、ついつい通っちゃうんだよ。
で、いつからか気になりだした、チラチラと感じる視線。
ユキにあの人誰?って聞くと、電気屋のエイジさんだよって教えてくれた。
なんか、タヌキの置物みたいですごく可愛い。内気そうで誠実そうで、女に慣れていなさそう。
その後もなんか、チラチラと視線を感じるのでどうかしました?って聞いても視線を背けたり別の人に話しかけたりであんまし会話にならない。
ユキに、エイジさんのことを聞くようになった。
電気屋のひとり息子でお父さんと一緒に取りつけや修理なんかを手伝ってるんだって。
ちょっと気になるんだよねって八百屋のタカシさんに話を聞いてみると、なんか含みのあるような笑顔で、私を見た後にエイジはイケメンってわけでもないし、ちょっといじけやすい性格なんだといった。仕事のことに関してはすごく腕が良くて、近所のおばあちゃんたちからは分からないことをわかるまで根気強く親切に教えてくれるって評判がいいらしい。
頼まれたら、修理行った先で伸びすぎた植木を切ってあげたり、棚を作ってあげたりと他の電気屋さんではありえないサービスをしてくれるから、高齢者の世帯はエイジの電気屋さんから離れないって。
自分に自信がないから、彼女が出来ない事をルックスのせいって言ってるけど付き合ったら大事にしてくれるし結婚するには一番安定した相手だと思うよと笑顔でオススメしてくるタカシさん。
でも、話しかけてもまともに会話できないんだよね。
どうしたものかと話したら、タカシさんにアドバイスしてもらった。
家で壊れた電化製品が有ったら、修理をお願いしたらいいって。それが話の糸口になるだろうし、直ったらそれはそれでラッキーじゃんって。
さっそく家の中を探してみると、おじいちゃんが動物アレルギーの私に買ってくれた犬のロボットがあった。すぐに飽きちゃっておじいちゃんが代わりに可愛がっていたけど、もう充電も出来なくなって動かなくなったからそのまま納戸に入れっぱなしにしていた奴。
軽い気持ちでエイジさんにお願いしたら、自分の家で扱ってるメーカーの物でもないし難しいって言われて、ああ、やっぱり無理かってちょっと落ち込んだら、見てみないとわかんないけどって一応引き受けてくれた。
埃だらけだったから、きれいに磨いて充電器とか付属品とかそろえて持って行く。
どんなふうに仕事に取り組むのか、見てみたくて何かお手伝いしましょうか?って提案したけど、断られた。
真剣な表情のエイジさん、いつものふわふわした表情じゃなくてギャップにドキドキする。
その日は、ユキのところに行ってエイジさんが気になるのって相談してみたらすごく喜んでくれた。
しばらくして、新品同様になったロボット犬を見てなんか胸がいっぱいになってしまう。
おじいちゃんが、犬の散歩がしてみたいけど、動物の毛を吸うと呼吸困難になる私を心配して買ってくれた。お母さんがこんな高いものをって困っていたのを思い出す。
ロボット犬、その時25万とかしたんだよ。出始めの時だったし。
値段知らなかったから、飽きちゃったって遊ばなくなったって言ったのをお母さんに怒られたのが今ならわかる。ああ、おじいちゃんに可愛がられていたんだなって今更ながらに泣けてきた。
その涙を見てエイジさん、おじいちゃんの形見だもんね、と笑ってくれた。
その笑顔が何とも言えなく胸に突き刺さった。
その後、いろいろとユキの一件が解決したあと、ユキとマサキさんが付き合うことになったって報告してくれて。
なんだか幸せそうで、テルのバカはこんないい女と別れたんだなって自業自得とはいえ可哀想になった。
そして、私もやっぱり「じゃない方」からサヨナラ出来ずにいる現実にどんよりとしてしまってた。
その時、仕事終わりで合流したエイジさんが、しばらくタカシさんと話をしていたのは知っていたけど、こっちに向かって何か思いつめたようにやってきた。
「こ、こんにちわ!!来てたの?!一緒に飲まない?」
「いいよ、こっち来る?」
いつもの合流の時の決まり文句。
一緒に飲まないって来て、いいよこっち来る?って返す。
時代劇の合言葉、「山!」「川!」みたいな定番のあいさつ。
でも、今日のエイジさん、なんかいつもと違った。
もじもじしているけど勇気を出して言ってくれた。
「いや、あの、ふたりきりで……カウンターで……」
最後は小さくなっていくそのセリフに、カチリ、と何かが変わった音がした気がする。




